入学式前夜
いよいよ、学園編スタートです。
六年経って、今十二歳です。
ヤンデレ度★★☆☆☆
あの馬車の告白から、カイナル様との関係は特に何も変わってないわ。変わったら、倫理上アウトだからね。
話していたピアスも、まだ貰ってない。さすがに、六歳の子供にピアスは駄目だったのかな? まぁどっちでもいいけど。いずれ、くれるでしょ。
そうそう、カイナル様が優秀な家庭教師を付けてくれたおかげで、無事、ぜシール王立魔法学園の中等部編入試験に合格したよ。それも、第二位の成績で。凄いでしょ!!
受けるなら、上位の成績を残さなきゃって思ってたから。だって、私は英雄カイナル様の番だからね。それが叶って、すっごく嬉しくて、ホッとしてる。カイナル様も執事さんも皆、自分事のように喜んでくれた。勿論、私の家族もね。
中等部編入試験まで六年。
六年のうち五年間は、礼儀作法とか、貴族としての教養に時間を掛けた。そして、残りの一年を編入試験の対策に当てた。試験日が近付くと、ゴルディー公爵家に泊まり込みで勉強したよ。覚えることが多過ぎて、マジで何度か頭がパンクしかけたよ。実際、頭から湯気出てたし。
大変だったけど、とっても楽しかった。
一級司書官になるって夢があったから、ずっと勉強しないといけないって思ってたから。でも、平民の私には難しい。商会でもないからね。図書室で、カイナル様に大口を叩いたけど、内心、半ば諦めていたの。あまりにも壁が高過ぎて。色んな意味でね。
そんな私に、カイナル様はチャンスをくれた。感謝してもしきれないよ。それに、六年間、家族と暮らせたことにもね。
学園にはゴルディー公爵家から通うことになったの。当然だよね。私はカイナル様の番として入学するんだから。入学の準備と引っ越しでバタバタしてると、あっという間に入学式前日になった。
「……ユリシア」
いつもと同じように執務室でゆったり魔法書を読んでいると、気付かないうちに隣に座っていたカイナル様が、小さな高級そうな箱を手渡してきた。中を見なくても分かる、ピアスだって。開けたら、やっぱりピアスだった。
カイナル様の瞳と同じ色をした、青色と金色が混じった不思議な色の魔石のピアス。
とても綺麗で、つい口元が緩んでしまう。カイナル様の色だからかな。未だに、恋愛感情ってよく分からないけど、こういう気持ちの積み重ねかなって、今は思うの。
「着けてくれるか?」
(何、そんなに心配そうな顔をしてるの? もしかして、断られるとか思ってる。馬鹿だね、そんなことないのに)
「痛いのは苦手なので、出来れば、痛くないようにお願いします」
また、ぶっきらぼうな言い方しちゃったよ。素直に、嬉しいですって言えたら、カイナル様は少しは安心するのかな。心の中ではいくらでも言えるのに、ほんと、嫌になる。
それでも、カイナル様は蕩けた表情を見せてくれる。
「分った。痛くしないようにする。少しでも痛かったら、遠慮なく言ってくれ」
カイナル様の少し冷たい手が、壊れ物を扱うように優しく私の左耳に触れる。なんか恥ずかしい。顔が熱くなってきたよ。
「顔が赤いが、熱があるのか!?」
(わざわざ、口に出して言わないでよ。却って、恥ずかしいじゃない)
「熱はありませんから、続けて下さい」
「そうか」
(私をいつも気遣ってくれるのは嬉しいけど、こういう時は強引に進めてよ。もしかして、わざとなの!? だったら、意地悪だわ)
心の中で悪態を吐いていると、カイナル様は耳たぶを軽くつまむ。そして、何か口の中で呟く。すると、耳たぶの感覚がなくなった。直ぐに、パチンと乾いた音がする。
「……終わったぞ」
そう告げると、カイナル様は手鏡を私に手渡してくれた。
(もう終わったの? 全然、痛くなかった)
手渡された手鏡の中の私の左耳には、カイナル様の瞳の色の魔石がキラリと輝いている。
感動していると、カイナル様が私を抱き締めてた。いつもはジタバタと暴れるけど、今は暴れない。
「これで、ユリシアは俺のものだ。俺だけのものだ。長かった……本当に長かった」
そんな呟きが聞こえてきた。
「始めから逃がすつもりがなかったのに、おかしなことを言いますね」
笑いながら、私は言う。
「身体はいつでも手に入れることが出来るが、俺は欲張りだから、心も欲しかった」
(いつでも手に入れれるって……私、まだ十二歳だよ。それ、他所で言ったら、立派なロリコン宣言だからね)
「言っておきますが、婚約したからといって、これ以上進むのは、私が高等部を卒業してからにして下さい」
ちゃんと釘を刺しておく。
「最後までしなかったらいいんじゃないか」
(何を言い出す、このエロ獣人!!)
「手を出してきたら、荷物を持って速攻家に帰ります!!」
私は本気だからね。持って来た荷物は少ないから、直ぐにでも帰れる。
「許可が出たら、手を出していいか?」
(婚約したからなの?)
かなり強引だよ、カイナル様。
「絶対に出しませんから!!」
真っ赤な顔をしてそう断言する私を、カイナル様は幸せそうに笑った。その笑顔を見ていると、私の心に渦巻く不安が晴れた気がした。
明日から学園に通う。
望んで入学するけど、たぶん……色々な厄介事が降り掛かって来る気がするの。
白銀の守護神様の番は、色んな意味で、どうしても目立ってしまう。皆の憧れで、神聖視されてるからね。
今までは、家族とカイナル様の保護下にいた。
でも、学園では保護の力がどうしても弱くなる。ピアスをしていてもね。悪目立ちはしたくはないけど、私が平民の出だけで、既にしてると思う。排除しようと考える人も出てくるでしょうね。私らしく、そして、カイナル様の評価を落とすことなく、負担にならないように頑張らないと。
それが、カイナル様を護ることにもなるし、私の夢にも繋がっていると信じてるから――




