私は構いませんよ。但し、入場はお一人で
藁を撒き終えた翌日、お披露目会の日がきた。
私は王妃殿下とスノア王女殿下が用意してくれたドレスを着て、カイナル様の色のアクセサリーを身に着け戦いに挑む。ちゃんと、髪も一房番色に染め上げた。
少し早目に到着した私とカイナル様は、パーティー会場の脇に設けられている貴賓室に移動する事にした。
ここに来て、まだユベラーヌは何も仕掛けてこない。
(煙は王城の隅々まで届かなかったのかもしれない)
ふと、そんな考えが過った。元々、成功率の低い作戦だったしね。
因みに、この貴賓室は王族関係者しか入れない。ここで、私たちは名前を呼ばれるのを待つ事にした。他の高位貴族は外で待機だけどね。
(それに、貴賓室なら二人きりになれるしね)
下位貴族から名前を呼ばれ入場していくといっても、今回は、伯爵以上のみ参加のお披露目会だからね、呼ばれるまでには然程時間は掛からない。まぁそれでも、安全面を考慮したら、貴賓室で待機はおかしくはない。
カイナル様は貴賓室の扉を三回ノックし中に入る。
貴賓室に入ると、私たち以外に客がいた。当然、アジル殿下やスノア王女殿下ではない。カイナル様の手が肩に乗せられ引き寄せられた。その動作で、目の前の人物が誰か分かった。
(まさか、本人が釣れるとはね)
我が国の王族しか入れない貴賓室で、ユベラーヌは一人優雅にお茶を楽しんでいた。当然、侍女も控えている。その侍女二人に見覚えがあった。確か……リアお姉様に叱責された元ゴルディー公爵家の侍女と、私が王女になった時、両殿下とお茶会した時に粗相をした侍女だ。
(なるほどね……ほんと、油断出来ない人だわ)
「どうして、貴女がここにいるのかしら? 元コーマン王女殿下」
(さぁ、直接対決といきますか)
「元とは失礼な!! 王籍を返上していないわ」
「そうですか、てっきり剥奪されたとばかり。だって、北の塔に幽閉されたと耳にしていましたから。失礼致しましたわ」
敢えて、興味がない風を装った。相手を煽るのは、私が一番得意としている所だからね。
「貴女の方こそ、元平民が第二王女なんて……眉唾ものだと思いましたわ」
ユベラーヌの台詞に笑みが溢れる。
「そうですか……まぁ、そうでしょうね。でも、入国拒否をされた国に、また恥も外聞もなく入り込んで来たとは……さすが、幽閉されるだけの事はありますね。ましてや、その格好と頭で」
私は侮蔑を込めた笑みと共に言ってやる。
ユベラーヌも負けてはいない。激しい憎悪と軽蔑、そして漏れ出る殺気と魔力。
(まぁ、ゴミ以下と思っていた人間に煮え湯を飲まされたのだから、そうなるわね)
ユベラーヌの殺気が上がれば上がる程、カイナル様の殺気も跳ね上がる。私に任せてくれるよう前もってお願いしているから、殺気だけで済んでいるのだけど……さすがね、カイナル様の殺気を浴びても顔色変えないなんて。連れて来ている侍女二人は、泡吹いて気絶してるのに。
幸いと言うか、両殿下はこの部屋にはいない。対峙しているのは、私とカイナル様だけ。でも、これだけの殺気と魔力が漏れれば、誰でも異変に気付く。なのに静かなのは、ゴルディー公爵家の騎士と侍女と執事が控えているから。私兵を王城内に入れる事は、あらかじめ許可を取っていたから大丈夫。
「あら、当然でしょ。この私が真の運命の番なのよ。カイナル様と会場入りをするのは、この私ですわ」
(いや、その自信、どこから来るの?)
それにしても、私のドレスに似せているみたいだけど、細かい所までは手が回らなかったのね。それに、生地の質も明らかに違う。既存のドレスを元に、急遽似せた飾りを付けた感丸分かり。特に、私と並ぶと偽物感出まくりね、笑えるわ。実際、笑ったよ。それも、黒い笑みで。
「自称、真の運命の番様にしては貧相だ事。ドレスやアクセサリーも用意されず、自分で用意なされるとは……心底、滑稽ですね。それも、中途半端な猿真似のような出で立ちで。並べば、どちらが本物か、誰の目にも明らかでしょうね。なんせ、愛情の差が歴然ですから。それに、その髪の色も笑えますわ。全然違いますもの。だって貴女のは、たたの明るい青色。金色が混じっていませんわ。ああ、知らないのですね、カイナル様は興奮すると、瞳の色が青から金色に変化するのです……ほんと、滑稽」
私の笑みも最高潮。
ユベラーヌは悔しがる。あまりにも悔しくて、口元から血が出てるわ。ここまで挑発されて、なんの行動を起こさない。
(明らかに不自然だわ。だとしたら、やっぱり、隠し玉はアレかもしれない)
なら、使える回数は一回か二回。どこで使うのか。ここではないみたいね。
「この平民風情が!!」
さっきから、同じ台詞ばかり。他に、何も言えないの。
「なら、会場にいる皆様に判断してもらいましょうか。私は構いませんよ。どうやら、貴女もそれを望んでいるようですし。但し、入場はお一人でお願いしますね。カイナル様は私の運命の番ですから」
私がそう告げると同時に、貴賓室の扉が開いた。入って来たのは、ゴルディー公爵家の私兵四名と、執事に侍女。私が命ずるまでもなく、ユベラーヌの両側に騎士が立つ。
この瞬間、ユベラーヌは一瞬表情を曇らせた。自分の信奉者じゃないと気付いたみたい。でも、反応は薄かった。その事に、私とカイナル様は不審感を抱く。
「この、平民風情が!! 私に指一本触れられると思っているのか!!」
その台詞に、私は苦笑する。だって、今まで色んな所で言われ続けていたから、耐性は出来てるわよ。
「何を勘違いしていますの、コーマン王女殿下。貴女は犯罪者ですよ。我が国に不法侵入したのですから。それに、私たちは貴女を招待しておりません」
忘れているようなので、現実を教えてあげた。
(なんか、呆気なさすぎる)
「不敬な!! コーマン王国の王族に対して、そのような口の聞き方、許せませんわ!!」
ユベラーヌが声を荒げる度に、私の心は静まっていく。思考がクリアになっていった。
「あら、ならば、どうなさるのですか? ゼシール王国に宣戦布告でもなさりますか? 現時点で、十分されていますよ。なんせ、ゼシール王国第二王女である私の番を横取りしようとする、雌猫ですから。それを教え込んであげますわ。その目で見て下さいね。では、パーティー会場でお会いしましょう」
その台詞を合図に、騎士二人がユベラーヌの腕を掴み立たせた。
「なっ!?」
私を罵ろうとしたが、ほんの僅か口角が上がるのを見逃さなかった。
(この選択、間違っていなかったみたいね)
「楽しんで下さいね、最後のパーティーを」
私はニッコリと微笑むと、ユベラーヌを貴賓室から追い出した。




