罠を張ります
「カイナルだけじゃ、心細いよね。リアお姉様がキュッと抱き締めてあげる」
開口一番、リアお姉様が超ノリノリで抱き付いてきた。
お腹に回る腕がピクリと反応する。カイナル様は私の頭上でリアお姉様を威嚇中。リアお姉様は、そんなカイナル様の反応を楽しんでいる。段々、力を増す両腕。
アジル殿下とスノア王女殿下は、そんな私たちを、ポカンと見ている。ちょっと、口が開いてるよ。両殿下のそんな表情始めて見た。
(まぁ、そうなるよね……)
王城では、リアお姉様はとても冷静で、知的でクール、だけど怒らせるととても怖いらしい。魔術師だけど、軍服と鞭が一番似合うって噂されてるのを聞いた。実際、ローブより騎士服を好んで着てるから尚更だよね。因みにカイナル様は、表情筋が死んでいて、別の意味で怖さがアップしているらしい。
二人とも、孤高の一匹狼。
そんな姿しか見てないから、崩れまくった二人を見たらそうなるよね。分かるよ、分かるけど、今はこれ以上カイナル様をからかわないで欲しい。
(……そろそろ、限界かも…………)
「顔色悪いわよ!! ユリシア」
リアお姉様が、やっと私の変化に気付いてくれた。膝を付き、私の顔を下から覗き込む。その動作に、またカイナル様が反応する。
(……お願い、カイナル様を刺激しないで!! 朝食リバースしそうだから!!)
「……だ、大丈夫です、リアお姉様。少しでいいので、カイナル様、腕を緩めてくれませんか?」
少し涙目になりながらお願いしたよ。ほんと、苦しいんだよ。亜人族は人族よりも力が強いから。ちょっと力を込めただけで、簡単にギブアップ。
私の声を聞いて、カイナル様は慌ててお腹に回していた腕の力を緩めてくれた。それでも、放してはくれないみたい。リバースしなくてよかった〜
「この馬鹿が!! 人族は弱い事を忘れたのか!!」
突如師団長モードになった、リアお姉様。同時に、頭上から良い音がした。両手が塞がっているカイナル様の頭を、リアお姉様が拳骨で殴っていた。小さく、カイナル様が呻く。
「すまない、シア……」
そこまで、気落ちしなくても。耳は真横に倒れている。カイナル様には悪いけど、それはそれで可愛らしい。
「……大丈夫です。そんなにヤワには出来ていません。それよりも、今はユベラーヌの件が先です」
まだ少し気持ち悪いけど、時間が経てば治る。それよりも、今はユベラーヌの件が先。私が止めないと、リアお姉様のお説教が続きそう。こういう時は、やや強引に気を反らせるのが一番だ。
「しょうがないわね。ユリシアに感謝しなさい、カイナル。あの女の件よね、報告は受けてるわ。この王城に堂々と乗り込んで来たようね。事前に捕まえる事が出来なくて、ごめんなさい。騎士団と魔術師師団の落ち度だわ」
頭を深々と下げ、リアお姉様は謝罪する。私は軽く首を横に振る。気持ち悪さがぶり返す。
「リアお姉様の責任ではありません。不可抗力です。それでも責任があるとするなら、それは近衛騎士団でしょう」
近衛騎士団は主に王城を警備するのが仕事。今回は、他国の国王が手引きしているのだから、防ぐのは難しかったと思う。それでも、事がおさまれば、それなりの処罰は下りるかもしれない。
「寛大な御言葉ありがとうございます、ユリシア王女殿下。それで、ユリシアはお披露目会を延ばす気はないのでしょ」
にっこりと微笑みながら確認された。一瞬で、鳥肌が立つ。殺気は抑えてくれてるけど、それでも、マジ怖い。
「はい。延ばす気はありません」
「そう、ユリシアらしいわね。それで、私に何をして欲しいの?」
楽しそうに、リアお姉様は訊いてきた。とても力強い台詞に、私は安心して笑みを浮かべる。
(とても参考になります、その黒い笑み)
「特に、何も。ただ、網を張って欲しいのです。ネズミ一匹通れない程の網を、会場の外に」
会場内ではなく、会場の外。ここがポイント。
「……つまり、ユリシアが囮になるって事ね」
「私とカイナル様です」
(私たちが主役だからね)
この問題は、私たち二人で解決しなければならないと思うの。
「私も参加してるけど」
「でも、今回のお披露目会の警備は、リアお姉様が全て取り仕切っておられますよね。なら、少し抜け出しても、別に不自然ではないでしょ」
警備の総責任者が、警備の不備がないか見回るのは特におかしな事じゃない。学園内で開催されたパーティーでさえそうだった。
「抜け道を作っておいた方がいいのね」
さすがリアお姉様、少ない問答で、私が何を求めしようとしているのか理解してくれている。
「そうですね……念のために一箇所、気付かれないように作って下さい。出来れば、会場内で終わらせたいけど、万が一って事がありますから」
本来ユベラーヌは、頭がキレて賢い。行動力もあって判断力もある。なかったら、当の昔に捕縛されているよ。なので、敢えてそこを突くのが一番良いと考えた。だから、気付かれないような隙を作るの。
「……なるほど、わかったわ」
カイナル様は、私が矢面に立つ事を異様に嫌う。その点から考えれば、リアお姉様はカイナル様よりも柔軟な考えが出来る。
「ありがとうございます、リアお姉様」
「それで、まず、私は何をすればいいの?」
ニコニコ顔で、リアお姉様は訊いてくる。私も満面な笑顔で答えた。
「では、陛下と王妃殿下、そして宰相様に、今から話す計画の詳細を伝えてくれると助かります」




