私も前線に立ちたいです
私たちが謁見室に到着すると、既に関係者全員揃っていた。国王陛下と宰相様もいたのには吃驚だ。先に登城していた義両親も両殿下もいた。
私たち抜きで、情報整理していたみたい。皆に挨拶してから着席する。
「今更、言葉を濁しても意味ないな。コーマン王国第二王女が、留学を切に希望しておる」
そう切り出したのは、国王陛下だった。
(やっぱりか〜予想通り)
ユベラーヌは留学という名目で、直接自らカイナル様を奪いに来るつもりだ。
「陛下、受け入れるつもりですか?」
アジル殿下が厳しい声で尋ねる。心底、関わりたくないっていう圧をアリアリと感じるよ。毛を逆立てた猫みたい。尻尾が不愉快そうに、椅子の背を叩いている。スノア王女殿下も口は出さないが、アジル殿下と同じように、尻尾で椅子の背を叩いていた。
「受け入れぬ理由がない」
国王陛下の声はとても疲れていた。本音は全く違うようね。
(友好国が溺愛する王女殿下だものね……無下には断れないか)
「理由なら、あるではないか!! 我が王国の第二王女殿下の番に恋慕を抱き、貶める手紙を送り付け脅している。それも一度だけではない!! 非公式に何度もだ!! それだけで、十分断る理由になりませんか!? 我が大国に剣を向けたと同等な行為ですよ、陛下」
カイザルお父様が国王陛下に詰め寄る。っていうか、脅してる?
「その手紙の原本はあるのか?」
「模写したものですが……」
国王陛下に訊かれ、私は一応持参していた手紙を見せる。勿論、原本はコルディー公爵家で、それは大事に大事に保存しているよ。
「大事な証拠品を持ち歩いたりしませんわ、陛下。あれは、大事に一番目立つ場所に飾っておりますわ」
セリーシアお母様が、これまたとんでもない威圧を国王陛下に放ちながら補足する。それも、とても良い笑顔で。
セリーシアお母様は大袈裟な事は言ってない。なんと、ユベラーヌの手紙は、エントランスの一番目立つ正面に、豪華な額縁に入れて飾られているよ。来訪者は漏れなく皆、その手紙を読んでいるわ。なので、ユベラーヌの人となりは正確に伝わっているよ。
「だがな……」
煮え切れない表情の国王陛下。カイザルお父様とセリーシアお母様の威圧を受けながらも、頷かない国王陛下。さすが百獣の王ですね。
「あの……少し宜しいでしょうか、国王陛下」
ずっと黙って、話しの成り行きを聞いていた私は、区切りがいい所で口を挟む。
「どうした、ユリシア」
一斉に視線を向けられただけで、心臓が潰れる程早打ちしてるよ。
(だって、元平民だよ)
それが、この大国の一番偉い人に意見するなんて。考えると怖くなった。自分から話し掛けたのに。
すると、隣に座っていたカイナル様が「シア」と名前を呼んだ。そして、微笑する。僅かしか口角が上がってないのに、それを見て、早打ちしていた鼓動が落ち着いてきた。緊張を解すために軽く深呼吸をしてから、私は国王陛下に視線を合わせた。
「……そもそも、コーマン王国は友好国であり同盟国ではありません。つまり、何かしらの盟約を交わしてはいないのです。それを踏まえた上で考えて下さい、我がゼシール王国の方が、国益も軍事力も国の大きさも遥かに上です。なのに、気に病む必要はあるのでしょうか? 第二王女である私に対し、あのようなふざけた手紙を署名入りで渡した事。そして、非公式で面会を求めた事。全てを水に流してさしあげたのに、図に乗って、更に要求してくる方に、誠実な態度を取る必要性がどこにありますか?」
言い切ったよ私。前線で闘いたいと希望していたからね。
「受け入れると、我が王国が舐められると言うのだな」
そう確認してくる国王陛下の目が更に細くなり、厳しいものになる。
「はい。一番最初に手紙を受け取った時点では、王族ではありませんが、それを証明する術はコーマン王国側にはありません。公示が正式に決まった瞬間ではないからです。ゼシール王国第二王女の番に、それも正式に婚約を交わしている者に対しての横恋慕、そして、身勝手な妄想と悋気。ユベラーヌ王女殿下の留学を認めれば、その行為を国王陛下が黙認する事になりませんか? 現時点では、私の温情で抗議していないだけてす」
私はにこりと微笑む。絶対、黒い笑みね。
「陛下、ユリシア王女殿下の仰られる通りです」
宰相様が驚きながらも後押ししてくれた。当然、ゴルディー公爵家の皆も後押してくれたよ。
「……あい分かった。早速、断りの書状を送る事にしよう」
執事に用意させた魔法紙に、友好国解消とユベラーヌの入国を認めない旨を記した。それを早速、転移魔法の魔法具でコーマン王国の王城に直接送り付けた。
(まさか、断られるとは考えもしないでしょうね)
悔しがるユベラーヌの姿を見れない事は残念で仕方ないけど、これがあの女に一番効く筈。その無駄にデカい矜持をズタズタに引き裂かればいい。
「行き違いになったな。もう、出発しているらしい」
カイザルお父様が楽しそうな声で言った。
「ならば、国境でお帰り頂ければいい話では。ごねるならば、多少荒っぽい真似をしても構いませんよね、陛下」
リアお姉様もとても楽しそう。そして、圧を掛けてるね、国王陛下に。
(行く気満々ね。事前承諾の言質も貰おうとしてるし)
「許可もなく、勝手に我が国に入ろうとするなら、やむえぬな」
国王陛下、この一時間程で一気に疲れた様子。コルディー公爵家総出だものね……
「大袈裟に抗議をするなら、あの手紙の模写を周辺諸国にばら撒けば解決ですね」
セリーシアお母様が締め括るように、愉快そうに告げた。
(まぁどっちにせよ、ユベラーヌの評判は更に地の底に落ちるわね。頭の良さと行動力で、性格の悪さは多少カバー出来ていたけど、今回の事で完全に逆転するわね)
どんな反論をするか楽しみだわ。




