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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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59/71

平凡な差し色は、決して非凡にはなれません

ヤンデレ度★★☆☆☆


 結局、大まかな、作戦の骨組みさえ微妙なまま、リアお姉様は持ち場に戻って行った。取り敢えず、騒ぎが起きる可能性がある事と、騒いでもいい許可さえ取れればいい。


 最悪、ユベラーヌを取り逃がしても、彼女が逃げ込める国はコーマン王国しかなくなるだろう。その王国も、前回と今回の件で、更に力なき小国になる事が決定している。その原因となったユベラーヌを、余程の馬鹿じゃない限り、コーマン王国以外の国は保護しない。というか、出来ないよね。


 総合的に考えれば、この戦は私の勝ちだ。でもね、不戦勝は面白くない。だから、私は手を打つ。


 まずは、第一段階。


 私は控えていた執事を呼んだ。そして、お茶のおかわりを頼む。但し、新人の侍女を指定して。私の意図を呼んだ執事は頷くと部屋を出て行った。


 藁を撒くのは私じゃなくてもいいからね。それに、彼女たちの方が最適でしょ。彼女たちは、王城の隅々まで移動可能なのだから。


 後は、私が立てた作戦が成功するように、少しでも成功率を上げる手を考えるだけだ。でも、それが一番の難関だよ。


(新しい藁ね……)


 何か特別な物がいい。誰もしたことがなくて、でも心に残る物。特に恋愛脳に突き刺さる物がいい。


(そんな、都合がいいものってある?)


 考え込んでいると、眉間をゴリゴリされた。思考が中断され目を開けると、知らない間にソファーに座らされていた。カイナル様は床に膝を付き、私の顔を至近距離で覗き込んでいる。


 深く考え込むと、目を瞑る癖があるの。その時、カイナル様はいつも眉間の(しわ)を伸ばそうとしてくる。


「シア、また眉間に(しわ)を寄せてる。ほら、口を開けて」


 そうカイナル様に言われて、反射的に口を開けた。チョコの濃厚な甘さが口一杯に広がる。


(何、これ! ?めっちゃ美味しい)


 自然と口元が綻ぶよ。


 餌付けはよくされている事だから、普通に受け入れていたけど、アベル殿下とスノア王女殿下にとってはかなり刺激的なシーンだったみたい。顔を赤らめながら私とカイナル様をチラチラと見ている。


「もう一個食べるか? それとも、別のお菓子がいいか?」


「今はこれで十分です。どうぞ」


 今度は、私がカイナル様の口元に、一口大に切ったサンドイッチを持っていく。普段、カイナル様は餌付けをするのが好きなんだけど、されるのも好きなの。もっぱら、される専門だけどね。


 第一弾の藁を撒くためとはいえ、公爵家でしている事を再現するのは恥ずかしい。でも、ここは我慢。なので、抱っこされるのも我慢。


 別に色んな所で見せ付けなくていい。数人の侍女、それも新人の侍女や従者たちに見られれば、それは噂になる。おおっびらにばら撒けば、わざとらしくて気付かれる可能性があるからね。


「……これが、いつもの日常なのね」


 新人の侍女がお茶を淹れて出て行ったのを確認してから、スノア王女殿下が口を開いた。


「…………そうですね」

 

 私が許したとはいえ、苦笑しか出ない。


「明日は、更に仲良い場面を見る事になりそうね」


 かなり疲れた様子で、スノア王女殿下が言った。


「さすがに、それは無理です。ここが限界ですから」


(私の心臓が保たない。何、不服そうな顔しているの、カイナル様は)


「なら、どうするの?」


 スノア王女殿下が訊いてきた。


「はっきり確認出来る物って難しいですよね……ドレスの変更もアクセサリーの変更も嫌です。カイナル様の色を纏うのですから。でも……それって、ありきたりですね」


 考えを(まと)めながら呟くと、カイナル様の身体が強張り、室内の温度が下がった。吃驚して顔を上げると、カイナル様がやや暗い目で私を見下ろしていた。


(あっ、ヤバ)


「違います!! アクセサリーの駄目出しではありません!! とても気に入ってますから!!」


 キッパリと否定する。


「なら、何が不満なんだ?」


 抑揚のないカイナル様の声に、少し胸が痛む。


「不満ではなく、それだけでは、印象に乏しいというか……婚約発表の場では、誰もがそうしますよね」


(説明し辛い。これで伝わるかな?)


「……つまり、シアは、アクセサリー以外にも、俺の色を身に纏いたいと言いたいのか?」


(正解です)


 さすが、カイナル様。それに、とても嬉しそう。尻尾が左右に揺れてるわ。


「ええ、その通りです!!」


 満面な笑みで肯定した。


「なんとなく、ユリシアの言いたい事は理解出来たけど、アクセサリーの他に纏えるものあるかしら?」


「ドレスの変更は、今からだと無理だ……」


 スノア王女殿下とアジル殿下が指摘する。


 言葉にすると簡単だけど、いざやるとしたら何を染めるか悩む。そしてそんな時、高頻度でカイナル様は私に悪戯(いたずら)を仕掛けてくる。今も、髪を……髪……?


(髪なら、染めることが出来る!!)


「思い付きました!! 髪の一房を互いの色に染めるのはどうでしょう!? 目立たなく、でもさり気なく、分かる人には分かるように!!」


 思わず、立ち上がって叫んじゃった。


 変異魔法の中で、確か……顔の造形だけでなく、髪の色だけを変化させるものがあった筈。手に取り、範囲も最小なら、然程の精密さは問われないでしょ。


 それにユベラーヌなら、絶対喰らいついてくるわ。


「面白そうだな」


 カイナル様は早速、私の髪を掌に乗せ、軽くキスをし魔法を掛ける。


 優秀な侍女が何も言わずに、手鏡を渡してくれた。横の髪が一房、青色なのに光が当たると金色にも見える色に染まっていた。カイナル様、感情が高ぶると、瞳の色が青から金色に変化するの。これなら嫌味にはならない。


《黒に近い焦げ茶の髪に、この色って……)


「さぁ、シア、今度は俺を染めてくれ」


 すっごくご機嫌なカイナル様の声。


(あ〜完全に周り見えてない。っていうか、いないものになってるわ……)


 呆れて、小さく溜め息を吐いてると、スノア王女殿下が短い悲鳴を上げた。そのまま、真っ赤な顔で放心してしまったよ。平静を装ってるけど、侍女や執事たち、アジル殿下も顔が赤い。室内の空気も甘くなってる。しょうがないよね、カイナル様、色気だだ漏れだから。免疫がなければこうなるって、普段のストイックさを知れば知るほどね。


 髪、やってあげたわよ。


 でも、キラキラ光る白銀の髪に、黒焦げ茶って似合わない。汚れた感じだわ。カイナル様のファンに悪い事した仕上がりだわ。ちょっと、へこむよ。でも、カイナル様がすっごく機嫌がいいのが、救いだよね。


 取り敢えず、第二段階完了でいいかな。




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