表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
謎のQRコード  作者: しー
1/1

第3章 動き出した過去

夜勤という初めての世界に足を踏み入れた主人公。

仕事に慣れ始めた矢先、静かに、しかし確実に“何か”が動き出す。

あの日の夢の記憶を避け続けてきた彼は、やがて思いもよらない過去と向き合うことになる。

あの日の夢から、数か月が経った。

俺はあれ以来、夢の内容を思い出さないように、ひたすら仕事に打ち込んでいた。

仕事にもようやく慣れてきた頃、市長に呼び出された。

「汐原さん。もう仕事にも慣れてきた頃だと思うから、夜勤やってみない?」

「はい。やってみたいです。」

「最初の二回くらいまでは、先輩の後ろについていく“カルガモ”みたいな感じで大丈夫だからね」

そう言われて、少しほっとした。


初めての夜勤の日。

俺はこれまで病院に泊まったことがなく、少しワクワクしていた。

病院に到着すると、先輩たちが笑いながら声をかけてくる。

「初めての夜勤、頑張ってね。今日は“出なきゃ”いいね。」

「出るわけないですよ。幽霊なんて信じてませんから」

そう強がって返した。

先輩たちから日勤帯の患者の様子を聞き、プリセプターの先輩のもとへ向かう。

「申し送り、聞いた? 一応、夜勤の流れも簡単に説明しておくね。」

「はい! 聞きました。よろしくお願いします!」

説明を受けた後は、夕食の準備や薬の配薬などであっという間に時間が過ぎ、気づけば消灯の時間になっていた。


先輩が嬉しそうに言う。

「さあ、病棟内を回ろうか。まだ明るいし、一人で行けそう?」

「はい、大丈夫です。」

「よかった。まだ寝ていない患者さんもいると思うから、『消灯時間ですよ』って声をかけてね。病室の電気だけ消してきて。廊下の電気は、戻ってきたら一緒に消すから。もし何かあったら呼んで。」

「了解です。」

先輩と二手に分かれ、患者の様子を見ながら病室の電気を消して回る。


北野さんの病室に入ると、彼女はベッドの上で何かを書き物をしていた。

「北野さん、就寝時間です。電気消しますね」

「もう少し待ってくれ。今、神様のお告げを聞いているんだ。終わったら必ず消すから、お願いだ」

「分かりました。約束ですよ」

そう言って次の病室へ向かう。


全ての部屋の電気を消し終えたとき、ふと思った。

――今は廊下の電気がついているからまだいいけど、これが全部消えたら……絶対無理だ。

その後、ナースステーションに戻り、廊下の電気をすべて消す。

あまりの暗さに、「俺、次は絶対ひとりで回れない」と心の中で絶望した。

見回りの時間になり、懐中電灯を片手に病室を一つずつ確認していく。

俺は情けないことに、先輩の後ろをずっとついて回るだけだった。

夜の病院が、こんなにも怖いものだとは思わなかった。


朝になり、日勤の職員がやって来た。

「おつかれ。初夜勤どうだった?」

「怖すぎて、ずっとプリセプターの先輩のあとをついて回ってました。」

そう照れながら答えると、先輩たちは大笑いした。

俺はその日、逃げるように病院をあとにした。


数日後、日勤で出勤したとき、先輩に呼び止められた。

「汐原さん、大変だよ」

「どうしたんですか?」

「北野さん、亡くなった」

「え……!? いつですか?」

「汐原さんが夜勤した次の日の夜。

『QRコードを全部集められたら願いが叶うんだ。QRコードを集めてくれ。』

って家族に言ったのが、最後の言葉だったみたい。」

その瞬間、背筋が凍った。

――まるで、俺に言っているみたいだったから。


夜になり、家に帰ると美味しそうな匂いが漂ってきた。

「ただいま。」

「おかえり。今日は栗が安かったから、栗ご飯にしたのよ。」

「マジで?やった!」

夕食を食べながら母さんと今日の出来事を話していると、妹が声をかけてきた。

「お兄ちゃん、地理得意? 課題で経度と緯度の問題が出たんだけど、よく分からなくて教えてほしい。」

「問題を見てみないと分かんないな。ご飯食べ終わったら見せて。」

「うん、わかった。ありがとう。」

母さんが笑いながら言う。

「ありがとうね。私も教えようとしたけど、さっぱりで。……あ、そういえば、亡くなった方って何か最後に言ってたりしたの? ドラマでよく見るじゃない? ちょっと気になっちゃって。」

「QRコードがどうとか言ってたみたいだよ。俺、妹の部屋行ってくるわ。」

階段を上がる途中、母さんが誰かと電話しているのが見えた。

お父さんかなと思いながら、妹の部屋へ向かう。


ドアをノックして言う。

「お待たせ。宿題見せて。」

ドアが開き、部屋に入る。

「この問題をまず教えてほしいんだ。」

「ここはこうやれば解けるよ。」

「あー、そっか。」

妹が少し顔を上げて言った。

「あと応用問題で、“家の緯度と経度を調べろ”ってあるんだけど、ネットで調べたら数字がいっぱい出てきたの。」

「数字?」

「うん、ほらこれ。」


妹のスマホの画面には、家の場所とたくさんの数字が表示されていた。

「あの数字は……建物の位置を表してたのか。」

「どうしたの? 一人でブツブツ言って。」

「え? あ、いや、ごめん。こう書けばいいよ。」

「ほんと? なーんだ、簡単じゃん。ありがとう。おかげで終わった!」

「よかった。じゃあ、俺自分の部屋に戻るわ。」


部屋に戻ると、鍵をかけた引き出しを開けた。

もう二度と開けることはないと思っていたが――。

紙に書かれた数字を入力すると、ある病院の名前が表示された。

「……ここに何かあるのか? 明日仕事休みだし、行ってみるか。」


翌日。

ナビに病院の住所を入力すると「車で30分」と表示された。

「まあ、ドライブだと思えばいいか。」

病院に着いたが、平日だったせいで駐車場がいっぱいだった。

ようやく空きを見つけ、車を停めて建物へ向かう。

その時、背後から声をかけられた。

「汐原君? 大きくなったね。私のこと覚えてる?」

振り返ると、優しそうな女性が立っていた。

「ごめんなさい。俺、幼い頃の記憶がなくて。」

「ああ、そうだったね。私、汐原君が入院してた時に看護をしてたの。」

「ここじゃあれだし、よかったらお昼一緒にどう?」

「ぜひお願いします。子どもの頃の話、聞きたいんで。」

「じゃあ、近くのカレー屋さんね。ここのカレー美味しいのよ。」

「カレー好きなんで嬉しいです。了解です。」


店に着き、メニューを眺めていると、彼女が「店長、いつもの二つお願い」と言った。

奥から「はいよ、ちょっと待ってな」と声が返る。

「今いくつになったの?」

「22です。」

「大きくなったね。病院で初めて会った時は、4歳だったのに。」

「俺、なんで入院してたんですか?」と尋ねると、彼女は少し言葉を選びながら話し始めた。

「潤君には、いつも一緒にいた2歳上のお兄ちゃん、健君がいたの。二人は本当の兄弟みたいに仲良くてね。でも……18年前の地震で、全てが変わってしまったの。遊んでいる時に地震が起きて、避難しようとした瞬間、建物が倒壊して健君が下敷きになったのよ。潤君は急いで大人を呼んできてくれて、救急車を呼んだけど健君は――間に合わなかった。潤君はそのショックで、記憶を失ってしまったの。」

気づけば、頬を涙が伝っていた。

彼女は何も言わず、ハンカチを差し出した。

「すみません、お借りします。」

涙を拭うと、ちょうどカレーが運ばれてきた。

店員が笑いながら言う。

「なんだ、おばさんにいじめられたか?」

「おい、おばさんじゃなくて“お姉さん”だからね!」

そのやり取りに、思わず笑ってしまった。

カレーを食べながら、他愛もない話をした。

「ご馳走さまでした。ハンカチ、洗って返しますね。」

「いいのよ。返さなくて。それと……潤君、これ。」


白い封筒を手渡された。

「なんですか?」

「家を片付けてたら見つけてね。“潤へ”って書いてあったの。渡しておくわ。」

「ありがとうございます。」

「気をつけて帰ってね。またね。」

彼女と別れ、車に乗る。

「カレー、美味しかったなぁ。……この封筒、なんだろう?」

気になって封を開けると、中には二枚の紙が入っていた。

一枚目は、QRコードの一部。

もう一枚には、雲の中を突き進むカラスの絵が描かれていた。

――これは、いったい何を意味しているんだろうか。

物語を通して描かれたのは、恐怖でも謎でもなく、記憶と向き合う勇気だったのかもしれない。

主人公が拾い集めた小さな断片が、読む人それぞれの心にも何かを残せていれば嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ