一生続くデスゲーム
最終話になります。
「こんな人気がない所に一人で来て、何かあったらどうする。危険を冒してまで、あの糞女がそんなに気になるのか?」
人の気配がして振り返ると、かなり面白くなさそうな表情をしたカイナル様が立っていた。速攻バレると思っていたので、特に驚かない。黙って屋敷を抜け出した事よりも、目的の方が不快に感じているようだった。
「まぁ、それなりに。同情など一切しませんが、見送る者が誰一人いないのは、あまりにも寂しいと思いませんか……」
自分が時計塔に来た時は誰もいなかった。来る気配もない。もしかしたら、裏門の建物の影で見送る信奉者がいるかもしれない。
私が今いるのは、この王都で一番高い建物、時計塔の見張台だ。王都の中央に建っているから、王都全体がよく見渡せる。
でも私が見ているのは、正門ではなく、もう一つの門に続く細い道。その先は、裏門へと続いている。主に、罪人や奴隷、死人が通る道だ。
その道を、檻で囲まれた護送車が一台、裏門に向かって進んでいた。
本日の罪人の護送は、ユベラーヌしかいない。なら、あの護送車がそうだろう。
(まだ、気絶したままかな?)
目を覚ました時、ユベラーヌは、自身が置かれた状況に発狂しそうになるかもしれない。でも、決して楽にはなれない。最低限の【治療魔法】、そして、高い【精神維持魔法】が、常に掛かっている状態だから。奴隷紋には、そういった魔法も組み込まれているの。
つまり、怪我をしても、どうにか身体が動かせる程度の【治癒魔法】、精神が壊れないために【精神維持魔法】、この二つの強固な魔法が施されているの。後は、逃亡防止とか……諸々にね。その強度は、懲役年数に比例する。因みに、強度が高ければ高くなる程、奴隷紋を刻む範囲は大きくなり苦痛も強くなる,。
ユベラーヌは三十年、左半分が刻まれたと聞いた。
ゼシール王国としては、いずれ、コーマン王国を吸収したいと考えているみたい。でもその前に、賠償金はきちんと回収するけどね。
ほんと、怖いよね。でもそれが、国を維持し発展させるのだと思う。
「シアは優し過ぎるな。でも、そこがシアらしくて、俺はホッとする」
そう言いながら、カイナル様は私を片腕で抱き上げる。
いつもと同じ安定感と温かさ。私が護りたかったもの。私の居場所で帰るべき所。
「優しいって言うのは、カイナル様ぐらいですよ」
(気が強いとか、腹黒とは言われてるけどね。ほんと、カイナル様って……)
私を甘やかすのが上手い。それが居心地良くて、私は甘えたくなる。
(今日くらい、甘えてもいいかな)
私は自分から身体を寄せてみた。といっても、抱っこされているから、上半身を傾けただけだけど。それでも、滅多にしない事だから、カイナル様は驚いてあたふたしだす。
「そうか……ん、どうした!? 寒いのか!?」
心配するカイナル様に、私はポツリと呟く。
「……少しだけ、寒いです」
心が冷えていた。だから、カイナル様に温めて欲しい。私が無条件に弱みを見せ甘えられるのって、カイナル様しかいないの。
カイナル様の大きな身体が、私の小さな身体をスッポリと包み込む。それだけで、私は緊張が解け息がつける。気持ちがリセット出来るの。
(いつから、私はカイナル様を受け入れたのかな……)
忘れたわ。いつの間にか、受け入れていたわね。
恋愛小説に出てくるような淡い恋心とか、全く抱いていないけどね。でも、「好きか?」と訊かれたら、迷う事なく「好き」って答えるわ。そうでなければ、ここまでしないよ。
本当……不思議だよね。
拉致監禁から始まったんだよ、私とカイナル様。よく、番だと受け入れたよね、私。
私の行動と言葉で、簡単に闇落ちするカイナル様。
言葉を選びながら、それでも、私は自分の考えを述べ続けた。即監禁したがるカイナル様を躱しながら、人生を賭けたデスゲームを、今、この瞬間も繰り広げている。
(まぁ、監禁されていない所を見ると、優勢なのかな。たぶん……一生続くような気がするわ)
私とカイナル様とのデスゲーム。
負ける気はないから。これからも、本気で回避していきますから、カイナル様、覚悟して下さいね。私も改めて覚悟を決めたのだから。
「帰ろうか、シア。今度は、尻尾だけでなく、背中もブラッシングして欲しい」
とろけるような笑顔のカイナル様。
「はい!!」
私はカイナル様の背中に腕を回す。私の覚悟にカイナル様が答えてくれた事が、とてもとても嬉しかった。
カイナル様の瞳に映る私も、彼に負けないくらい、幸せ一杯の笑顔だった。
(大好きですよ、カイナル様)
この気持ちが、愛に変わるかはカイナル様次第ですね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
とても嬉しく、励みになりました。
ユリシアとカイナル様の関係は、夫婦になっても続くのでしょうね。こういう関係も、いいなと思います。
カイナル様のお兄様たち、最後まで出て来なかったですね。もし、期待していた読者様がいらっしゃったのなら、すみませんでした。




