エピローグ チェーンの彼方
数日後。 五代の遺産相続騒動は、意外な結末を迎えた。 栞は、父親から託された三千億円相当のビットコインを、ほぼ全額寄付したのだ。 寄付先は、誠実なIT技術者を育成するための海外の多数の育英財団と慈善団体。配偶者か子供である保有者を介する遺贈の場合は、国際法上、相続税が無税になる団体を選んだ。 「父のような、純粋な技術者を育てるために使ってほしい」という彼女の願いだった。
国税局も、アノニマス・ダークも、手出しはできなかった。 金は分散され、ブロックチェーンの海へと溶けていった。
九頭龍の事務所。 報酬として受け取ったビットコインを確認しながら、九頭龍はコーヒーを啜っていた。
「……結局、金は巡るものか」
モニターの中で、五代が遺したプログラムコードが静かに明滅している。 それはまるで、死んだ王が最後に残した、悪戯っぽいウィンクのように見えた。
九頭龍はキーボードを叩き、依頼完了の報告書を作成した。 デジタル遺品整理士。 それは、死者の想いを、生者の未来へと繋ぐ仕事だ。
窓の外には、冬の青空が広がっていた。 見えないデータ(資産)が飛び交う空の下で、九頭龍は次の依頼を待っていた。
(完)
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。




