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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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私の夢


 いつもと変わらない、朗らかな日の午後。


「図書室に行きたいのか? 言えば、持って来るぞ」


 まだ何も言ってないのに、この台詞。私はただ、読んでいた本を横に置いただけ。でも、当たってるんだよね。ほんと、仕事しながらよく見てるよ。ちょっと、引く。


 カイナル様が目配せしたのか、執事がサッと移動し私の前に立った。


(慣れる日来るのかな……無理な気がする)


 使用人という概念ないからね。


「……私自身で読みたい本を選びたいの。今じゃなくていいから、連れて行ってくれませんか?」


 淡々とお願いする。


 一緒に行きたいってお願いすれば、たぶん連れて行ってくれる。その時に、自分の希望だけでなく、カイナル様の希望を織り込むのがポイント。一方的なお願いが続けば、絶対、悪い方向に進むから。


「俺と一緒に行きたいのか!! わかった、時間を作って必ず連れて行く」


(尻尾が見え隠れしてるの、可愛い)


 ゴルディー公爵家の図書室って、色んな蔵書がいっぱいあるって有名なんだよね。実際、用意されていた本も面白かった。余談だけど、本の趣味話してないよ。


「ありがとうございます、カイナル様」


 すっごく嬉しいけど、口元が緩まないように我慢して答える。


 なんか……嫌なんだよね。カイナル様の前で素直になるの。抵抗があるっていうか……やっぱり、私を拉致しようとした時のあの顔が忘れられないからかな。トラウマものの表情だったし。現に、私、気を失ったからね。


 気付かないうちに外堀埋められたり、徹底的に身辺調査されたり、拉致監禁されたけど、カイナル様って悪い人じゃないの。


 反対に、とても出来た人だと思う。真面目に仕事してるし、部下の話にも真面目に耳を傾ける。周囲の気配りもちゃんと出来ていて、使用人からの受けも良い。私と一緒にいても仕事をしてる。駄々をこねたことはあったけど、ゆっくりと休んでるの見たことがない。平民の私の家でも、週一は休んでるのに。


(なんで、私なの?)


 そんな疑問が頭から離れない。そればっかりは、さすがに訊けないよね。


 カイナル様にお願いしてから二日後、念願の図書室に連れて行ってくれることになった。


 当然のように、抱っこしようとしてくるカイナル様。私は手が届かない所まで逃げる。実はこの攻防、始めてこの屋敷に来た時から続いてるの。


 カイナル様(いわ)く、番に無理をさせたくないらしい。


 いやいや、何キロも歩くなら分かるけど、歩いて数十メートルだよね、どこに無理する所があるの? 断固拒否だよ断固拒否。


「図書室までは遠い。時間制限もある。俺が運んだ方が早い」


「えっ、時間制限あるんですか!?」


(自分の家の図書室だよね)


「ああ。二時間は、誰も近付くなと通達している」


(呆れた……家族なのに)


 私が恥ずかしくて見せたくない訳じゃなくて、自分以外の人が私を見ることが許せないんだって。絶対気に入られるから。こんな可愛気のない子供、気にいるはずないのにね。


 ほんと、亜人族って番馬鹿だよ。少しだけ、胸がチクリと痛んだ。


「時間制限ですか……なら、仕方ないですね」


 言い終わらないうちに、カイナル様に抱っこされてしまった。カイナル様には内緒だけど、この高さから見る景色、意外と好きなの。


 それにしても、カイナル様、とても嬉しそうね。鼻歌でも歌い出しそうだよ。尻尾もブンブン左右に振ってるし。私も嬉しくなる。


 カイナル様に連れて来てもらった図書室は、想像していたよりも広くて、(はし)から(はし)まで、本棚にぎっしりと本が詰まってた。


「ユリシアは、何を読みたいんだ?」


「初歩の魔法書です」


 勿論、それ一択だよ。魔法書は平民には手が届かない物だからね。読むには、王立の図書館か、沢山お金を出して買うしかない。普通に読めないの。


 魔法書って口にした瞬間、カイナル様の身体がピシッと固まった。抱っこされたままだから、もろに伝わるわね。


「ユリシアは魔術師になりたいのか?」


 そう尋ねるカイナル様の声は、いつもよりやや低い。


(魔術師って戦場に駆り出されるからね。戦場をよく知ってるカイナル様が警戒して当然よね)


「魔術師ではなく、一級司書官になりたいんです」


「一級司書官に?」


 カイナル様の声は低いまま。


(まぁ、そうなるよね。一級司書官も、ある意味、危険な職業と言えるから。相手は人じゃないけど)


 一級司書官は図書館司書の中で、一番偉い職業なの。閲覧不可の魔法書や禁書を管理する特殊な職業でね、時には、魔法書や禁書に封印されているモノを再封印して表に出さないようにしてるの。


「はい。本が好きなので」


「なら、一級司書官でなくてもいいんじゃないか?」


(普通、そう思うよね)


「カイナル様、知ってますか? 一級司書官は、禁書や閲覧不可の魔法書を自由に読むことが出来るんですよ」


 想像しただけで、テンション瀑上がり。


「禁書や閲覧不可の魔法書を読みたいがためだけに、一級司書官を目指すのか?」


「動機の一つはそれですね。カイナル様は反対ですか?」


 面白くないのは、尻尾を見れば分かる。さっきまで振っていた尻尾が止まってるから。


「ユリシアが危険な目に合うのは看過(かんか)出来ない」


 反対されるのは分かっていた。それでも、私は夢を簡単に諦めるつもりはないわ。


「カイナル様が反対しても、私は目指します。試験に落ちても、何度でも挑戦します。私の夢を応援してくれませんか?」


 お願いという言葉を、私は()えて使わなかった。


「…………ズルいな、ユリシアは」


 ズルいよね。私もそう思う。亜人族は、番望みを叶えようとする習性があるから。私は分かっていて、そこを突いたの。


「……ごめんなさい」


「ユリシアが謝る必要はない」


 カイナル様の優しさに、胸の奥がズキリと痛む。


「カイナル様には、隠し事をしたくはなかったから……」


 これは、正直な気持ち。


「そうか」


(なんで、少し嬉しそうなの? 亜人族の思考回路分かんないよ)


 色々深く考えるのは止めた方がいいかも。そういうものだと捉えた方がいいかもしれない。


「カイナル様、早く魔法書の棚まで案内して下さい。時間ないんだから」


 私がそう言うと、カイナル様は抱っこしたまま連れて行ってくれた。そして、何冊か選んでくれ、近くの机に魔法書を置き、やっと下ろしてくれた。椅子に座り、魔法書を広げ(めく)る。カイナル様は私の隣に座った。


 静かな時間が流れる。


 心地良い風が、図書室のカーテンを揺らす。


 ふと、隣を見たら、カイナル様が気持ち良さそうに船を漕いでいた。もう少しで落ちそう。


(普段は超イケメンで強いのに、可愛い)


 私の口元に自然と笑みが浮かんだ。



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