公開裁判始まりました
その日は、とても晴れた日だった。
王都の広場に大勢の人が集まっていた。殆どが、傍聴席が取れなかった人たちだ。彼らが見ているのは、裁判室での映像だった。因みに、この映像は各施設及び王城にも流されている。
被告人席を見下ろすように置かれた法壇には裁判長が、その一段下には書記官が二人座っていた。
「被告人ユベラーヌ、前に出なさい」
裁判開始時間きっかりに、裁判長が厳しく、感情が一切こもらない声で淡々とユベラーヌに命じた。
ユベラーヌの名前が出た途端、ざわつく裁判室。彼女が入室した時よりも、ざわつく声は大きい。
直ぐに、裁判長は「静粛に」と傍聴人を注意し、木槌を叩く。その通る声に、大勢いる傍聴人たちは一斉に口を閉じる。
特別席にいる私たちとは違い、やっとの思いで、高倍率の中、傍聴券を勝ち取りこの場にいるのに、些細な事で追い出されたくないからね。でも、騒ぎたくなる気持ちは分かるわ。
平民であるユベラーヌに家名はない。なので、読み上げられるのは名前だけ。
この時点で、裁判を傍聴する人たちは、ユベラーヌが王女でなく、ただの平民に堕ちた事を改めて再認識した筈。
そもそも、名前を呼ばれる前から、ドレスやワンピースではなく、囚人服を着ての登場だから、容易に想像出来たでしょうね。更に、深読みも出来る。ユベラーヌの成し得た事を知っている人から見たら、信じられない光景よね。
(堕ちる所まで堕ちた感じかな)
裁判長の台詞に返事をせずに、ユベラーヌは暗い表情のままフラリと立ち上がる。そして、ゆっくりと歩き、被告人席に向かった。
まるで、覇気のない姿はレイスのように見えた。私は言葉を失う。
(どんな尋問をしたのか、訊かなくてよかったわ……想像するだけで、トラウマレベルね、きっと)
それにしても、実際、この目で裁判を傍聴するのは始めてだけど、この裁判そのものが異様だと、直ぐに気付いた。
だって、ユベラーヌの両脇には、兵士や騎士ではなく、カイナル様とリアお姉様の副団長が立っているからだ。それに、退場する時は手枷だったのに、今は首輪を装着している。まるで、奴隷のように。その上、傍聴席の前には結界が張られていた。重々しい様子から、かなり警戒をしているのが分かった。同時に、そこまでしなければならない重罪人だと、この映像を見る全ての者に知らしめているようだった。
(皆の怒りがヒシヒシと伝わってくるわね)
「被告人、名前を言いなさい」
裁判長が命ずる。
(いよいよ、公開裁判が始まるわ)
「…………ユベラーヌ・コーマン。コーマン王国第二王女ですわ」
とても小さな声だけど、ユベラーヌははっきりと言い切った。
「既に、ユベラーヌ・コーマンの王籍は剥奪されている。その旨が記された、コーマン国王陛下の直筆の書類もここにある。故に、被告人は平民だ」
何度も説明されていると思うけど、どうやら、未だに納得出来ていないみたいね、っていうか、納得したくないのね。
「ならば、私はコーマン王国の民。他国の者を勝手に尋問に掛け、被告人席に立たすなど、許されぬ行為です。恥を知りなさい」
ユベラーヌは顔を上げ、裁判長を見据え言い放つ。
(まだ、それだけの事が言える気力が残っていた事に驚きだわ。というか、最後の気力かな)
そんなことを考えていると、隣からクスッと笑う声がした。笑っているのはカイナル様。
(うっわ〜めっちゃ黒)
もしかして、ギリギリ気力が残る程度に尋問をコントロールしてた? うん、してたね、これは。
「どうした? シア」
一瞬に、違う笑顔に変わる。優しくて、温かい笑顔に、私は内心引いた。でもそれが、カイナル様なんだよね……
「……カイナル様、この【公開裁判】で完全に心を折るつもりですね」
(それしか考えられない)
「分かったのか!! さすが、俺の運命の番」
褒めて欲しそうだけど、私がそうしてねって頼んだ訳じゃないからね。だけど、ここで褒めとかないと、更に突き進みそうね。
私はカイナル様の袖を引っ張り、耳元に口を寄せ囁いた。
「帰ったら、久し振りに、尻尾をブラッシングさせて下さいね」
獣体はまだ見せてもらってはいないけど、尻尾のブラッシングはさせてもらってるの。それも、つい最近になってやっとね。それまでは、触らせてくれるだけだった。
「……シア、嬉しいが、その発言は、さすがに俺でも恥ずかしい」
頬を赤らめるカイナル様。そして、前の席に座っていたアジル殿下とスノア王女殿下が、真っ赤な顔をして振り返る。
「えっ!? 私、何か間違えましたか?」
「「……後で、勉強しようね」」
焦る私に、両殿下がハモりながら言った。
余程、私たちが仲睦まじく映ったのね、ユベラーヌは私の事を憎々しげに睨んでいた。すぐさま、隣にいたカイナル様の副団長に頭を押さえられた。
だから、私はニッコリと微笑んでやった。自分の性格の悪さに驚きよ。ユベラーヌは、怒りで真っ赤になった。完全に、私とカイナル様に意識が向いている。
(いいの? 今、裁判長、結構大事な事話してるわよ)
「被告人が犯した罪に関して、ゼシール王国で裁いても構わない旨も明記されている。故に、国際上、問題は何もない」
「えっ…………」
呆然とした表情で、ゆっくりと、ユベラーヌは裁判長に視線を向ける。
「よいか、被告人はゼシール王国の法によって裁かれ、罪を言い渡される。コーマン国王陛下も了承済みだ」
表情一つ変えずに、裁判長は告げる。
つまり、二度とユベラーヌはコーマン王国の土を踏みしめられないって事よ。早い話が、王国の存亡のために売られたの。極刑後は分からないけどね。まぁでも、わざわざ罪人の遺体を他国に送り届ける事なんて面倒な事しないよね。
やっと現実が分かったのか、ユベラーヌは藁でも縋る目で、私のカイナル様を見詰める。
(まだ、カイナル様を自分の運命の番だって思っているのかな? それとも、自分を救ってくれる王子様だと思ってる? 違うでしょ。カイナル様はどこからどう見ても、番を大事に思う魔王だよ)
現に今も、あの黒い笑みを隠そうともせず、ユベラーヌを見下ろしている。
とてもとても冷たく、底が知れない程の暗い目で――




