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大陸記  作者: 昼寝猫
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第一話 冒険者

「やっと見つけたな」

「ああ、すぐに仕掛けるぞ」

 二人の若者が言葉を交わす。

 ヴェルスクの街の南に位置する山の中に、二人はいた。

 一人はその背に大剣を背負った大柄な若者、もう一人は、まだ少年の頃の面影が残っているような若者で、腰には両手でも片手でも扱える剣、バスタードソードを提げていた。

 二人は共に、動きやすそうな革鎧を身に着けていた。

「おいおい、ちっとばかし気が早くないか。ま、太陽が高い今が奇襲を仕掛けるには絶好のタイミングなのは間違いないがよ」

 大剣を背負った若者が苦言を呈する。

 常識で考えれば、闇夜に紛れて仕掛けるのが奇襲の鉄則だろう。だが、二人の目が捉えているのは、日が暮れてからがもっとも活発に活動する妖魔たちの一種族、ゴブリンの住み着いた洞窟であった。

「時間を掛けても、奴らにとって都合がよくなる可能性のほうが高い、仕掛けるならまだ気づかれてない今しかない」

「気付かれたら、元も子もないってのは間違いないか、了解だ」


 二人はヴェルスクの街を拠点にしている冒険者であった。

 近くの山の中に出来たゴブリンの巣を掃討してほしいと言う、近隣の村から出された依頼を受けたのは2日前、山に到着したのが昨夜、猟師が見たと言うゴブリンが逃げた方向から、巣の位置を予想し、捜索を始めたのがこの日の朝からであり、今はちょうど太陽が中天に差し掛かろうかと言う時間であった。


「幸い見張りは一匹だけか。俺はこいつで見張りをしとめる、フェイル、お前は切り込んでくれ」

 大剣を背負った青年がクロスボウに矢を番えながら、もう一人の若者、フェイルに声を掛ける。

「分かった、手順はいつもどおりに行く。しくじるなよ、ネッド」

 明らかに年下に見えるフェイルが青年、ネッドを呼び捨てにするあたり、どうやら二人にそれほどの年の差はないようだった。


 二人は森に身を隠しながら別々の方向から静かに洞窟へと接近する。

 一息に駆け込める距離まで近付いてから、フェイルはわざと小さく音を立てる。

 見張りのゴブリンの注意がそちらに向いた、その瞬間、ネッドの放った矢がゴブリンの急所を捉え、絶命させる。それと同時に、フェイルは剣を抜いて洞窟の中に乗り込み、僅かにいた眠っていないゴブリンたちに斬りかかり、剣から薄蒼い残光を残しながら手早く始末していく。

 ようやく物音に気が付いてゴブリンたちが目を覚まし始めるが、その時には生き残っているゴブリンの数は三分の二ほどにまで減っていた。

 それを見たフェイルは洞窟の外へと素早く後退し、そこで剣を構える。

 怒りに燃えたゴブリンたちは、それぞれの手に武器を持ち、フェイルを追う。

 そして、ゴブリン達がフェイルに追いつき、包囲しようと動き始めたその瞬間、包囲の一角にいたゴブリン数匹が血飛沫を上げて倒れる。

 いつの間にか、移動していたネッドが大剣を振るったのだ。

 思いもかけぬ方向からの襲撃に混乱するゴブリンたちを、二人の戦士が殲滅するのに、さほど時間はかからなかった。


「これで全部か?」

 大剣を肩に担いでネッドが尋ねる。

 足元には、今しがた斬り殺したゴブリン達の躯が横たわっている。

「ああ、20匹そこそこの群れだと言う情報が正しければ、これがほとんどだろう」

「じゃ、戻って報告に…」

 言いかけたネッドの言葉が止まる。

 漂ってくる殺気を二人の戦士は捉え、ゆっくりと洞窟に目を向ける。

 殺気の主は未だ洞窟の中だが、その影を見ただけでも、ゴブリンとは別の何かだと理解できるほどの巨体だった。

 ネッドが苦笑しながらその巨体に向けて剣を構えながら、言葉を続ける。

「…とは、行かないみたいだな」

「ああ、後で追加報酬の請求をするためにも、どうやら、アレを倒す必要があるらしいな」

 フェイルもまた、手にした剣を、洞窟から出てきた巨大な影、オーガーに向けて構える。

 ゴブリンよりも上位に位置する妖魔であるオーガーは、稀に、ゴブリンの群れを率いる事がある。

 その場合、この狂暴な妖魔はゴブリンたちにとって絶対的な力を持つ恐るべき暴君であると同時に、群れを守ってくれる守護者とでも言うべき存在にもなる。

 今回は、どうやらその稀な例だったようである。


 自らの奴隷を皆殺しにされたかの暴君は、ひどく立腹であった。

 己が領地を汚した小癪な二匹の人間に、その罪を購わせんと言わんばかりに、怒りの咆哮を上げた。

「グルオォォォォッ!」

 その咆哮を合図に戦いは始まった。

 見るからに強そうに見えるネッドを最初の獲物に選んだらしいオーガーは、見かけによらぬ俊敏な動きで間合いを詰め、手にした大槌をネッドめがけて振り下ろす。

「チッ!」

 舌打ちしながらネッドは槌を大剣で切り上げ迎え撃つ。

 激しい金属音とともに火花が散り、ネッドは強制的に後に下がらせられながらもその一撃をやり過ごし、大槌の一撃が地面を穿つ。

 この場合、単純な膂力の差だけではなく、武器の質量と、踏み込みに寄る重さ乗った打ち降ろしの威力が、不完全な態勢からの切り上げに対して勝ったと見ていいだろう。

「やっぱとんでもねぇ馬鹿力だぜ!」

 下手をすれば剣は無事でも腕の骨を折られ、そのまま脳天を砕かれかねなかったにも拘わらず、ネッドには悪態を付く余裕があった。

 攻撃を外したオーガーの態勢が乱れた隙を、フェイルが逃すことなく懐に飛び込み、胴を払う。

 必殺の一撃に見えたその一撃は、オーガーの腹に赤い斬線を描く、が、浅くその皮を裂いたに留まった。フェイルの動きに気付いたオーガーが身を逸らしたからだ。

 反撃とばかりにオーガーは丸太のごとき太さの脚を蹴り上げる。フェイルは屈んでかわし、軸足を狙うが、剣を振るう直前で悪寒を感じ、そのまま斜め前に飛び込むようにして転がり、距離を取る。

 直前までフェイルの居た場所には、オーガーの踵が減り込んでいた。

 「こいつ…っ!」

 ネッドが驚愕の声を上げ、

「ああ、相当な手練だ」

 オーガーがネッドを警戒している間にフェイルは体勢を立て直し、冷静に応じる。

 この狂暴な妖魔の多くは、武器を持っていれば武器を、武器がなければその両腕を力任せに振るうのが常であった。

 しかし、このオーガーは武器を持ちながら相手の意表を突いた蹴りを放っただけでなく、そのまま踵を落とすと言うまるで格闘家のごとき動きを見せたのである。相当な数の戦いを潜り抜けている事が窺い知れた。


 二人は、妖魔の隙をうかがいながら、じりじりと、間合いを狭める。

 オーガーもまた、この二匹の人間が今までに獲物としてきた人間と違って容易い相手ではないと認識したのか、幾分慎重に武器を構える。


 フェイルが、一瞬、剣を僅かに動かし目配せすると、ネッドは苦々しげに頷く。

 それを見たフェイルが電光のごとき速さでオーガーに向けて踏み込み切り上げる一撃を放ち、迎え撃つようにオーガーもまた大槌を振り下ろし、互いの武器の軌道が重なり噛み合う。

 最初の打ち込みの攻守を入れ替えただけにしか見えないその攻撃に、オーガーは自らの勝利を確信していた。

 最初の相手であったネッドと違い、さほど大柄でもないフェイルが扱う武器は大剣よりも一回り小振りなバスタードソードであり、体格の差、武器の重量の差はは歴然だったからである。

 だが、次の瞬間、フェイルはオーガーの一撃を受け流しながら刃を引き抜くように走らせる。

 耳障りな金属音とともに、二つの影が交錯し、黒い何かが宙に飛ぶ。

 それはオーガーの持っていた大槌の、その先端であった。

 予想外の結果に一瞬の、しかし、決定的な隙がオーガーに生まれる。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 気合の声を上げ、ネッドがその大剣を振りかぶり、渾身の一撃をオーガーに見舞う。

 オーガーは辛うじて、残っていた柄の部分で受け止めるが、武器の重さが十分に乗った一撃はその動きを完全に止め、態勢を崩すには十分であった。そしてオーガーの思考からフェイルの事を考える余裕が完全に消える。

 力任せにネッドを振り払ったその直後、剣を袈裟斬りに振るうフェイルの姿をオーガーは見る。

 そして次の瞬間、まるで吸い込まれるように剣はオーガーの首筋に叩き込まれた。

 空と地面がめまぐるしく入れ替わり、その中に頭部を失った己の体が崩れ落ちるのを見ながら、オーガーの意識は闇に落ちて行った。



「流石に効くな。やっぱあいつらの腕力は常識はずれだぜ」

 ネッドが起き上がりながら呻く。

「オーガーに力任せに吹っ飛ばされて、それで済むお前の頑丈さの方が常識はずれだと思うがな」

 やや呆れながらフェイルが応じる。

「うるせぇよ、鉄製の武器をぶった切るなんてなお前の作戦も十分常識はずれだろ」

「乗った奴が言えたことか」

 ネッドは軽口を叩きながら、オーガーの大槌を両断し、その首をも刎ねたフェイルの剣をしげしげと見る。

 銀色の刀身は長さも厚みも剣としては十分にあるが鉄製の武器を両断出来るほどに無骨でもなく、また、今しがた首をはねたとは思えぬ程に、血糊の一滴すら付いていなかった。

 仄かに蒼く輝いて見えるそれが、この剣が魔力を秘めた武具、魔剣であることを示していた。

「相変わらず、とんでもない剣だな、そいつはよ」

 羨望と、幾分かの畏怖を込めながら、ネッドが呟く。

「全くだ。親父も、どこでこいつを手に入れたのか? ついでに、これほどの代物を何で倉庫の端に隠すように置いてたのか? この辺りを是非聞きたい所だ。とは言え、流石にあの世にいる親父にはもう聞けないのが残念だがな」

「師匠は、昔の事話したがらねぇ人だったしな」

 二人の間に、故人を思ってか僅かな沈黙が流れる。

「今はそれより仕事が優先だ。少しばかり荷物が増えたが、手分けして持って帰ろう」

「だな。上乗せ分に期待して、今夜はパーッとやろうぜ」

 フェイルが沈黙を振り払うように言うと、ネッドもまた気分を切り替え、ニヤリと笑う。

 二人はゴブリンの首とオーガーの首を持ってきた皮袋に手際よくしまい、帰路に着いた。

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