表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗号資産ミステリー『コールド・ウォレット』  作者: 如月妙美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第四章 最後のパスワード

小章① 逆転のロジック

 「待てよ、犬飼さん」

 床に押さえつけられたまま、九頭龍が笑った。

「何がおかしい」

「その秘密鍵、本当に入力していいのか? 五代剛造という男を甘く見ないほうがいい」

 犬飼は鼻で笑い、押収した秘密鍵を、持参した自分の端末に入力した。  五代のウォレットにアクセスする。  画面に、残高が表示された。

 『Balance: 0.00000000 BTC』

「な、なんだと!?」

 犬飼が絶叫した。  ゼロ。  三千億円があるはずのウォレットは、もぬけの殻だった。

「どういうことだ! 貴様、データをすり替えたな!」

 犬飼が九頭龍の胸ぐらを掴む。

「違う。……五代は、秘密鍵を『分割』していたんだ」

 九頭龍は冷静に言った。

「カセットテープに入っていたのは、鍵の半分ハーフ・キーだけだ。残り半分は、別の場所に隠されている。そして、その場所を知るヒントは、このテープの『音声』そのものにあったんだ」

 九頭龍は、まだ再生されていたカセットテープの音に耳を澄ませた。  電子ノイズの合間に、微かに聞こえるメロディがあった。  それは、古いアニメソングのオルゴール音。

「『鉄腕アトム』……」

 栞が呟いた。

「父が、私が小さい頃によく歌ってくれた歌……」

 九頭龍は頷いた。

「アナログの鍵は二つあったんだ。一つはカセットテープ。もう一つは……栞さん、君の記憶の中だ」


小章② 親子の絆

 犬飼たちが呆然としている隙に、九頭龍は隠し持っていたスタンガンを起動し、押さえつけていた男に押し当てた。  男が痙攣して倒れる。  九頭龍は栞の手を引き、煙幕を焚いて部屋を脱出した。

 ビルの屋上へ駆け上がる。  雨は上がっていた。東京の夜景が広がっている。

「栞さん、思い出してくれ。お父さんと過ごした場所で、『アトム』に関係する場所はないか?」

「アトム……。……あ!」

 栞が顔を上げた。

「秋葉原のガード下! 父が昔、露店を出していた場所。あそこの柱に、アトムのシールが貼ってあった……」

 二人は秋葉原のガード下へと走った。  再開発が進む中、奇跡的に残っていた古いコンクリートの柱。  その裏側に、色褪せたアトムのシールがあった。  九頭龍がシールを剥がすと、コンクリートの窪みに、小さなマイクロSDカードが埋め込まれていた。

 九頭龍はスマホにSDカードを差し込み、カセットテープから抽出したデータと結合させた。  『マルチシグ(複数署名)』認証が完了する。

 画面に、真の残高が表示された。  『30,000 BTC』。現在のレートで約三千億円。

「あった……」

 栞が震える手で画面に触れた。

「お父さん、これを私に……」

 五代は、家族を捨てたわけではなかった。  金に群がるハイエナたちから資産を守り、本当に信頼できる娘だけに託すために、こんな手の込んだ仕掛けを用意したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ