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異世界クラス転移戦記  作者: 膝栗毛


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8/11

帝国内部の闇4

引き継ぎお楽しみください

27

首都に戻ると、街は混乱に包まれていた。

松明の明かりが、あちこちで揺れている。

兵士たちの怒号、剣がぶつかり合う音、悲鳴――

クーデターは、すでに始まっていた。

「桐谷殿! こちらです!」

ルキウスが、手を振っていた。

俺は、佐藤を抱えたまま駆け寄った。

「状況は!?」

「将軍は、宮殿を制圧しました! 皇帝陛下は――」

ルキウスは、複雑な表情をした。

「捕らえられました」

成功したのか。

だが、ルキウスの表情が晴れない。

「何かあったんですか?」

「親衛軍団が、反撃してきています。カッシウスが指揮を取って」

まずい。

親衛軍団一万vs第三軍団残党五百。

数で圧倒的に不利だ。

「佐藤を、医療班に!」

俺は、佐藤を兵士に託した。

「桐谷……お前、どこ行くんだ……」

「マルクス将軍のところだ。すぐ戻る」

宮殿に向かって走った。

28

宮殿の謁見の間。

マルクスが、玉座の前に立っていた。

その足元には――

皇帝ガイウスが、鎖で縛られて跪いていた。

「マルクス……貴様……」

皇帝の声は、怒りに震えていた。

「反逆者が……よくも……」

「陛下」

マルクスは、静かに言った。

「あなたは、もう皇帝ではない」

「何を……」

「帝国は、腐っている。あなたの治世で、何千もの兵が無駄死にした。異界の者は奴隷として扱われ、元老院は腐敗に満ちている」

マルクスは、剣を抜いた。

「これ以上、あなたに帝国を任せるわけにはいかない」

「貴様、私を殺すつもりか」

「いいえ」

マルクスは、首を振った。

「殺しはしない。退位していただくだけだ」

「誰が従うか!」

皇帝が叫んだ。

「私は、神に選ばれた皇帝だぞ! 貴様ごときに――」

その時、扉が激しく開かれた。

「将軍! 親衛軍団が、宮殿を包囲しています!」

セウェルスが、血まみれで飛び込んできた。

「数は!?」

「約三千! カッシウスが指揮を取っています!」

マルクスは、歯噛みした。

「思ったより、早い反応だな」

「将軍、どうされます!?」

「籠城だ。宮殿を要塞化する」

マルクスは、俺を見た。

「桐谷、お前の知恵を貸せ」

29

謁見の間が、臨時の作戦本部になった。

マルクスの部下たち、そして救出されたクラスメイトたちが集まっている。

「状況を整理する」

マルクスが、地図を広げた。

「我が軍は、約五百。対する親衛軍団は、三千」

「武器は?」

「宮殿の武器庫を押さえた。剣、槍、弓は十分にある」

「食料と水は?」

「三日分は持つ」

三日。

それまでに、何とかしなければならない。

「親衛軍団の弱点は?」

俺は、地図を見ながら考えた。

「カッシウスは、優秀な軍人ですが――」

「だが?」

「政治的な後ろ盾が弱い。元老院の支持を、完全には得ていない」

「つまり?」

「時間が経てば、元老院が介入してくる可能性があります」

マルクスは、考え込んだ。

「だが、元老院がどちらの味方につくかは、分からない」

「ならば」

俺は、ある提案をした。

「元老院を、こちらに引き込みましょう」

「どうやって?」

「皇帝の罪状を、公表するんです」

俺は、皇帝ガイウスを見た。

「無謀な戦争、兵の使い捨て、異界者の奴隷化――全てを、元老院と市民に伝える」

「それは……」

ルキウスが、不安そうに言った。

「皇帝への侮辱です。市民が、どう反応するか」

「市民の多くは、もう皇帝を支持していません」

俺は、断言した。

「北方遠征の失敗で、皇帝の威信は地に落ちた。今こそ、真実を伝える時です」

マルクスは、しばらく考えてから、頷いた。

「やろう。セウェルス、使者を元老院に送れ」

「了解!」

「そして――」

マルクスは、俺を見た。

「桐谷、お前が文書を書け。皇帝の罪状を、明確に」

「分かりました」

30

俺は、一晩かけて文書を書いた。

『帝国市民への告発文』

皇帝ガイウス・ウァレティウス・カエサルの罪状:

一、北方遠征において、無謀な作戦を強行し、千二百名の兵を無駄死にさせた。

二、異界者徴用法を制定し、異世界から来た無辜の者たちを奴隷として扱った。

三、元老院の意見を無視し、独裁的な統治を行った。

四、失敗の責任を部下に押し付け、自らは何の責任も取らなかった。

五、帝国の栄光よりも、自らの権力維持を優先した。

これらの罪により、我々は皇帝ガイウスを退位させ、新たな統治体制を求める。

――第三軍団長(前)マルクス・アウレリウス・グラディウス

文書は、すぐに複製され、街中に張り出された。

そして――

市民の反応は、予想以上だった。

「皇帝が、そんなことを……」

「北方遠征で死んだ兵士の家族が、どれだけいると思ってるんだ」

「マルクス将軍の方が、正しいんじゃないか」

「異界の者を奴隷にするなんて、野蛮だ」

街は、騒然となった。

そして、元老院も動いた。

31

翌日、元老院から使者が来た。

「マルクス将軍、元老院は中立を保つことを決定しました」

中立。

つまり、どちらの味方もしない。

だが、それは――

「カッシウスへの支援も、しないということですか?」

俺は、確認した。

「その通りです。元老院は、この紛争に介入しません」

使者は、複雑な表情をした。

「ただし、市民の安全を最優先とします。もし、市街地で戦闘が起きれば――」

「我々を、敵と見なす、と」

マルクスが言った。

「……はい」

使者が去った後、マルクスは言った。

「これは、チャンスだ」

「チャンスですか?」

「元老院が中立ということは、カッシウスは孤立している。親衛軍団だけが頼りだ」

「でも、三千もいます」

「ああ。だが、士気はどうだ」

マルクスは、窓から外を見た。

包囲している親衛軍団の陣営が見える。

「彼らは、何のために戦っている? 皇帝のためか? 帝国のためか?」

「……給料のため、ですかね」

俺は、皮肉を込めて言った。

マルクスは、笑った。

「その通りだ。ならば――」

マルクスは、ある策を提案した。

「投降を呼びかけよう。親衛軍団の兵士たちに」

32

その日の午後、マルクスは宮殿の城壁に立った。

下には、親衛軍団が陣を張っている。

「親衛軍団の諸君!」

マルクスの声が、広場に響いた。

「私の名は、マルクス・アウレリウス・グラディウス! 第三軍団の元軍団長だ!」

親衛軍団の兵士たちが、ざわついた。

「諸君は、何のために戦っている!? 皇帝ガイウスのためか!?」

「……」

「皇帝は、北方遠征で千二百の兵を死なせた! そして、その責任を私に押し付けた!」

マルクスの声には、怒りがあった。

「諸君の仲間も、無駄死にしたはずだ! 無謀な命令で、理不尽な戦いで!」

兵士たちの表情が、変わり始めた。

「私は、諸君に降伏を求めない! だが、問う!」

マルクスは、剣を掲げた。

「諸君は、腐った皇帝のために死ぬつもりか!? それとも、帝国の未来のために立ち上がるか!?」

沈黙。

長い、重い沈黙。

そして――

一人の兵士が、剣を地面に突き立てた。

「俺は、もう戦わない!」

「俺もだ!」

「マルクス将軍の方が、正しい!」

次々と、兵士たちが武器を捨て始めた。

「待て! 裏切り者どもが!」

カッシウスが、馬で駆け寄った。

「貴様ら、皇帝陛下を裏切るつもりか!?」

「皇帝は、もう終わりだ!」

一人の兵士が、カッシウスに言った。

「俺たちは、マルクス将軍についていく!」

「黙れ!」

カッシウスが剣を抜いた。

だが――

親衛軍団の半数以上が、すでに武器を捨てていた。

残ったのは、千人ほど。

カッシウスは、歯噛みした。

「……退却だ」

カッシウスは、残った兵を率いて、街の外へと去っていった。

クーデターは、成功した。

33

その夜、宮殿で祝宴が開かれた。

第三軍団の兵士たち、投降した親衛軍団の兵士たち、そして救出されたクラスメイトたち。

みんなが、勝利を祝っている。

だが、マルクスは浮かない顔をしていた。

「将軍、どうかしましたか?」

俺は、彼の隣に座った。

「……桐谷、私は今日、一線を越えた」

「一線?」

「反逆だ。皇帝を倒した」

マルクスは、グラスのワインを見つめた。

「これで、私は反逆者だ。歴史に、名を刻んだ」

「でも、正しいことをしたじゃないですか」

「正しさとは、何だ」

マルクスは、俺を見た。

「私は、忠誠を裏切った。長年仕えた皇帝を、裏切った」

「皇帝が、先に兵を裏切ったんです」

俺は、きっぱりと言った。

「将軍は、兵を守った。それだけです」

マルクスは、少し笑った。

「お前は、優しいな」

「優しくなんかないです。ただ――」

俺は、祝宴を見回した。

笑顔の兵士たち。安心した表情のクラスメイトたち。

「みんなが笑ってる。それが、正しい証拠じゃないですか」

マルクスは、長い沈黙の後、頷いた。

「……そうだな」

「これからが、大変ですけどね」

「ああ」

マルクスは、立ち上がった。

「新しい帝国を、作らねばならない」

34

翌日、緊急の元老院会議が開かれた。

マルクスと俺、そしてルキウスが出席した。

元老院議員たちが、ざわめいている。

「静粛に!」

議長が、ハンマーを叩いた。

「本日の議題は、次期皇帝の選出である」

次期皇帝。

ガイウスは退位させられた。

では、誰が次の皇帝になるのか。

「マルクス・アウレリウス・グラディウス」

議長が、マルクスを指名した。

「貴殿が、皇帝になるべきだという声が多い」

ざわめきが、大きくなった。

「賛成だ!」

「マルクスこそ、皇帝に相応しい!」

「異議なし!」

だが――

マルクスは、首を振った。

「お断りします」

「何?」

議場が、静まり返った。

「なぜだ、マルクス!」

「私は、軍人です」

マルクスは、真っ直ぐ議員たちを見た。

「皇帝になるつもりはありません」

「では、誰が!?」

「元老院が、選ぶべきです」

マルクスは、提案した。

「これからの帝国は、一人の独裁者ではなく、多くの賢者によって導かれるべきだ」

「それは……共和制か?」

「いいえ。皇帝は必要です。だが、元老院の権限を強化し、皇帝の暴走を防ぐ」

マルクスは、俺を見た。

「この少年が、異界の知識から教えてくれました。権力は、分散すべきだと」

俺は、驚いた。

そんなこと、言ったっけ。

いや、確かに――

歴史の話をした時、三権分立について触れたことがある。

まさか、それを覚えていたとは。

「では、誰を皇帝に?」

「それは、元老院が決めてください。ただし――」

マルクスは、条件を出した。

「異界者徴用法は、廃止すること。異界の者たちは、自由の身とすること」

「それは――」

「これは、譲れません」

マルクスの声は、強かった。

「彼らは、帝国の資産ではない。一人の人間です」

元老院議員たちは、ざわざわと相談し合った。

そして――

「分かった。異界者徴用法は、廃止する」

議長が、宣言した。

「そして、新皇帝は――」

議長は、一人の名前を告げた。

「マルクス・アウレリウス・グラディウス、貴殿を摂政とする。そして、ガイウス前皇帝の息子、ルキウス・ウァレティウスを、新皇帝とする」

ルキウス。

まだ十五歳の少年だ。

「マルクス、貴殿が摂政として、少年皇帝を補佐せよ」

マルクスは、しばらく考えてから、頷いた。

「……承知しました」

こうして、新しい帝国が生まれた。

35

クーデターから一週間後。

クラスメイトたちは、全員解放された。

宮殿の一角に、特別な宿舎が用意された。

もう、兵舎ではない。

立派な部屋。自由に出入りできる。

「信じられない……」

麗華が、部屋の窓から街を見ていた。

「本当に、自由になったんだね」

「ああ」

俺も、横に立った。

「でも、まだ終わりじゃない」

「元の世界に、帰る方法?」

「そう」

俺は、マルクスから聞いた情報を伝えた。

「帝国の古文書に、異界転移の記録があるらしい」

「本当に!?」

「ああ。今、マルクス将軍が調べてる。もしかしたら、帰れるかもしれない」

希望。

初めて、確かな希望が見えた。

「桐谷」

佐藤が、包帯を巻いたまま近づいてきた。

「ありがとうな。助けてくれて」

「当たり前だろ」

「いや、俺……お前に、ひどいこと言ったから」

佐藤は、頭を下げた。

「本当に、すまなかった」

「もういいって」

俺は、佐藤の肩を叩いた。

「俺たち、クラスメイトだろ」

佐藤は、笑った。

「ああ、そうだな」

その時、ルキウスが駆け込んできた。

「桐谷殿! 大変です!」

「どうしたんですか」

「カッシウスが、軍を集めています!」

「え?」

「反乱です。新皇帝を認めず、ガイウス前皇帝の復位を掲げて」

まだ、終わっていなかった。

戦いは、まだ続く。

「マルクス将軍は?」

「作戦本部で、待っています」

「分かりました」

俺は、クラスメイトたちを見た。

「みんな、ここにいてくれ。すぐ戻る」

「桐谷、気をつけて」

麗華が、心配そうに言った。

「大丈夫。今度こそ、終わらせる」

俺は、作戦本部へと走った。

戦いは、まだ終わらない。

だが――

今度こそ、本当の平和を。

そして、みんなで元の世界へ。

そのために、俺は戦う。


次回もお楽しみに

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