いつもの日常です
夏休みでも生徒会は休み無し。
一応、名目上は休みましょうね、って学園側は言ってるけど、仕事の量が半端ない上、やらなければ、日々仕事が溜まっていく悪循環。なので、必然的に王都に居残り組の役員の皆は、各々時間が取れると生徒会室に顔を出す。まぁそれでも、途中で会長が他の役員の仕事を肩代わりするから、顔を出しても短いけどね。
だからか、生徒会室に常駐しているのは、いつものメンバーになる。それでも、両殿下は何かと色々忙しくて、顔を出せる時間はあまり取れないけどね。私もずっとは手伝いには行けない。
この日は、午前中の約束で学園に来ていた。
いつもと同じように、雑用を一手に引き受け動き回っている。整理出来た資料を棚に戻していると、ふと、前から気になっていた疑問が頭に浮かんだ。ちょうど両殿下も揃っていたので訊いてみることにした。
「スノアお姉様とアジルお兄様に訊きたい事があるのですが……」
仕事の手を止めずに尋ねる。
「「何?」」
今日も綺麗にハモってる。
「例えばの話ですが、私とアジルお兄様が番だったとします。アジルお兄様はスノアお姉様を警戒しますか?」
そう尋ねた途端、派手な音がした。視線を向けると、アジル殿下が立ったまま取り乱して私の名前を呼んだ。反対に、スノア王女殿下はニヤリと笑う。
「ユリシア、例題だとしても、そんな恐ろしい事を口にしたら駄目だ!!」
アジル殿下、真っ青になっていた。
「アジル、カイナル様が、個別で手合わせしてくれるのだから感謝しないとね」
その台詞に、アジル殿下はスノア王女殿下を睨み付ける。
(なるほど、そういう事か)
というか、例題さえ駄目って……ハードル低過ぎない。
「大丈夫ですよ、アジルお兄様。私の大事な親友であり家族に、私の番がそのような無体を働くなんて、絶対にないですよ。もし、無体を働こうとするなら……一週間ほど、食事諸々別にさせてもらいますね」
そう告げると、その場の空気が凍り付いた。どうして凍り付いたのかは分からないけど、これで、アジル殿下は八つ当たりされないでしょ。
「……突っ込んで訊いていいか分からないけど、ユリシア、カイナル様から注意されたの?」
おずおずと、スノア王女殿下が訊いてきた。
「リアお姉様の耳をモフらせてもらったら……」
「「あ〜〜」」
今度も、仲良くハモってる。
「……質問の返答だけど、僕は警戒しないかな」
(ということは、やっぱり、カイナル様特有のものなのね)
「どうして、そんな事を訊いてきたか分かったわ。歳の差はゼロだけど姉弟だからね。でも、参考にはならないわよ。だって、好みが丸っきり被るから」
「被る?」
よく分からなくて、首を傾げた。
「私たち、一卵性なの。だから、食の好みも似通ってるの。つまり、番に関してもそんな気がするのよ。レアケースではあるけど、ない話じゃないわよ。まぁでも、レシーナ祭には参加しないから、番は一生持たないと思うわ。伴侶を得たとしても、焼いたりはしないわね。いちいち焼いてたら、外交なんてできないわよ」
前半は高レベレの話でよく分からなかった。でも、番を持たないで、伴侶を得るって所は理解出来た。婚姻もまた、王族としての役目の一つであり外交手段なのだ。
「ユリシア、前半部分、よく分かってないね。大人になればわかるよ。ほんとに、初々しいな」
「同じ歳ですよね」
アジル殿下もスノア王女殿下も、偶に私を子供扱いしてくる。
「それで、もう、カイナル様と仲直りしたのよね。良かったわね。リーレルア様との仲も黙認してくれてるのでしょ」
(なんか……上手くはぐらかされた気がする。まぁいいけど)
私が王族入りしてから、スノア王女殿下は以前より更に砕けた話し方になった。表情も柔らかくなり、豊かになったよ。私的には、こっちの方が親しみ易くていいけどね。ここまで豊かなのは、王城と生徒会室ぐらいだけどね。
「はい」
「ようは、リーレルア様以上に、モフればいいのよ」
「耳は触らせてくれるのですが、なかなか尻尾はモフらせてくれないんです」
小さく溜め息を吐きながら答える。
「「あ〜尻尾は……」」
「やっぱり、敏感だからですよね」
私がそう答えると、私以外の顔がぽっと赤くなる。
「……ユリシア王女殿下、あまり、そのような事は口にしない方がいい」
代表して、生徒会長が注意する。両殿下も副会長も頷く。
「ここなら、一応防音の結界を張ってあるから、外に漏れないけど、ここ以外でその台詞は駄目よ。勘違いされてしまうからね。この二人が外に漏らすなど考えてはいないけど」
そう言いながら、スノア王女殿下は会長と副会長を見る。途端に、固まる二人。
(完全な脅し文句だね)
ついでに、私も便乗しておこう。
「私も考えていません。会長も副会長も口は固いので安心です」
会長が鳩尾を押さえている。今度、よく効く胃薬でもプレゼントしないといけないよね。今までも、結構際どい話していたし。会長と副会長のスルースキルは高い。両殿下もそうだけど、息が吐ける場所があって本当によかった。
「ところで、ユリシア、いよいよ一か月切ったわね、お披露目会。ドレス届いたでしょ。あれ、私と色違いなの」
王妃殿下とスノア王女殿下が選んでくれたって、カイナル様から聞いていた。
(カイナル様、なんとも言えない複雑な顔してたわ)
そこは我慢だよね。趣旨が趣旨だから。代わりに、アクセサリーはカイナル様にお任せした。ここらへんが落とし所だよね、それでも不満顔だったから、いつもの倍の時間ヨシヨシをしてあげた。
「カイナル様から聞きました。ありがとうございます、スノアお姉様。とても素敵なドレスです。王妃殿下にもお礼を言わないといけませんね」
「本当は、アクセサリーも揃えたかったのに……」
スノア王女殿下も少し不満顔。
「大丈夫です、似たデザインにすると仰ってましたから」
「それなら、いいけど。それよりも、どうして今も、家族に敬語を使うの?」
スノア王女殿下は、私たちの会話を黙って聞いていたアジル殿下と一緒に、ジッと私を見詰めてくる。何も悪い事してないのに、罪悪感が……
(両殿下にタメ口、出来るわけないでしょ)
「私は、スノアお姉様やアジルお兄様のように、器用ではありません。不器用なのです。一度崩してしまうと、なかなか持ち直せないので。それに、気を抜くと、以前の呼び方になってしまうので、これで納得して頂けると助かります」
必死で弁明する。
「……まぁ、仕方ないわね。ほんと、ユリシアって純粋で可愛い。頬を赤くして、そう思わない? アジル」
「ああ、可愛な。純粋だし。こんな妹が欲しかった」
スノア王女殿は、しみじみとそう言うジル殿下の台詞に何度も頷いている。
「頭がキレて、とても可愛くて、自分をちゃんと持っていて」
スノア王女殿下の台詞を引き継ぐように、アジル殿下が口を開く。
「家族想いで、番想い、敵には容赦ない。そして、少しドジっ子で不器用。なんでも、一生懸命な姿勢もいい。それで」
「「ツンデレな所が最高!!」」
最後、見事にハモったね。
褒めてくれて、認めてくれるのは嬉しいけど、何故か素直に喜べない。正直言えば、軽く引いてる。それに、ツンデレじゃないし。
崩し過ぎだけど、ちょっと嬉しいかな。胸の奥がじんわりと温かくなった。




