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異世界クラス転移戦記  作者: 膝栗毛


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9/11

クラスメイト1

引き継ぎお楽しみください


1

作戦本部では、マルクスが険しい表情で地図を睨んでいた。

「カッシウスは、東の街道に陣を張っている」

マルクスが、地図上の一点を指した。

「兵力は?」

「約千五百。それに――」

ルキウスが、暗い顔で続けた。

「元老院のアウグストゥス派が、支援を表明しています」

「元老院が!?」

「はい。彼らは、新体制を認めていません。ガイウス前皇帝の復位を望んでいる」

つまり、内戦だ。

帝国が、二つに割れた。

「我が軍は?」

「第三軍団残党五百、投降した親衛軍団約千、新たに集まった志願兵が三百。計千八百」

数では、わずかに上回っている。

だが――

「問題は、市民の支持です」

マルクスが、重々しく言った。

「カッシウスは、"正統な皇帝を守る義軍"と自称している。一部の市民は、それを支持している」

「では、我々は?」

「"反逆者"だ」

マルクスは、苦笑した。

「歴史は、勝者が書く。今、我々が負ければ、永遠に反逆者のままだ」

俺は、地図を見つめた。

カッシウスの陣地。

東の街道。

首都と東方を結ぶ、重要な補給路だ。

「もし、カッシウスがここを押さえ続ければ?」

「首都は、孤立する」

マルクスが答えた。

「東方からの食料、物資が入らなくなる。一ヶ月も持たない」

「なら、戦うしかない」

「ああ」

マルクスは、剣を手に取った。

「明日の夜明けと共に、出陣する」

2

その夜、クラスメイトたちの宿舎で、緊急の集まりが開かれた。

全員が、不安そうな顔をしている。

「また、戦争なの?」

女子の一人が、震える声で言った。

「やっと自由になったのに……」

「仕方ないだろ」

山田が、答えた。

「カッシウスが攻めてくるんだから」

「でも、私たちは関係ないでしょ? もう自由の身なんだから、逃げようよ」

「逃げてどこ行くんだよ」

「どこでもいいじゃん! この街を出て――」

「無理だ」

俺が、口を開いた。

「カッシウスが勝てば、異界者徴用法が復活する。俺たちは、また奴隷になる」

「そんな……」

「だから、マルクス将軍を支援しなきゃいけない」

「支援って……」

麗華が、心配そうに俺を見た。

「桐谷、あなた、また戦場に行くの?」

「ああ。参謀として」

「危ないよ!」

「分かってる。でも、行かなきゃいけない」

その時、佐藤が立ち上がった。

「俺も、行く」

「佐藤?」

「お前一人に、任せられるか」

佐藤は、照れくさそうに頭を掻いた。

「俺、訓練は受けてないけど……剣くらいは振れる」

「馬鹿言うな。お前、まだ怪我が――」

「治った」

佐藤は、包帯を外した。

「もう大丈夫だ」

「俺も行く」

山田が、手を上げた。

「兵士訓練、受けてたからな。少しは役に立つだろ」

次々と、手が上がった。

男子の半分以上が、参加を表明した。

だが――

「待って」

一人の男子、長谷川が立ち上がった。

クラスの優等生。成績優秀で、冷静な性格。

「僕は、反対だ」

「なんでだよ」

「僕たちは、この世界の人間じゃない。帝国の内戦に、関わるべきじゃない」

長谷川は、真剣な目をした。

「桐谷、君は参謀として活躍した。それは認める。でも――」

「でも?」

「君のせいで、僕たちはこの世界に深く関わりすぎた」

長谷川の言葉が、重く響いた。

「君が帝国に協力したから、異界者徴用法ができた。君がクーデターに参加したから、僕たちは内戦に巻き込まれた」

「長谷川……」

「君は、いつも"みんなを守る"って言う。でも、本当にそうか?」

長谷川は、俺を指さした。

「君がやってるのは、この世界での成功だ。元の世界に帰ることを、忘れてないか?」

沈黙。

痛いところを突かれた。

確かに――

俺は、この世界で参謀として活躍することに、夢中になっていた。

元の世界に帰ること。

それが、本来の目的だったはずなのに。

「長谷川の言う通りだ」

別の男子が、同意した。

「俺たちは、帝国のために戦うべきじゃない。中立を保って、帰る方法を探すべきだ」

クラスが、二つに割れ始めた。

戦う派と、中立派。

3

「みんな、落ち着いて」

麗華が、立ち上がった。

「喧嘩してる場合じゃないでしょ」

「でも、麗華。長谷川の言うことも、一理ある」

女子の一人が、言った。

「私たち、本当に元の世界に帰れるの? それとも、このままこの世界で生きていくの?」

「帰れるよ」

俺は、答えた。

「マルクス将軍が、古文書を調べてる。転移の方法が、書いてあるらしい」

「"らしい"って……」

「まだ、確定じゃないのか?」

「確定じゃない。でも、可能性はある」

「可能性だけで、僕たちは命を賭けられない」

長谷川が、きっぱりと言った。

「桐谷、君は戦場に行けばいい。でも、僕たちを巻き込まないでくれ」

「巻き込んでない。参加するかどうかは、みんなの自由だ」

「本当に?」

長谷川は、冷たい目をした。

「君がマルクスに協力すれば、マルクスは勝つかもしれない。でも、負けたら? 君に協力しなかった僕たちも、連帯責任で処刑されるんじゃないか?」

「それは――」

「君は、いつもそうだ。自分の判断を、正しいと思い込んで、みんなを危険に晒す」

長谷川の言葉が、胸に突き刺さった。

「俺は……そんなつもりじゃ」

「つもりじゃなくても、結果的にそうなってる」

長谷川は、他のクラスメイトたちを見回した。

「みんな、考えてくれ。桐谷についていくことが、本当に正しいのか」

空気が、重くなった。

4

集まりは、結論が出ないまま終わった。

クラスは、完全に二分された。

桐谷支持派:約半数。山田、佐藤、麗華など。

中立派:約半数。長谷川を中心とした、慎重な者たち。

俺は、一人で屋上に上がった。

夜風が、冷たい。

星空が、綺麗だった。

「……疲れたな」

呟いた。

長谷川の言葉が、頭から離れない。

俺は、本当にみんなを守っているのか。

それとも、自己満足なのか。

「桐谷」

背後から、声がした。

振り返ると、麗華が立っていた。

「一人でいると思った」

「……ごめん。みんなを、混乱させて」

「謝らないで」

麗華は、横に座った。

「あなたは、間違ってない」

「でも、長谷川の言うことも――」

「正しい」

麗華は、頷いた。

「長谷川の言うことも、正しい。でも、あなたの選択も、正しい」

「両方正しいって、どういうこと?」

「正解なんて、ないんだよ」

麗華は、空を見上げた。

「この状況で、完璧な答えなんてない。どっちを選んでも、リスクはある」

「じゃあ、どうすれば――」

「自分を信じるしかない」

麗華は、俺を見た。

「あなたは、今まで結果を出してきた。東方遠征、投石機、夜襲、クーデター――全部、成功させた」

「でも、それで多くの人が死んだ」

「死ななかった人も、たくさんいる」

麗華は、優しく言った。

「完璧じゃなくていい。あなたは、できる限りのことをしてる。それで、十分だよ」

涙が出そうになった。

「……ありがとう」

「それに」

麗華は、少し笑った。

「私は、あなたを信じてる。だから、ついていく」

「危ないかもしれないのに?」

「危なくても、一緒がいい」

麗華の言葉が、胸に染みた。

「麗華……」

「だから、頑張って。私たちを、元の世界に連れて帰って」

「……ああ。約束する」

5

翌朝、マルクスの軍が出陣した。

千八百の兵士たち。

その中に、俺と山田、佐藤の姿もあった。

「桐谷、本当についてくるのか」

マルクスが、心配そうに尋ねた。

「はい。参謀として」

「お前の仲間たちは、反対していたのではないか」

「半分は、反対してます。でも、半分は、支持してくれてます」

俺は、マルクスを見た。

「俺は、将軍を信じてます。だから、一緒に戦います」

マルクスは、しばらく俺を見つめてから、頷いた。

「……分かった。では、頼む」

軍は、東へ向かって進んだ。

二日後、カッシウスの陣地が見えてきた。

丘の上に、整然と並ぶ軍勢。

約千五百。

数では、こちらが上回っている。

だが――

「将軍、あれを」

ルキウスが、指差した。

カッシウスの陣営の後ろに、豪華な天幕が見えた。

金色の旗が、風になびいている。

「まさか……」

マルクスの顔が、青ざめた。

「ガイウス前皇帝が、いる」

6

「皇帝陛下が、自ら戦場に?」

「いや、違う」

マルクスは、望遠鏡で確認した。

「旗を掲げているだけだ。皇帝を"象徴"として利用している」

「つまり、士気を高めるため?」

「そうだ。カッシウスは、"正統な皇帝のために戦う"という大義名分を示している」

厄介だ。

大義名分がある軍は、強い。

「どうされますか、将軍」

「陣を張る。そして――」

マルクスは、俺を見た。

「桐谷、策はあるか」

俺は、戦場を見渡した。

地形、敵の配置、風向き、太陽の位置――

そして、ある策を思いついた。

「将軍、一つ提案があります」

「聞かせてくれ」

「戦う前に、交渉しましょう」

「交渉?」

「はい。カッシウスと、直接話すんです」

マルクスは、眉をひそめた。

「カッシウスが、応じるとは思えないが」

「でも、試す価値はあります」

俺は、説明した。

「カッシウスの軍には、元親衛軍団の兵士もいるはずです。彼らの中には、マルクス将軍に共感している者もいる」

「それが?」

「交渉の場で、将軍が直接語りかければ、彼らの心が揺らぐかもしれません」

「なるほど……」

マルクスは、考え込んだ。

「だが、危険だ。交渉の場で、暗殺される可能性もある」

「なら、俺が行きます」

「桐谷?」

「俺は、子供です。暗殺するほどの価値もない」

俺は、笑った。

「それに、参謀として、交渉もできなきゃダメでしょ」

マルクスは、しばらく黙っていたが――

「……分かった。だが、護衛をつける」

「お願いします」

7

交渉の使者として、俺はカッシウスの陣営に向かった。

護衛は、セウェルスと五名の兵士。

白旗を掲げて、ゆっくりと進む。

カッシウスの陣営の前で、止まった。

「使者だ! カッシウス殿に、会談を申し込む!」

セウェルスが、大声で叫んだ。

しばらくして、陣営から騎兵が現れた。

「何の用だ」

冷たい声。

「マルクス将軍の使者として、会談を申し込みに来た」

「会談? 笑止な」

騎兵は、鼻で笑った。

「反逆者との会談など、ありえん」

「では、無駄な血を流すつもりか」

俺が、前に出た。

「俺は、第三軍団参謀、桐谷蒼太だ。カッシウス殿に、伝えてくれ」

騎兵は、俺を見下ろした。

「……貴様が、噂の異界の少年か」

「そうだ」

「子供が、戦場に出るとは。マルクスも落ちたものだな」

「子供だからこそ、言える」

俺は、真っ直ぐ騎兵を見た。

「この戦いは、無意味だ。帝国市民が、帝国市民を殺す。誰も得をしない」

「黙れ。貴様に、何が分かる」

「分かる。俺は、戦場を見てきた」

俺の声が、強くなった。

「無駄な死を、たくさん見てきた。もう、これ以上は見たくない」

騎兵は、黙った。

そして――

「……待て。カッシウス殿に、伝えてくる」

騎兵が、陣営に戻った。

8

一時間後、俺たちはカッシウスの天幕に通された。

中には、カッシウスが待っていた。

そして――

その横に、ガイウス前皇帝が座っていた。

「……陛下」

俺は、驚きを隠せなかった。

ガイウスは、憔悴していた。

髪は乱れ、目には光がない。

「桐谷、か」

ガイウスが、弱々しく言った。

「貴様も、マルクスに騙されたのだな」

「騙されてなんかいません」

俺は、きっぱりと言った。

「俺は、自分の意思でマルクス将軍についています」

「愚かな……」

ガイウスは、力なく笑った。

「マルクスは、反逆者だぞ。貴様も、反逆者になるつもりか」

「陛下」

俺は、前に出た。

「あなたは、北方遠征で千二百の兵を死なせました。その責任を、マルクス将軍に押し付けました」

「それは――」

「あなたは、異界者徴用法を作り、俺たちを奴隷にしました」

俺の声が、震えた。

「あなたは、帝国のために何をしましたか? 自分の権力を守るために、何人を犠牲にしましたか?」

「黙れ!」

カッシウスが、剣を抜いた。

「皇帝陛下への侮辱は、許さん!」

「待て、カッシウス」

ガイウスが、手を上げた。

「……少年の言う通りだ」

「陛下?」

「私は、失敗した」

ガイウスは、自嘲的に笑った。

「皇帝として、失格だった」

沈黙。

ガイウスは、俺を見た。

「だが、それでも――私は、皇帝だ。神に選ばれた、唯一の統治者だ」

「それは、違います」

俺は、答えた。

「皇帝は、神に選ばれるんじゃない。人々に選ばれるんです」

「人々に……?」

「そうです。人々が支持しない皇帝は、もう皇帝じゃない」

俺は、カッシウスを見た。

「カッシウス殿、あなたは本当にこの人のために戦うんですか? 失敗した皇帝のために?」

カッシウスは、黙っていた。

「それとも――」

俺は、続けた。

「自分の地位を守るために、戦うんですか?」

カッシウスの目が、揺れた。

9

「……小僧」

カッシウスが、低い声で言った。

「貴様、私を侮辱するか」

「侮辱じゃありません。事実を言ってるだけです」

俺は、一歩も引かなかった。

「あなたは、元老院のアウグストゥス派に支持されている。彼らは、新体制を認めたくない。だから、あなたを利用している」

「黙れ」

「あなたも、それを分かってるはずです」

俺は、カッシウスを真っ直ぐ見た。

「でも、あなたは軍人だ。誇り高い軍人だ。本当は、こんな政治闘争に関わりたくないはずだ」

カッシウスは、拳を握りしめた。

「……貴様に、何が分かる」

「分かります。マルクス将軍も、同じだったから」

俺は、静かに言った。

「将軍も、政治闘争に巻き込まれた。皇帝への忠誠と、兵への責任の間で、苦しんだ」

「マルクスは、皇帝を裏切った」

「違います。皇帝が、兵を裏切ったんです」

俺の言葉が、天幕に響いた。

「カッシウス殿、あなたの部下たちを見てください。彼らは、何のために戦うんですか? 失敗した皇帝のため? 腐敗した元老院のため?」

カッシウスは、答えなかった。

「それとも――」

俺は、最後の言葉を放った。

「帝国の未来のために、戦うんですか?」

沈黙。

長い、重い沈黙。

そして――

カッシウスが、剣を鞘に収めた。

「……帰れ」

「え?」

「会談は、終わりだ。帰れ」

カッシウスは、背を向けた。

「だが――」

カッシウスが、振り返った。

「明日の正午まで、時間をやる。それまでに、マルクスが撤退すれば、見逃す」

「撤退……?」

「それが、私からの提案だ」

カッシウスは、複雑な表情をした。

「これ以上、帝国市民同士で血を流したくない」

俺は、カッシウスの目を見た。

その目には――

迷いがあった。

揺らぎがあった。

「……分かりました。伝えます」

俺は、天幕を出た。


次回もお楽しみに

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