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異世界クラス転移戦記  作者: 膝栗毛


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5/11

帝国内部の闇1

引き継ぎお楽しみください


1

投石機の建造は、予想以上に難航した。

「もっと支柱を太くしろ! これじゃあ最初の一発で壊れるぞ!」

俺は、作業現場で声を張り上げた。

兵士たちが、汗を流しながら木材を運び、組み立てていく。

設計図は頭の中にある。ゲームで何度も見た投石機の構造。

だが、実際に作るとなると、細かい調整が必要だった。

「桐谷殿、縄の張力はこれでいいですか?」

「いや、もう少し強く。でも、張りすぎると切れるから注意して」

「重りの位置は?」

「そこから、あと三十センチ後ろ」

一週間が過ぎた。

ようやく、最初の投石機が完成した。

高さ約五メートル。長い腕木の先に、石を入れる革袋。反対側には、重りとなる石の塊。

「では、試射を」

マルクスが命じた。

兵士たちが、革袋に石を入れる。

重さ、約三十キロ。

縄を引き、腕木を下げる。

「放て!」

縄が切られた。

重りが落ち、腕木が跳ね上がる。

石が、空高く飛んだ。

弧を描いて――

砦の手前、百メートルほどの地点に落ちた。

地面に大きな穴が開く。

「おおお!」

兵士たちが歓声を上げた。

「すごい威力だ!」

「これなら、城壁を壊せるぞ!」

だが、俺は首を振った。

「まだ、射程が足りない。砦まで届いてない」

「どうすればいい?」

「重りをもっと重くするか、腕木を長くするか――」

調整が続いた。

二週間後、ようやく三台の投石機が完成した。

射程距離、約三百メートル。

砦の城壁に届く。

2

投石機の威力を見せつけるため、実演が行われた。

砦の守備兵たちが、城壁から見守っている。

「全機、斉射!」

三台の投石機が、同時に石を放った。

重い石が、空を飛ぶ。

そして――

ドゴオオン!

三つの石が、城壁に激突した。

石壁が砕け、破片が飛び散る。

城壁に、大きな亀裂が入った。

「うわああ!」

砦の兵士たちが、慌てふためく。

「もう一度!」

マルクスが命じた。

再装填。

そして、二回目の斉射。

さらに城壁が削られる。

完全に破壊するには、まだ時間がかかる。

だが、効果は十分だった。

3

その夜、砦から使者が来た。

「降伏の条件を、話し合いたいと」

マルクスは、俺とルキウスを同席させ、敵の使者と会談した。

使者は、四十代くらいの軍人だった。疲労と緊張で、顔は青ざめている。

「我々は、名誉ある降伏を望む」

使者が言った。

「兵士たちの命を保証してほしい。そして、武器を持ったまま退却することを許してほしい」

マルクスは首を振った。

「武器は没収する。だが、兵士の命は保証しよう。捕虜としてではなく、解放する」

「それでは――」

「ただし」マルクスは条件を付けた。「指揮官は、帝国に忠誠を誓うこと。そして、この地域の統治権を、帝国に譲渡すること」

使者は、苦渋の表情を浮かべた。

「……検討する。明日、返答する」

使者が去った後、マルクスは言った。

「おそらく、受け入れるだろう」

「そう思います」俺は答えた。「城壁が破られれば、全滅は確実ですから」

「戦わずして勝つ。お前の投石機のおかげだ」

「いえ、知識があっただけです。作ったのは、兵士たちです」

マルクスは満足そうに頷いた。

「謙虚だな。それでいい」

翌日、砦は降伏した。

城門が開かれ、武装解除された兵士たちが出てくる。

第三軍団の勝利だった。

4

凱旋の日。

第三軍団は、首都カピトリアに戻った。

市民たちが、街道の両側に並んで歓迎する。

「第三軍団、万歳!」

「マルクス将軍、勝利おめでとう!」

「東方を征服したぞ!」

花びらが撒かれ、歓声が響く。

俺は、マルクスの後ろを馬で進んだ。

こんな歓迎を受けるなんて、夢のようだ。

いや、悪夢かもしれない。

戦争で勝ったことを、こんなに喜んでいいのだろうか。

「桐谷、浮かない顔をするな」

マルクスが振り返った。

「お前も、勝利の立役者だ。胸を張れ」

「……はい」

無理に笑顔を作った。

宮殿に到着すると、皇帝が待っていた。

「よくやった、マルクス」

皇帝ガイウスは、満足そうに頷いた。

「東方の反乱勢力を鎮圧し、新たな領土を獲得した。帝国の栄光は、さらに輝きを増した」

「陛下のご威光の賜物です」

マルクスが膝をついた。

「そして――」皇帝の視線が、俺に向けられた。「異界の少年、桐谷。お前の功績も大きいと聞いた」

「恐れ多いことです」

俺も膝をついた。

「お前に、褒美を与えよう」

皇帝が手を挙げると、侍従が小箱を持ってきた。

「これを」

箱の中には、金貨が詰まっていた。

「そして、正式に"第三軍団参謀"の地位を与える。お前は、もはや客人ではない。帝国の一員だ」

帝国の一員。

その言葉が、重く胸に響いた。

「ありがたく、頂戴いたします」

こうして、俺は正式に、帝国軍の参謀となった。

5

その夜、久しぶりにクラスメイトたちと会うことができた。

兵舎の宿舎に、みんなが集まっていた。

「桐谷! お帰り!」

麗華が駆け寄ってきた。

「無事で良かった……」

「ああ、何とか」

他のクラスメイトたちも、次々と声をかけてくる。

「すごいって聞いたぞ! 戦争に勝ったんだって!」

「投石機を作ったって本当?」

「俺たち、鼻が高いよ!」

だが、全員が歓迎しているわけではなかった。

部屋の隅で、佐藤健吾とその仲間たちが、冷たい目で俺を見ていた。

「……佐藤」

俺は、彼らに近づいた。

「何か、言いたいことがあるのか?」

佐藤は、鼻で笑った。

「言いたいことだらけだよ」

「例えば?」

「お前、帝国の犬になって嬉しいか?」

周囲が、静まり返った。

「お前のせいで、俺たちはこの世界に縛り付けられてるんだ」

「どういう意味だ」

「お前が帝国に協力してるから、俺たちは"人質"扱いだ。お前が裏切らないように、な」

佐藤は、俺に指を突きつけた。

「お前が帝国を拒否すれば、俺たちは交渉の余地がある。元の世界に帰る方法を、探せるかもしれない」

「それは違う」

俺は言った。

「帝国を拒否すれば、俺たちは全員、敵扱いされる。最悪、処刑だってありうる」

「それは、お前の憶測だろ」

「憶測じゃない。これは、戦争中の帝国だ。敵と見なされれば、容赦はない」

佐藤は、舌打ちした。

「結局、お前は帝国が怖いんだ。だから従ってる」

「そうだよ」

俺は、はっきりと言った。

「怖いから、従ってる。みんなの命を守るために」

「守る? 笑わせるな」

佐藤の声が、荒くなった。

「お前は戦争に参加して、人を殺した。それのどこが"守る"なんだ?」

言葉に詰まった。

確かに、俺の作戦で、多くの敵兵が死んだ。

「答えられないだろ。お前は、ただの殺人の共犯者だ」

「佐藤、やめろよ」

山田が割って入った。

「桐谷は、俺たちのために頑張ってるんだ」

「黙れ。お前も、帝国の訓練を受けてる裏切り者じゃないか」

「裏切り者? 俺たちは生き延びようとしてるだけだろ!」

「生き延びる? この世界でか? 俺たちの世界に帰ることを諦めたのか!」

口論が激しくなる。

クラスが、二つに割れようとしている。

「みんな、やめて!」

麗華が叫んだ。

「喧嘩してる場合じゃないでしょ! 私たち、同じクラスメイトなんだよ!」

「クラスメイト?」佐藤が冷笑した。「もう、そんなの関係ない。ここは学校じゃない。戦場だ」

6

翌日、俺はマルクスに報告した。

「クラスメイトの間で、対立が生まれています」

「帝国に協力する者と、拒否する者、か」

マルクスは、驚いた様子もなく頷いた。

「予想していた。異界の者が大勢来れば、必ず分裂する」

「放っておいて、大丈夫でしょうか」

「いや」マルクスは真剣な顔をした。「まずい。特に、帝国を拒否する者たちが、反乱を企てれば――」

「処刑、されますか」

「最悪の場合は」

俺は、頭を抱えた。

「何とか、説得します」

「無理はするな。人の心は、容易には変わらない」

その時、扉が乱暴に開かれた。

「失礼します!」

ルキウスが、息を切らして飛び込んできた。

「将軍、大変です!」

「どうした」

「皇帝陛下が――」

ルキウスは、言葉を選ぶように口ごもった。

「元老院で、何かが起きています」

7

元老院。

帝国の政治の中枢。貴族や有力者たちが集まり、政策を議論する場所。

建物は、まるで古代ローマの元老院を再現したかのような、荘厳な造りだった。

マルクスに連れられて、俺は元老院の傍聴席に座った。

「静かにしていろ。目立つな」

マルクスが小声で言った。

「何が起きているんですか?」

「分からん。だが、緊急招集がかかった。ただ事ではない」

やがて、元老院議員たちが集まってきた。

白い長衣トーガを纏った老人たち。貴族的な雰囲気を漂わせている。

そして、最上段の玉座に、皇帝ガイウスが座った。

「諸君」

皇帝の声が、広間に響いた。

「本日、重大な発表がある」

元老院議員たちが、息を呑んだ。

「私は、新たな法を制定する。"異界者徴用法"だ」

異界者徴用法?

「この法により、異界から転移してきた者は、全て帝国の資産とみなす。彼らの知識、技術、能力は、帝国のために使用されるべきだ」

ざわめきが広がった。

「陛下、それは――」

一人の議員が立ち上がった。

「あまりにも強引ではありませんか。異界の者とて、人間です。奴隷のように扱うことは――」

「黙れ」

皇帝の一言で、議員は黙った。

「彼らは、帝国に保護されている。ならば、帝国に貢献するのは当然だ」

「ですが――」

「これは、命令だ」

皇帝の声には、有無を言わさぬ威圧感があった。

「反対する者は、帝国への反逆とみなす」

沈黙。

誰も、声を上げられなかった。

「では、採決を取る。賛成の者は?」

ほとんどの議員が、手を上げた。

恐怖に駆られて、あるいは利益を見込んで。

「反対の者は?」

数名だけが、手を上げた。

「可決だ。異界者徴用法は、本日より施行される」

皇帝が立ち上がった。

「これで、帝国はさらに強くなる。異界の知識を使い、我々は世界を征服する」

議場が、拍手に包まれた。

だが、その拍手は、どこか虚ろだった。

8

元老院を出た後、マルクスは俯いたまま黙っていた。

「マルクス将軍……」

「すまない、桐谷」

マルクスは、苦しそうに言った。

「これは、私の責任だ」

「どういうことですか」

「お前が参謀として活躍したことが、皇帝の目に留まった。そして、陛下は考えた――異界の者を、もっと利用できると」

つまり、俺のせいだ。

俺が結果を出したから、クラスメイトたちが狙われる。

「これから、お前のクラスメイトたちは、様々な部署に配属される。技術部門、医療部門、軍事訓練――拒否権はない」

「それって……」

「事実上の、強制労働だ」

マルクスは、拳を握りしめた。

「私は、軍人だ。皇帝陛下の命令には従わねばならない。だが――」

マルクスは、俺を見た。

「これは、間違っている」

「なら、なぜ反対しなかったんですか!」

俺は、思わず声を荒げた。

「元老院で、一言言えば――」

「言えるわけがない」

マルクスの声は、静かだった。

「反対すれば、私は反逆者として処刑される。そして、第三軍団も解体される。お前のクラスメイトたちの立場は、さらに悪くなる」

「じゃあ、どうすればいいんですか!」

「……分からない」

マルクスは、無力そうに首を振った。

「私には、分からない」

9

その夜、クラスメイトたちに異界者徴用法のことが伝えられた。

宿舎は、騒然となった。

「嘘だろ……」

「帰れないってこと?」

「俺たち、ずっとここで働かされるのか?」

泣き出す者、怒りを爆発させる者、呆然とする者。

「ほら見たことか」

佐藤が、俺を睨んだ。

「お前が帝国に協力するからだ。こうなると思ってたんだ」

「佐藤……」

「お前のせいで、俺たちは奴隷になった。満足か?」

「違う! 俺は――」

「黙れ!」

佐藤が、俺の胸倉を掴んだ。

「お前は、帝国の犬だ。裏切り者だ!」

「やめろ、佐藤!」

山田が割って入る。

「桐谷のせいじゃない! 悪いのは、帝国だ!」

「帝国に協力してるのは、こいつだろうが!」

殴り合いになりかけた、その時――

「全員、静かにしろ!」

田所先生の声が、響いた。

「喧嘩してどうする! 私たちは、団結しなければならないんだ!」

「団結? どうやって!」

佐藤が叫んだ。

「俺たちは、もう囚人だ! 何もできない!」

「できることはある」

麗華が、立ち上がった。

「抵抗するの? 無謀だよ!」

「抵抗じゃない」麗華は、真剣な目をした。「生き延びるの」

「生き延びる……?」

「この世界で生き延びて、帰る方法を探す。それしかないでしょ」

麗華は、みんなを見渡した。

「喧嘩してる暇があったら、知恵を出し合おう。この状況を、どう乗り越えるか」

少しずつ、みんなが落ち着いてきた。

「桐谷」

麗華が、俺を見た。

「あなた、参謀なんでしょ? 何か、策はない?」

策。

帝国と戦わずに、クラスメイトを守る方法。

「……一つだけ、ある」

俺は言った。

「でも、危険だ」

「聞かせて」

「帝国の中で、地位を上げる。皇帝に近づき、信頼を得る。そして、内部から変える」

「そんなの、無理だろ」

誰かが言った。

「子供の俺たちが、皇帝を変えられるわけない」

「でも、他に方法がない」

俺は、拳を握った。

「俺は、参謀として結果を出す。マルクス将軍の信頼を得る。そして、いつか――」

いつか、この帝国を変える。

それしか、道はない。

10

翌朝、クラスメイトたちの配属先が発表された。

技術部門:五名

医療部門:七名

軍事訓練:十名

文官補佐:八名

そして――

「佐藤健吾、お前は鉱山労働だ」

兵士が、無感情な声で告げた。

「鉱山……?」

佐藤の顔が、青ざめた。

「待ってください!」

俺は、兵士に詰め寄った。

「鉱山労働は、過酷すぎます! 彼はまだ中学生で――」

「命令だ」

兵士は、冷たく言った。

「文句があるなら、皇帝陛下に言え」

佐藤が、俺を睨んだ。

「……いいよ。行くよ、鉱山でも何でも」

「佐藤――」

「お前に、同情されたくない」

佐藤は、背を向けた。

「俺は、俺のやり方で生き延びる」

その背中が、あまりにも小さく見えた。

11

数日後、俺はマルクスに呼び出された。

「桐谷、緊急の任務だ」

「何でしょうか」

「皇帝陛下が、親征を行う」

「親征?」

「自ら軍を率いて、戦場に赴くことだ」

マルクスは、地図を広げた。

「北方の蛮族が、再び国境を侵している。陛下は、これを機に大規模な征伐を行うと決定された」

「それで、第三軍団も?」

「ああ。陛下直属の親衛軍団と共に、北方へ向かう」

マルクスは、俺を見た。

「お前も、同行してもらう。陛下が、お前の参謀としての能力を買っておられる」

皇帝の親征。

それは、大規模な軍事行動だ。

そして――

「これは、チャンスかもしれない」

俺は呟いた。

「チャンス?」

「皇帝陛下の信頼を得るチャンスです。もし、親征を成功させれば――」

「陛下に、お前のクラスメイトたちの待遇改善を願い出ることができるかもしれない、か」

マルクスは、苦笑した。

「甘いな、桐谷。だが――」

マルクスは、俺の肩に手を置いた。

「その甘さが、お前の強さでもある」

「……ありがとうございます」

「ただし、気をつけろ」

マルクスの表情が、険しくなった。

「元老院には、お前を快く思わない者たちがいる」

「俺を?」

「異界の少年が、軍で活躍している。面白くない貴族は多い」

マルクスは、声を潜めた。

「特に、アウグストゥス派の連中は危険だ」

「アウグストゥス派?」

「元老院の最大派閥。彼らは、皇帝の権力を制限しようとしている。そして、異界者を排除しようとも考えている」

つまり、俺たちは政治闘争に巻き込まれている。

「北方遠征の最中、何が起きるか分からない。常に警戒を怠るな」

「はい」

マルクスは、窓の外を見た。

「嵐が来る。それも、巨大な嵐だ」

その予言は、的中することになる。


次回もお楽しみに

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