悪役には悪役を。悪役令嬢には悪役令嬢を
「私は言いましたよね。魔法に掛かったと。ならば、解呪されたと考えるのが自然ではありませんか?」
そう問い掛けても、ユベラーヌは私を睨み付けるだけで、言葉を発さない。構わず、私は続けた。
「コーマン王女殿下も、よくご存知の通り、コルディー公爵家は、武闘だけでなく、魔法にも特化しております。どのような魔法陣を用いたのか、何を媒介にしたのか、使用された魔力の判別と特定など、容易に出来るのです。それが、解呪された後の残滓からでも」
「まわりくどい!!」
苛々したユベラーヌが怒鳴り付ける。さっき見せた、恐怖に歪む顔は何処に行ったのか。
(立ち直り早いわね。まぁ、ここで踏ん張らないと、後がないって思ってるから必死だよね)
「……もう、判定は済んでいるのです、コーマン王女殿下」
一呼吸置いてから、私は静かに告げた、
証拠といっても、これはまだ状況証拠に過ぎない。呼吸をするように、魔力もまた微量だけど体外に放出されているからだ。ましてや、この人の多さ。故に、証拠能力は低くなる。
つまり、物的証拠は何一つ提示はしていないって事になる。これだけでは、ユベラーヌを追い込む事は出来ない。
それは、ユベラーヌも理解している。だけど、何か忘れてない?
想定外の事が起きすぎて、今、必死で計算してるわね。そして、一つの答えを出す。
これから先、物的証拠を出す事は難しいと――
最大の理由は、物的証拠となる媒介は壊れてないからだ。あの黒い蛇がユベラーヌの喉元を噛んだ時、媒介は壊れた。
(そこまで考えていたとしたら、マジ怖いわ)
でもね、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。ましてや、カイナル様やコルディー公爵家の皆に、最後の最後まで護ってもらうわけにもいかない。
番は護られて当然って考え、私は少し違うと思うの。私が人族でもね。
人族は亜人族より遥かに弱い種族だ。だから、尚更、カイナル様は私を護ろうとする。その気持ちは理解出来るし、大事にされてると思う。
でもね、それは対等じゃない。
私には一級司書官になる夢があるわ。その夢を叶えるためにも、カイナル様と対等でいたい。だから、私は私の矜持を貫くわ。貫かなければならないの。
そしてそれを、皆に示さなければならない。
「そこまで断言するのなら、証拠は当然用意してるのよね、平民」
(あくまで、私を王族には見ないっていうのね。面白いわ)
「貴女は、本当に狡猾で、頭が切れる方ですわ。媒介にした証拠品は、呪いを跳ね返したと同時に壊れてしまいましたもの」
そこまで告げると、ユベラーヌは勝利を確信したようにニンマリと醜く笑う。
「つまり、証拠がないと……証拠もなしに、コーマン王国の王女である私に対し、たいした大口を叩きましたね、平民上がりの王女風情が!!」
想像していた通りの答えが返ってきて、私は内心ほくそ笑む。私の反応を見て訝しむ前に口を開く。
「先走り過ぎですわ。確かに、媒介にしていた物は壊れてしまいました。でも、それがなくても物的証拠を提示する事は出来ますよ」
私がそう答えると、鼻で笑われたわ。
「……貴女が魔法を掛けられたと仮定して、それが私だと、どう立証するつもり? 状況証拠の積み重ねで証明するとは言わないでしょうね」
そう……証明出来れば、私の勝ち。出来なければ、ユベラーヌの勝ち。友好国を解消され、今回の件で、おそらく国交自体凍結されるだろう。それでも、一国の王女を罪に問うには、決定的な一打が必要になる。
(このままお帰り頂くだけで済ます気は、はなからないのよ)
「それなら、貴女が既に立証してくれましたわ。誰も出入りしていない貴賓室で、貴女は私たちと対面した。そして、今この場で【言霊】を使用しました」
そう告げると、ユベラーヌはハッとする。しかし、媒介である魔石が壊れたから大丈夫だと信じ、まだ強気でいた。
「【言霊】は魔力を言葉に乗せたものですから、照らし合わせる事が可能です。ユリシアという名前で従属状態にし、いいえという言葉を強要する。違いますか?」
「だから、証拠を出しなさいって言っているでしょ!!」
ユベラーヌは苛立ちを隠そうともせずに恫喝する。私はそれに、冷笑で答えた。
「証拠はちゃんと用意しますよ、コーマン王女殿下。でも、その前に、一つ確認したい事があるのです。貴女の真の狙いについて」
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てるようにユベラーヌは言った。私は構わず続けた。外野がざわざわしているのを聞きながら。
「コーマン王女殿下の真の狙いは、私の身体ですね。入れ替わりが成功したら、貴女はカイナル様の番になれると考えたようですが、安直過ぎますわ。かなり、勝算の低い賭けですね」
私の台詞に、外野たちは一瞬息を止め騒ぎ出した。
(さぁ、どう出る?)
ユベラーヌを伺っていると、扇を広げ口元を隠すと声高らかに笑った。
「……さすが、平民ですわ。想像力が豊かだこと。その才能をいかして、戯作者にでもおなりなさいな」
(マジで、恋愛小説に登場するような悪役令嬢っているのね……私も大概悪役顔で、不本意ながらその立ち位置にいるけど、ユベラーヌには負けるわ)
悪役には悪役を。
悪役令嬢には悪役令嬢を。
私も扇を広げ口元を隠した。まだ子供だけど、それなりには様になるでしょう。
「あくまで、認めないと……まぁ、そうですよね。魔力は特定出来ても、媒介がない場合、目視する術はないと言われてますから。でも……それ、古いですよ。術はあるのです。というより、この魔法もまた国によって管理されていますわ」
(そう、存在するの)
念のために、カイナル様と私は、その使用許可を国王陛下からもらっている。
私がそう告げると同時に、カイナル様が空中に右手を翳す。すると、空中に小さな光の玉が現れた。
「……何、これ?」
「貴賓室で漂っていた、コーマン王女殿下の魔力の残滓です」
次に、カイナル様が左手を右手と同じように動かすと、私とユベラーヌの身体から吸い上げられたものが一箇所に集まり、赤黒い光の玉へと変化した。
「嘘……」
(ショックで、声もまともに出てないわね)
いくら、その魔法が存在していても、使える者がいるとは思わないよね。殆ど廃れて、忘れ去られていた魔法だから。必要性が乏しい上に、複雑で繊細過ぎて、かなりの魔力を消費するからね。それを意図も簡単にやってのけるカイナル様って、やっぱり凄い。
「二つの魔力残滓の色が違うのは、使用した魔法のせい。この色で察することはできますよね、私を【隷属】しようとしていた事が……さて、それでは、照合致しましょうか」
私は空中から、一枚の鑑定用魔法紙を取り出し広げた。
扇を持つユベラーヌの手に力が入ったみたい。扇が変な音を立てている。ここまで、殺意ありありの目で睨み付けられるのは始めてね。
(これで終わりですわ、ユベラーヌ)




