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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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矜持


 隣国の、それも、幽閉中の元王女の逃亡。


 それだけでも、かなりの異常事態だから、ある程度は心積もりをして聞いたのだけど……遥か斜め上を行く内容で、頭が痛くなった。だから、思わずポロリと零してしまった。「……それ、冗談ですよね」って。


「あいにくと、冗談でも、質の悪い余興でもないんだよ、ユリシア……」


 アジル殿下が心底、疲れた顔で告げた。


「余興でも嫌ですよ、アジルお兄様。神経疑います。国王自ら罪人と一緒になって罪を重ねるとは……もう溺愛のレベルではありませんよ!! どれだけ、妄信的なのですか!?」


 どうやら、コーマン国王陛下の侍女の一人として、ゼシール王国に入国させたという。


 呆れ果て、溜め息さえ吐けない。


(状況分かってるの、マジで。自分の国を滅ぼしたいの)


 正直な話、開戦準備に入ってもおかしくない事だよ。


 だって、そうでしょ。コーマン王国は友好国を解消され、正式な謝罪をゼシール王国にし、多額の賠償金を支払ったばかりだ。それなのに、舌の根も乾かないうちにこんな問題を起こした。正気の沙汰じゃない。


 今回の訪問も、改めて謝罪し、私に対して祝いの言葉を述べたいと打診されたからだ。それさえ、本気ではなかったと受け取られても仕方ないよね。


(国交断絶かも。更に、多額の賠償金も払う羽目になるわね)


 そもそも国境の件で、散々コーマン王国の面子を潰す事になった。そして、ユベラーヌは友好国を解消する原因を作った事で、北の塔に幽閉されたと聞いた。それに関しては、我が国の暗部も確認していた筈。


 正直、幽閉というよりは、謹慎程度だったかもしれないわね。協力者もそれなりにいたかもしれないけど、最大の協力者はコーマン国王なのは間違いない。なら、甘くなるわ。


 つまり、幽閉は演出だったって事ね。


(甘く見られたものよね)


 王族籍に記載されたとはいえ、平民上がりの小娘だから、普通の王族とは違うって考えたのか。故に、そこまで大事にならないと確信してたのかもしれない。あんな事があったのに? あそこまで、徹底的に思い知らされ、警告されたのに? 考えれば考える程、分からなくなる。


 ただ言えるのは、これは貴族間の話じゃない。国同士の話だって事だ。


 スノア王女殿下もアジル殿下を見ていて、気付いた事があるの。


 外交は、舐められたら終わり、付け入らせる隙を作ってもいけない。


 いくら内々で済ませても、絶対人の目はある。国王陛下が国境の件を表沙汰にしていなくても、ある程度詳細に把握している国は、それなりに居るって事。コーマン国王は忘れてしまったみたいね。全く情けない。あり得ないわ。


「……不法入国をしてからの足取りは掴めていますか?」


(訊かなくても分かるけどね)


 掴めていれば、こんなにピリピリした空気していないわ。


「掴めてはいないが、王都に侵入した所までは把握している。犯人は今、陛下直々に詰問されている」


 苦々しげにカイナル様は言い放った。おそらく、関係者だから詰問の場から締め出されたのだろう。万が一にも、犯人が死んだら困るしね。まだ、犯人は一国の国王だから。


「なるほど……なら、王城に侵入している可能性は高いですね」


 私がそう告げると、カイナル様はギュッと抱き締めてくれた。


「安心しろ!! シアは、俺が守り抜く。最悪――」


「それは駄目です」


 私は厳しい声で、カイナル様の台詞を遮った。


「このお披露目会を中止にする事は、絶対にしてはいけません。この国に傷を付ける事になります」


「だとしても!!」


 カイナル様の中で、私は何があっても護り抜くべき存在だ。


(ほんとに、重い)


 国よりも大事なんて。番を持つってこういう事なんだと、改めて実感したよ。私も、更に覚悟を決めないといけないわね。


 ゼシール王国の第二王女としても。


「私は、カイナル様、それに今も会えずにいるお兄様たち、それに、リアお姉様が命を張り護っているこの国を傷を付ける行為は、何人なりとも許せません。それが。カイナル様でもです。中止すれば、我が国は他国から舐められます。小国であるコーマン王国に恐れをなしたと。そんな事、この私が許す訳ないでしょ」


 はっきりと宣言した。


 これは、私の矜持を掛けた戦いなの。


 たぶん、それはユベラーヌも同じ。


 ユベラーヌは、国境の件までは強者だった。自分が命じ、それを他者が当たり前のように従う。


 命令する側とされる側。


 その中間はなく、ユベラーヌは命のやり取りに関してさえ、平気で命令を下していた。それが今回、始めてされる側に落とされた。想像さえもしていなかったでしょうね。


 やたら矜持の高いユベラーヌにとって、それは屈辱以外何もでもなかった。死よりも辛い立場へと追いやられた。


 だから私を排除し、カイナル様を手に入れ、また命令する側へと返り咲こうとしているのだ。それしか、もう方法がないから。根底に、カイナル様への異常までの執着心があるのは、言うまでもないけどね。


「ユリシア……」


 私の固い決意に、カイナル様でさえ反対は出来なかった。


「……カイナル様、リアお姉様を呼んでもらえますか? それも内々でお願いします」


 私のお願いに、カイナル様は渋々「分かった」と答えた。




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