第1部「小さな子供と運命の導き」
第1章 子供の声
鬱蒼とした雰囲気、道もない、光もかすかしかない森の中を進んでいく者がいた。汚い茶色のローブに身を包んでいるが、長い白いヒゲがその者の気品を高めている。老人の名前はローレン・マイスター。かつて、ある帝国に仕えていたが今や完全に世捨て人となっていた。
いつもは、魔物の声があちらこちらに聞こえてくるが、今日の森は静かだった。
ローレン「妙じゃのう…?」
しかし、何か音が聞こえる。それはまるで森が囁いているかのようだった。
ローレン「まさかのう…」
ローレンはその音の方向に歩き出した。暗い森の中を歩いていると、1カ所だけ光が差し込んでいるのが見えた。光に近付くと、そこには齢10歳ぐらいの男の子が横たわっている。まるで森が導いたかのような光景だった。
ローレン「これは…これは…何とも奇妙な光景じゃ…」
ローレンはその男を浮遊魔法で浮かせ、家に運んだ。
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ローレンの家は鬱蒼とした森の奥の泉のほとりにある。この泉の効力か、ここだけは日が指している。
ローレンは子供を家のベッドに寝かせ、身体の汚れを拭いてあげた。
子供は華奢だが、それなりの栄養状態にある様子で餓死寸前というわけではなかった。黒髪が長く伸びている。
ローレン「この年になって、子供を拾うとは、これも運命かのう…」
次の日の朝、子供が目覚めた。
子供は、ここはどこかわからず、キョロキョロしている。ローレンが声をかける。
ローレン「お主は、森の中で倒れておったのじゃ。何か思い出せることはあるかのう?」
子供「わからない…何も思い出せない…」
ローレン「ふむ…奇妙なことじゃのう…行く宛がないのであれば、ワシとここで暮らそうではないか。」
子供は静かに頷いた。
ローレン「名前もわからないじゃろ?ワシの名前はローレン・マイスター。お主はこれからはゼム・マイスターと名乗りなさい。ゼムとは一人ではないという意味じゃ」
ゼム「僕の名前はゼム・マイスター…」
老人ローレンと少年ゼムの奇妙な出会いからの生活が始まった。
第2章 ローレンとの生活と修行
ローレンの朝は早い、日差しと共に起き、家の中を風魔法で掃除したかと思えば、水魔法と火魔法でお湯を沸かしている。
ゼムはその光景を見て、目を輝かせる。
ローレン「なんじゃ?魔法に興味があるのかのう?」
ゼムは何度も頷く。
ローレン「そうじゃのう…毎朝の水汲みと3日に1回トイレ掃除をしてくれたら教えてあげよう」
ゼムは走って水を汲みにいった。
ローレンはその姿を見て、笑っていた。
朝食を済ませると、ローレンはゼムに外に来るように言った。
外に出るとローレンは話を切り出す。
ローレン「まず、この世の全ての物には魔素と呼ばれるものを含んで構成されておる。人体もそうじゃ。魔素は何もしなければ無色透明のままなんじゃ。この外にある魔素と自分の内にある魔素を自分の好みの色に変換して、外に出すことで魔法は発動するのじゃ。」
ゼム「てことは、全ての魔法が使えるの…?」
ローレン「理論上は可能じゃが…人には変換しやすい色があってな…それは自分の性格や生まれ持った個性によって決まるのじゃ。」
ゼム「何色があるの…?」
ローレン「それじゃあ、見せてやろうかの」
ローレンがそう言うと、ローレンの目の前に円環状になった様々な色の光の球体が現れた。
ローレン「赤色は火、青色は水、緑色は風、黄色は土、白色は光、黒色は闇じゃ。そして、このように青と緑を混ぜると、空色になり氷属性となる。緑と白を混ぜると白緑…つまり雷魔法となる。」
その光景はとても綺麗でゼムは見惚れていた。
ローレン「ゼム…聞いておるか…?」
ゼムはハッと思い、頷いた。
ローレン「魔法の威力は、どれだけ自分が無色透明の魔素を変換できるかによる。変換しすぎると体内で暴走し最悪死に至る。」
ゼム「………」
ローレン「じゃから、まずは自分がどの色に変換できるのか、変換した色をどれだけ制御できるのかを知るのが大事なんじゃ…」
ゼム「その変換できる色って、わかる方法はあるの?」
ローレン「難しい質問じゃな…正直な話は存在しないのじゃ…なぜなら、緑と言われた時に森をイメージするものも居れば草原をイメージする者も居る。そのイメージ力が魔素の変換効率を変えるのじゃ」
ゼム「へ…んかん…こうりつ?」
ローレン「おお…すまんのう…つまりは色を変える力はお主のイメージにかかってるということじゃ…ひとまず、一つずつ変換してみようかの…」
ゼムの手を取ったローレンは目を閉じた。
ローレン「ゼムよ…目を閉じてみよ。そしてワシの手から何か温かい物が流れてこぬか?」
ゼム「なんかふわふわして、温かい」
ローレン「それが魔素じゃ」「そして、それを感じながら川や泉の青をイメージするのじゃ…」
ゼムは家の近くにある泉を想像した。その綺麗な水、せせらぎを想像する。
ローレン「目を開けてごらん」
ゼムが目を開くと、そこには丸い青い球体が目の前に浮かんでいた。
ローレン「その青い球体の存在を感じながら、ウォーターと唱えるのじゃ」
ゼム「ウォーター」
すると、青い球体は水に代わり、ゼムを濡らした。
ローレンは笑い「それが、魔法じゃ」
ゼムはびしょ濡れになったが、笑っていた。
ローレン「今のでコツを掴んだじゃろう。これからは、イメージ力を深めて、全ての色を球体にできるよう修行していこうかの…」
ゼムは頷いた。
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ローレンとの魔法の修行を始めて、数週間後、ゼムはローレンの私室を訪れていた。そこには、古ぼけた本やキラキラ光る道具が並んでいた。
ローレン「そのキラキラしたものには触るでないぞ…中には危険なやつもあるのでな…」
ゼムの目に古ぼけた本が見えた。本を手に取ると、そこには見たことのない文字が並んでいたが、不思議と読めた。
ゼム「世界の兵法…?」
ローレン「お主…それが読めるのか…?」
ゼム「見たことの文字なんだけど、何となく読める。」
ローレン「その本は、ワシには読めぬ。その本には古の魔法がかかっており、本に認められた者にしか読めない代物なのじゃ。これも何かの縁じゃのう…」
ゼム「この本読んでいい?」
ローレン「勿論だとも。その本だけじゃなくこの部屋にある全ての本も読んでよいぞ。」
ゼムは嬉しそうに頷いて、本を片手に部屋に戻った。
ゼムは先程見つけた「世界の兵法」という本を読み始めた。
表紙の裏に何やら書かれている。
[この本の内容を我が後継者のために、そして世界を照らしてくれる新たな光となれ エドガー・フェルディナント]
ゼム「この本は後継者を探していたのか…」
ゼムは読み始めた。
本の内容は、この世界の物ではなかった。
そこには、様々な戦争の見取り図や兵力、地形が描かれており、そのときに取ったお互いの戦法が書いてあった。
ゼム「イチノタニ…セキガハラ…?どこの地形だろう?セキヘキとかもあるぞ…?」
ゼムは子供ながら難しい内容だったが、少しづつ読み進めていった。
第3章 最終試験
月日が流れた
ゼムは大きくなった。年は、正直森に居るためかわからない。あの少年の頃とは違い、背もローレンを追い越し、薪割り作業や森で鍛えたためか、それなりに筋肉も着いている。長い黒髪はそのままで後ろで一つに束ねている。
ゼムは起きて顔を洗うと歯を磨きながら、風魔法を発動し、部屋の埃を取り払うと浮遊魔法で昨日組んでおいた水瓶を持ち上げ、火魔法で火をつけた竈門の上におき、お湯を沸かし始めた。
お湯を沸かしてコーヒーを淹れると、ローレンを起こしに行く。
ローレン「ゼムも早起きになったのう…」
ゼム「最近、調子でも悪いのか…?」
ローレン「いや、たまには遅く起きるのも良いと思ってな」
ローレンとゼムがコーヒーを片手に食卓につく。ゼムの前には以前の「世界の兵法」の本があった。
ローレン「まだ読み終えてないのか?」
ゼム「この本は不思議だよ。読んでも読んでもページが減らないんだ。ちなみに、ローレンの部屋の本は全部読んだよ。」
ローレン「ふむ、驚くべきことじゃな…」
なんとも言えない、平和な朝だった。
しかし、その平穏はローレンの迸る魔力により一変する。
ローレン「そろそろじゃな…ゼムよ。これより、賢者ローレン・マイスターの名の元に最終試験を与える。」
ゼム「最終試験ってなんだよ!?それに賢者って…?」
ローレン「我が名は賢者ローレン・マイスター。世界を導き、光を与えるもの。祖はエドガー・フェルディナントから始まり、代々賢者の名を引き継ぎ、祖の継承者となるものを探してきた。」
ゼム「それが俺だってことか…?」
ローレン「その通りじゃ。お主は本に選ばれたのだ。ついてくるが良い」
ローレンは立ち上がり、家の外に出ていった。
ゼム「なんだってんだよ…」
ゼムは立ち上がり、家の外にでた。
ローレンは森の奥に歩いていく。ゼムも付いていく。
歩いて少したったあと、森の開けた場所についた。
上空は森の木により日光はほとんど遮られているが、不思議と広い空間が広がっていた。
ローレン「ここで、最終試験を実施する。」
ローレンがそう言うと、ローレンの足元から木製のゴーレムが3体現れた。それぞれのゴーレムには赤色、緑色、黄色のコアが胸にあり、動力を司っているようだ。ゴーレムの高さは約2mぐらいであり、かなりの迫力だ。
ローレン「今から、お主にはこのゴーレムと戦ってもらう。合格基準は、ゴーレム3体の破壊もしくは無力化じゃ。準備はよいか…?」
ゼムは目を閉じる。
ゼム「ローレンは本気だ。なら、こっちも本気を出さねば、最悪死んでしまうな…」
ゼムはローレンの方を向き、目を開いて言った。
ゼム「望むところだ!かかってきな!」
ローレン「よろしい…」
ローレンは広場の端の方に歩いていった。
ローレン「始め!」
ゼム対ゴーレム3体の戦いが始まる!!
第4章 対決!ゴーレム!
ゼムはゴーレムと対峙する。
ゼム『真正面から戦っても無理だ。まずは、ゴーレムの特性の把握からだ。あのコアが弱点だとすれば、色は属性の色を表しているはずだ。となれば、まずは様々な魔法をぶつけて、牽制するしかない。』
ゼムは迅速な思考の後、後ろに飛び退いた!
飛び退いて距離を取ったゼムの周りに赤、青、緑の光球が現れる。
ゼム「ファイアバレット!」
赤い光球が炎の玉となり、緑色のコアのゴーレムに衝突した。緑色のコアのゴーレムは膝をつく。
ゼム『効果あり!やはり属性の色のようだな…』
その時、黄色のゴーレムは魔法を発動する!
黄色のゴーレムの前に尖った石柱が地面を伝うようにして、ゼムの元に迫ってくる!
ゼム『魔法も使うのかよ!あのゴーレム!ならば!』
ゼム「ウォータースライサー!」
ゼムの青い光球が水に代わり、水が超高出力で噴き出し、迫ってくる尖った石柱を切断した!
ゼム『くそ…このままだとジリ貧だ。近づけばゴーレムのフィジカルにやられ、離れると魔法でやられる…』
ローレン「ふむ…敵の攻撃への対応は流石じゃがどうも突破口が見つからないようじゃな…」
ゼムは赤、白、緑、黄の光球を展開する。
ローレン「あやつの魔素変換も達者になってきたのう。」
そのとき、赤いコアのゴーレムが炎を纏い出した。その後ろには緑のゴーレムがいる。
赤いコアのゴーレムが緑のゴーレムの風魔法により、加速してゼムに突進してくる。その横では黄色のゴーレムが地中に腕を埋めていた。
ゼム『あいつら連携して来やがった。赤いコアのゴーレムに突進させて、横に逃げたときを黄色のゴーレムが地中から狙うつもりだな。つまり、この時の最適解は、空中に逃げるしかない!』
ゼム「マッディトラップ!」
ゼムの黄色の光球が地面に沈み、赤のゴーレムの突進先の地面を泥状にした。そこに赤のゴーレムが突っ込み、赤のゴーレムの突進が遅くなり、前屈みになる。炎を纏っていない頭を踏み台にして、ゼムは上空に跳躍した。
ローレン「おお!なんという動きじゃ!」
ゼムは空中で緑と白の光球を融合させる!
ゼム「ライトニングアロー!」
雷がゼムの手から放出される。放出された雷は赤のコアのゴーレムに直撃した!
赤のコアのゴーレムは機能停止した。
ゼムは赤のコアのゴーレムの上に着地する。
ゼム『さあ、これであと2体だな…』
黄色のコアのゴーレムは攻撃できないと判断したのか、腕を抜き、身体を土の鎧で覆い始めた。
緑のコアのゴーレムは、ゆっくりと黄色のゴーレムの方に歩いている。
ゼム『残りは赤い光球のみ、他のを作り出すには時間が足りない…そしてあのゴーレムに合流されるとこっちが不利になる。』
ゼムの赤い光球が光り出す!
ゼム「ファイアカーテン!」
ゼムの手から放出された炎はまるでカーテンのように広がり、緑のコアのゴーレムと黄色のコアのゴーレムの間を塞いだ。
ゼムは走り出した。走りながら、水の光球を作り出す。
ゼム「ウォータースライサー!」
ゼムが黄色のコアのゴーレムが鎧を作っているスキを突き、黄色のコアのゴーレムの足を切断した。
ゼム『これで、あとは緑のコアのゴーレムだけだ。』
そのとき、炎のカーテンの向こうから緑色の光が見える。
ゼム『しまった!』
緑のコアのゴーレムが風魔法を発動し、炎のカーテンを更に燃え上がらせる。
ゼム『くそ…!このままだと炎に巻かれてやられちまう。巻かれる前に出せる光球は一つだけだ。どうする…』
ローレン「ここで、全てが決まるのう。さぁ、正念場じゃゼムよ…」
ゼムの周りに炎が巻かれる。
炎が消え去ったところには、土のドームのような物が、出来ていた。
ローレン「ほう、土魔法でドームを作ったか…しかしあれでは中は高温になり、蒸し焼きじゃぞ…」
緑のコアのゴーレムは土のドームに殴り壊す。
緑のゴーレムが中を確かめようと中を覗き込んだ。
ゼム「フレイムブレード!」
ゼムが近くの茂みから走り出し、緑のコアを破壊した。
ゼム「やっと終わったぜー…」
第5章 継承そして…
ローレンが近づいてくる。
ローレン「最後はどのようにして、隠れたのじゃ?」
ゼムは息を切らしながら答える。
ゼム「簡単な話だよ。土の魔法でドームを炎側から作って、ゴーレムから見えない死角を作り出したのさ。そのまま、土の壁で炎を遮れば、真後ろが空く。そこから茂みに隠れてコソコソと近づいたのさ。」
ローレンは目を丸くする。
ローレン『このゴーレムは、ゼムの魔法出力の数倍はある代物なんじゃが…魔法の威力を限界まで高めて勝つかと思えば、理と状況判断能力で切り抜けおったのか…』
ローレン「見事じゃゼムよ。魔法に対してそれ以上の魔法で返すのではなく、理をもって力を制す。素晴らしい戦いであった。」
ゼム「どうも、ありがとうございます。」
ローレンは笑顔になると、振り返った。
ローレン「ゼムよ…付いてきなさい。」
ローレンは森の奥へと歩き始めた。ゼムは重い体を上げて、ローレンの後をついて行く。
ローレン「ここじゃ…」
ローレンが案内した場所には墓があった。墓石には名前が書いてある。
【暁の軍師 エドガー・フェルディナントここに眠る。】
ゼムは目を見開く。
ゼム「ローレン、これって…?」
ローレン「そうじゃ賢者の始祖、エドガーの墓じゃ。エドガーは昔、ある王国の軍師で今の世界の統一に導き、今の世界の礎を築いた男じゃ。今やその王国も分裂し、様々な国に分かれておるがのう…」
ローレンは墓の前に立ち、呪文を唱える。
すると、墓石が後ろに動き、中から白い何かが見えた。
ローレン「賢者はエドガーより伝えられていることがある。それは、エドガーの後継者になるものにこれを渡すことじゃ」
ローレンは白い何かをゼムに手渡す。
ローレン「それは、リードタクトと呼ばれる物じゃ…。それは魔法の発動や武器にもなる古の魔道具じゃ。」
リードタクトと呼ばれる白い何かは、全長にして30センチくらい、先端は尖っており、持ち手は軽く膨らんでおり、手に馴染むような形だった。
ゼム「リードタクト…」
ローレン「これにて、最終試験と継承は終いじゃ…よく頑張ったのうゼムよ。」
第6章 旅立ち
最終試験を終え、家に戻ってきたゼムとローレン
当たりはすっかり日が落ち、暗くなっていた。
ローレン「ひとまず、飯にしようかの。ゼムよ先に泉で身体を洗ってくるが良い。」
ゼムは泉で身体を洗う。外傷こそないが、アザが少しできている程度だった。
ゼムは身体を洗い終えて、家に戻ってくる。
そこには、見たこともないような御馳走が並んでいた。
ローレンがニヤリと笑う。
ローレン「驚いたじゃろう?お主が試験を乗り越えると信じて、用意しといたんじゃ!」
ゼム「全然気付かなかった…」
ゼムとローレンは席に付く。
ローレン「ああ、そういえば言い忘れておったわ」
ゼム「なんだよ?早く食べさてくれよ…」
ローレン「誕生日おめでとう。ゼムよ。」
ゼムは目を見開く
ゼム「俺の誕生日知ってたのか?」
ローレン「いいや知らんぞ?ただ、今日でお主を拾ってちょうど8年となる。おそらく年齢は18〜20くらいじゃろう。だから、今日をもって大人じゃな」
ゼム「そうか、もうそんなに…」
ゼムは涙目になる。
ローレン「相変わらず、泣き虫じゃのう…ほれ!今日はお祝いじゃ!酒も出そうぞ!」
ローレンとゼムは酒も飲みながら、御馳走を食べ始めた。
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ローレンとゼムは、食べ終わるとゼムがコーヒーを淹れてローレンに差し出す。
ローレン「おお!ありがとうの」
ゼムは真剣な顔で切り出す。
ゼム「俺はどうすればいいのか…ルドガーの継承者となった今、何をすればよいのか…」
ローレンはコーヒーを一口飲み、話し始めた。
ローレン「何でもいいんじゃよ…まずは、森を出て世界を見てくるがよい。良いところも悪いところもな。それで、この世界をどう導くのか決めればよい。それがお主の使命じゃ…」
ゼム「俺はそんな大層な人間じゃない…魔法も闇だけは使えないし、魔法出力もそんなに高くない…」
ローレン「お主に必要なのは、信頼できる仲間じゃ…ワシのような老いぼれではない。ゼムよ…今は大いに悩みなさい。そして、森を出て答えを見つけるのじゃ。それがワシの最後の試練じゃ…」
ゼムは席を立ち、ローレンに抱きつく。
ゼムは泣いている。
ローレン「大丈夫じゃ…お主は継承者である前にワシの息子のようなもんじゃ…辛くなったらいつでも帰ってこい。」
ゼムはローレンの胸の中で頷いた。
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それから約10日後、ゼムは旅支度を整えた。
ゼム「ローレン、俺は行くよ。」
ローレン「寂しくなるが、これが今生の別れではない。ワシはお主が立派な男になるのを待っておるぞ。」
ゼム「ありがとう、ローレン。俺を拾ってくれて、そして俺を息子同然に育ててくれてありがとう。」
ローレン「いってらっしゃい」
ゼム「行ってきます。」
ゼムは森の出口に向けて歩き出した。
森の中に入ると、木々の間から光が差し込み光の道のようななっている。
ゼム『そうか、お前たちも見送ってくれるんだな…』
ゼムは森の光の道を歩き続け、森から出た。
ゼムは始めて外の世界を見た。
ゼム「すごいな…これが世界か!?」
広い空、遠くまで見える地平線、白く漂う雲
ゼム「よし、まずは人と会うところだから、街道を探そう!」
小さな一歩だったが、これはゼムが「世界の導き手、暁の軍師」なる序章である。
第1部 完