表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クラス転移戦記  作者: 膝栗毛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

初陣2

引き継ぎお楽しみください

11

夜襲部隊の編成が始まった。

「ケントゥリオ(百人隊長)のセウェルス、お前が指揮を取れ」

マルクスが指名したのは、三十代半ばの屈強な男だった。傷だらけの顔に、鋭い目。歴戦の勇士だ。

「精鋭を百名選べ。音を立てず、確実に仕事をする者たちだ」

「承知しました」

セウェルスは俺を一瞥した。その目には、明らかな疑念があった。

当然だろう。子供の提案で、命を賭けた夜襲を行うのだから。

「桐谷も同行する」

マルクスの言葉に、俺は驚いた。

「え、でも――」

「お前が立てた作戦だ。現場を見なければ、次に活かせない」

「しかし、将軍。この少年を戦場に?」

セウェルスが反対した。

「足手まといになります」

「ならばお前が守れ」マルクスは有無を言わさぬ口調で言った。「これは命令だ」

セウェルスは不満そうに頭を下げた。

「……御意」

12

月が雲に隠れる頃、俺たちは出発した。

百名の兵士たち。全員が黒い布で鎧を覆い、音が出ないよう細心の注意を払っている。

俺も同じように、黒い外套を羽織った。腰には短剣。護身用だ。

山道は、想像以上に険しかった。

足元が見えない。一歩間違えれば、崖から転落する。

だが、兵士たちは慣れた様子で進んでいく。

「遅れるな」

セウェルスが低い声で言った。

「足音を立てるな。息を荒くするな。お前のせいで見つかったら、全員死ぬと思え」

プレッシャーが、肩に重くのしかかる。

必死に、兵士たちについていった。

一時間ほど登っただろうか。

セウェルスが手を上げ、全員が止まった。

前方に、焚き火の明かりが見えた。

敵の陣地だ。

13

セウェルスが手信号を出す。

兵士たちが、音もなく散開していく。

見事な連携だ。訓練の賜物だろう。

「お前はここにいろ」

セウェルスが俺に低く命じた。

「動くな。声を出すな。何があっても、だ」

俺は頷いた。

セウェルスと兵士たちが、闇に溶けていく。

俺は、岩陰に身を潜めた。

心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

手が震える。

これが、戦場だ。

ゲームじゃない。

人が死ぬ。

自分も、死ぬかもしれない。

そう思った瞬間――

悲鳴が上がった。

14

「敵襲ーー!!」

敵の叫び声。

すぐに、剣と剣がぶつかり合う音。

俺は岩陰から、恐る恐る覗いた。

闇の中で、戦いが繰り広げられていた。

帝国兵たちが、次々と敵の見張りを倒していく。

だが、敵も反撃を始めた。

テントから兵士たちが飛び出してくる。弓を構える者、剣を抜く者。

「盾を上げろ!」

セウェルスの怒号。

矢が、闇を切り裂いて飛んでくる。

帝国兵の一人が、喉に矢を受けて倒れた。

血が、月明かりに黒く光る。

吐き気がした。

だが、目を逸らせない。

これが現実だ。

俺が立てた作戦で、人が死んでいる。

「前進! 敵陣を制圧しろ!」

セウェルスが叫んだ。

帝国兵たちが、一斉に突撃する。

乱戦になった。

剣が振るわれ、盾がぶつかり、血が飛び散る。

敵は混乱している。夜襲を予想していなかったのだ。

数で劣っていても、混乱した敵には対処できる。

理論通りだ。

だが――

15

「くそっ、伏兵だ!」

帝国兵の叫び。

横の森から、敵の増援が現れた。

約五十。松明を持ち、整然と隊列を組んでいる。

まずい。

敵は、夜襲に備えていた。

「退け! 退却だ!」

セウェルスが判断した。

このままでは挟撃される。

帝国兵たちが、後退を始めた。

だが、敵の弓兵が高所から狙い撃ちしてくる。

次々と兵士が倒れる。

「畜生……!」

セウェルスが歯噛みした。

俺は、状況を必死に把握しようとした。

敵の配置、味方の位置、退路――

「待ってください!」

俺は思わず叫んでいた。

セウェルスが振り返った。

「黙ってろと言っただろう!」

「敵の増援、松明を持ってます!」

「だから何だ!」

「目が、松明に慣れてる。闇が見えてないんです!」

セウェルスの目が、わずかに見開いた。

「……どういう意味だ」

「松明を消せば、敵は闇で目が見えなくなる。その隙に、側面から回り込めます!」

セウェルスは一瞬迷ったが――

「やれるか!」

「分かりません。でも、このままじゃ全滅します!」

セウェルスは決断した。

「全軍、松明を狙え! 敵の光を消せ!」

16

帝国兵たちが、方針を切り替えた。

剣を振るうのをやめ、投槍で敵の松明持ちを狙う。

一人、また一人と、松明が落ちていく。

「何をしている! 松明を拾え!」

敵の指揮官が叫ぶ。

だが、拾おうとした兵士が、闇から飛んできた剣に倒される。

「見えない……敵が見えない!」

敵が混乱し始めた。

松明の光に慣れた目では、闇の中の帝国兵が見えない。

一方、帝国兵たちは最初から闇に目を慣らしていた。

「今だ! 側面を突け!」

セウェルスの命令で、帝国兵が二手に分かれた。

闇に紛れて、敵陣の左右から襲いかかる。

「ぎゃあああ!」

敵の悲鳴。

完全に混乱した。

指揮系統が崩壊し、兵士たちが我先にと逃げ出す。

「追うな! 陣地を確保しろ!」

セウェルスは冷静に命令を下した。

深追いは危険だ。敵の本隊が来る前に、この高地を確保する。

帝国兵たちが、素早く敵の陣地を占拠した。

戦いは、終わった。

17

夜が明ける頃、マルクスが本隊を率いて到着した。

「報告しろ」

「敵前哨部隊、撃破しました」セウェルスが敬礼した。「我が軍の損害、戦死七名、負傷十二名」

「敵の損害は?」

「戦死約三十、捕虜二十。残りは逃走しました」

マルクスは満足そうに頷いた。

「よくやった。峠は我が軍の手に落ちた」

そして、マルクスは俺を見た。

「桐谷、お前の作戦は成功だ」

「いえ……途中で、想定外のことが起きました」

「敵の伏兵のことか。セウェルスから聞いた」

マルクスは俺の肩に手を置いた。

「だが、お前はその場で対応策を考えた。それが大事だ」

「私は……ただ、必死でした」

「それでいい」マルクスは笑った。「完璧な作戦など存在しない。大事なのは、予想外の事態に対処できるかどうかだ」

セウェルスが、俺の前に立った。

「……済まなかった」

「え?」

「お前を、足手まといだと思っていた。だが、お前の判断がなければ、俺たちは全滅していた」

セウェルスは、深々と頭を下げた。

「感謝する」

「いえ、そんな……」

俺は戸惑った。

歴戦の勇士に、頭を下げられるなんて。

「桐谷殿」

他の兵士たちも、敬礼してくる。

「ありがとうございました」

「あなたのおかげです」

重い。

命を救った。

でも、同時に――

俺の作戦で、七人が死んだ。

敵兵も、三十人死んだ。

その重さが、胸に圧し掛かる。

18

峠を越えた第三軍団は、平原に陣を張った。

ここから、フォルティス砦が見える。

堅牢な石壁。高い塔。周囲を川と崖に守られた天然の要塞。

「これを攻めるのか……」

俺は呟いた。

「正面から攻めれば、損害が大きい」

マルクスが横に立った。

「だから、お前が言った通り、補給線を断つ」

地図を広げる。

「敵の補給は、この街道を通ってくる。ここを押さえれば、フォルティスは孤立する」

「守備隊は?」

「約二百。輸送隊の護衛だ」

数では圧倒的に有利。

だが――

「敵は、補給線を守るために動くはずです」

「ああ。フォルティスから援軍が来る」

「その援軍を、叩くんですね」

マルクスは頷いた。

「お前が言った"有利な地形"で待ち伏せる。丘陵地帯、覚えているな?」

「はい」

「そこで、敵を迎え撃つ。これが、お前の初陣だ」

初陣。

本当の、大規模な戦い。

夜襲とは比較にならない。

千を超える兵士が、正面からぶつかり合う。

「怖いか」

マルクスが尋ねた。

「……はい」

「正直でいい」マルクスは空を見上げた。「怖くない者は、馬鹿か、戦いを知らない者だけだ」

「マルクス将軍も、怖いんですか?」

「当然だ」マルクスは苦笑した。「毎回、怖い。だが――」

マルクスは俺を見た。

「それでも戦う理由がある。守るべきものがある。だから、立つことができる」

「守るべきもの……」

俺の脳裏に、クラスメイトたちの顔が浮かんだ。

麗華、山田、田所先生――

みんなを、守らなければ。

この世界で生き延びさせなければ。

「俺、頑張ります」

「ああ」マルクスは頷いた。「お前なら、できる」

19

翌日、偵察隊からの報告が入った。

「敵軍、フォルティスから出撃! 約二千五百!」

予想通りだ。

敵は、補給線を守るために動いた。

「全軍、移動準備!」

マルクスの命令で、第三軍団が動き出す。

目指すは、丘陵地帯。

俺が選んだ、決戦の地。

行軍の途中、ルキウスが馬を並べてきた。

「桐谷殿、陣形についての最終確認を」

「はい」

俺は、頭の中で整理した情報を伝えた。

「中央に重装歩兵。両翼に軽装歩兵と弓兵。騎兵は左翼後方に待機」

「敵が中央を突破しようとしたら?」

「左右から挟み込みます。敵の側面を突く」

「敵が両翼から回り込んできたら?」

「騎兵で迎撃。敵の回り込みを阻止しつつ、中央が前進」

ルキウスは満足そうに頷いた。

「完璧です。あとは、実行するだけ」

簡単に言う。

だが、実際の戦場で、計画通りにいくとは限らない。

夜襲で学んだ。

戦場は、予想外の連続だ。

20

丘陵地帯に到着した。

なだらかな丘。視界が開けている。背後には川。

地形は、俺の記憶通りだった。

「陣を張れ!」

マルクスの号令で、兵士たちが動く。

整然と、だが素早く、陣形が形成されていく。

中央に重装歩兵の密集陣。

両翼に弓兵と軽装歩兵。

後方に予備兵力と騎兵。

完璧な布陣だ。

理論上は。

「敵、見えました!」

見張りの声。

地平線の向こうから、土煙が上がっている。

敵軍だ。

二千五百の兵士たち。

旗が風になびき、鎧が陽光を反射する。

壮観だった。

そして、恐ろしかった。

「桐谷、作戦本部に来い」

マルクスに呼ばれ、俺は丘の頂上に設置された司令所に向かった。

そこから、戦場全体が見渡せる。

敵軍が、ゆっくりと接近してくる。

やがて、止まった。

距離、約五百メートル。

弓の射程外だ。

「敵も陣を張るつもりか」

マルクスが呟いた。

敵も同じように、陣形を整え始めた。

中央に密集陣。両翼に弓兵。騎兵は右翼。

鏡合わせのような布陣だ。

「向こうの指揮官も、なかなかやるな」

マルクスが感心したように言った。

「さて、桐谷。ここからが本番だ」

「はい」

「敵が動くのを待つか。それとも、こちらから仕掛けるか」

俺は、戦場を見渡した。

敵の陣形、地形、太陽の位置――

そして、答えを出した。

「待ちます」

「理由は?」

「敵は補給線を守るために出てきた。つまり、時間的余裕がない。焦って攻めてくる可能性が高い」

「なるほど」

「こちらは高地を取っている。敵が登ってくるところを、弓で迎え撃てます」

マルクスは満足そうに頷いた。

「では、待とう」

緊張の時間が、始まった。

21

一時間が過ぎた。

敵は動かない。

二時間が過ぎた。

まだ動かない。

「……おかしい」

俺は呟いた。

「どうした」

「敵、動きません。補給を守るために出てきたはずなのに」

「確かに」マルクスも眉をひそめた。「何を待っている?」

その時、斥候が駆け込んできた。

「将軍! 敵の別働隊、発見!」

「何?」

「約五百、街道沿いを南下中! 我が軍の補給線を狙っている模様!」

マルクスと俺は、顔を見合わせた。

「しまった……!」

敵の狙いは、正面決戦ではなかった。

この二千五百は陽動。

本命は、別働隊による補給線の切断だ。

「桐谷、どうする!」

マルクスが俺に問う。

全員の視線が、俺に集中した。

頭が真っ白になりそうだった。

だが――

深呼吸。

冷静に。

これは、盤上のゲームだ。

駒を動かすんだ。

「騎兵を、五百騎出してください」

俺は言った。

「別働隊を叩きます。騎兵なら、街道まで追いつける」

「だが、騎兵を出せば、ここの戦力が減る」

「敵の本隊は動けません。我が軍がここにいる限り、背後を突かれる恐れがあるから」

「それは賭けだ」

「はい。でも――」

俺はマルクスを見た。

「負けるわけにはいかないんです」

マルクスは、一瞬だけ目を閉じた。

そして――

「騎兵隊長! 五百騎、南下しろ! 敵の別働隊を殲滅せよ!」

「御意!」

騎兵が動き出した。

地響きを立てて、戦場を去っていく。

これで、勝負は決まる。

騎兵が間に合えば、勝ち。

間に合わなければ――

補給を断たれた第三軍団は、孤立する。

「さあ、敵はどう出る」

マルクスが呟いた。

そして――

敵軍が、動き始めた。


次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ