お披露目会前日
ヤンデレ度★★★☆☆
「緊張しているシアも、とても可愛いな。食べてしまいたい程可愛い」
いつもの定位置に抵抗する間もなく座らされ、やたら機嫌の良いカイナル様が、私の頭を頬でスリスリしている。ついでに、匂いも嗅がれてる。この部屋に入室してからずっとね。
(……何かあったのかも)
この機嫌の良さを、少し怪訝に感じていた。
今日は一段と甘くて面倒くさい事になっているカイナル様だけど、これが、ただの匂い付けじゃないって事は、さすがに気付くよ。王城でこんな事、普段はしないからね。私が嫌がるの知ってるから。
ましてや、部屋にいるのは、私とカイナル様だけじゃないし。
今日、私とカイナル様が王城を訪れたのは、明日行われる私のお披露目会の準備のため。一人で行くつもりだったけど、当然のようにカイナル様も付いて来た。断る暇もなかったよ。馬車を降りてからも、いつもより近い距離だった。
そして、王城に到着して通された部屋でこの状態。
ましてや今、向かいのソファーには、スノア王女殿下とアジル殿下が、生温かい目で私たちを見ながら座っている。部屋のドア付近で控えている執事と侍女もね。
(何かあったとしても、軽く死ねるわ……)
穴があったら入りたいっていうか、身体が自由に動くなら、自分で掘って入りたいよ。
抵抗したくても、腰をガッシリと固定されているので脱出出来ないし、足掻く事も無理。カイナル様の機嫌の良さに反して、私の目は段々と死んで行く。
(カイナル様、両殿下の事、絶対小石程度にしか見てないよね)
「仕方ないわよ、ユリシア。だって明日、王族として紹介するだけじゃなく、正式に婚約した事を発表するのだから。カイナル様は嬉しくてたまらないのよ」
死んだ目になっている私を、スノア王女殿下が苦笑しながら気遣ってくれた。
「そうだよ、ユリシア。この日を迎えるまで、色々乗り越えて来たから、特に感激しているんだよ」
両殿下の気持ちは嬉しいけど、この状況を改善はしてくれない。そんな素振りを見せたら、間違いなく、カイナル様に睨まれるからね、王族関係なく。
(確かに、色々あったよね……)
小さいものを入れたら、数える事が出来ないくらいあった。
相手が、大陸最強と称される英雄様だからね……モテて当たり前。スノア王女殿下が名誉会長を務める、公式ファンクラブもあるしね。
公式があれば、非公式も存在する訳で、中には過激なファンもいた。そういった困った方々は、もれなく、カイナル様の部下の人たちが話をつけてくれたらしい。その場面は見ていないけど、周囲に意識を向けていたら、噂ぐらい耳に入ってくるよ。
それでも、防げなかったものもあったわね。
正式に私が第二王女として紹介されたとしても、全部が全部なくなるとは思わない。ただ、重ねて、カイナル様との婚約を発表すれば、明らかに数はグンっと減るでしょ。正直、減ってもらわないと困る。
「感激する気持ちは分かりますわ。……それで、お二人が揃って来てくれたのは、お祝いのためですか?」
(そろそろいいでしょ)
私がそう尋ねると、カイナル様のスリスリが止んだ。ついでに、両殿下の表情が一瞬強張った。
「……やっぱり、シアには隠し事は出来ないな」
カイナル様が困った声で言う。
「確信はなかったのですが……なんか、妙な緊張感があるのも気になりましたし、カイナル様との距離感が、いつも王城に訪れた時と違いますから。不安なのかと。……それで、お披露目会の妨げになる問題が起こったのですか?」
(たぶん、あったんだろうね。でも、前日に?)
それは、おかしい。急に決まったものじゃないから、警備関連も準備し手を回していた筈。だとしたら、突発的な事が起きたと考えるべきね。
「ユリシアって、偶に、人族とは思えない程鋭い時があるよね」
苦笑するアジル殿下。
「小さい頃は、ただたんに勘が良かっただけですが、カイナル様の番になってからは、色々鍛えられましたね」
「その色々と――」
「ユベラーヌが姿を消しましたか?」
話が進まないので、カイナル様の台詞を遮り両殿下に尋ねた。言葉を失っている両殿下を見て、正解だと知る。
(やっぱりね。当たってほしくはなかったわ)
王城がこれだけピリピリしているのだから、考えられる可能性は絞られるよね。
招かざる客が来た可能性が高確率。
その中で、このタイミングを狙るとしたら、おそらくカイナル様絡み。一番可能性が高いのはユベラーヌだろう。去る際に見せたあの目は、私の記憶に残る程、とても暗く淀んた目だった。
「リアお姉様にあそこまで言われて、まだ行動を起こせるなんて……諦めの悪い方ですね。つくづく、厄介な人に惚れられましたね、カイナル様」
別に嫌味や含みがあったわけじゃないけど、カイナル様にかなりのダメージを与えてしまった。シュンとするカイナル様を放って、私は気を引き締め両殿下に尋ねる。
「端的に説明を求めます」
どうやら、簡単に事が進まないようね。私たちらしいといえばらしい。
(障害物は排除するわ、徹底的にね――)




