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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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平民娘が王女様にレベルアップしました


(私が第二王女……)


 完全に思考が停止している間も、カイナル様の爆弾投下は続いた。


「前から考えていたんだ、俺と父上たちの間で。俺たち家族は、シアの身分なんて全く気にしていないが、周りはそうではないからな。それで、シアが攻撃されるのを俺は看過出来ない。だから、父上たちと相談して、陛下に打診していた」


(いや、何打診してるの!?)


「それじゃあ、あの堅物大臣もついに折れたのね!!」


 リアお姉様は歓喜の声を上げた。控えていた執事や侍女たちも、次々に祝辞の言葉をくれた。その間、私は完全フリーズ。思考だけでなく、身体も固まった。


「家族全員で国を出るって言ったら、認めてくれたぞ」


 カイナル様、とっても良い笑顔。尻尾ブンブン、耳ペタン。


(ちょっと、待って!! それ、モロ脅しだよね……知らなかったのは私だけ!?)


 国王陛下に打診したのなら、アジル殿下もスノア王女殿下も、かなり前から知っていた事になる。


(なんで、何も言ってくれなかったの!? それよりも、何、王族にゴリ押ししてるのよ!! 大臣、脅してるの。それで、なんで通ってるのよ!? もっと、粘りなさいよ、大臣!!)


 私の頭は混乱状態。それでも、やっと言葉を吐き出した。


「………………冗談でしょ」


(あの〜現実逃避してもいいですか?)




 残念な事に知恵熱が出ることなく、週明け早々にやって来ました王城に。


(いや〜そこからの展開早かったわ……)


 着いた時点で、書類から何から全部きっちりと用意されていた。当然、待たされる事なんてなかったよ。始めての王城と消化し切れてない現状に戸惑う私の前に、サインする書類を満面な笑顔で置くカイナル様。軍服を格好良く着たリアお姉様が、ペンを握らせてくる。


 既に、決定事項。


 私に拒否権はない。


(でもまぁ……考えてみれば、責任は伴うけど悪い事じゃないしね。腹を括るしかないわね)


 十枚程の書類に全部目を通してからサインしたよ。相手が王族でも、差し出した二人が信用出来る家族でも、確認は大事。


 後は、細かい打ち合わせがあるからと、謁見室から追い出され、私は侍女に連れられて庭園に移動。庭園に着くと、アジル殿下とスノア王女殿下が待っていた。


「……顔、死んでるわよ、ユリシア。いきなりの事で、そうなる気持ちは分かるけど」


 スノア王女殿下は私の顔を見た途端、そんな感想を述べてきた。


「…………展開が早過ぎる上に、斜め上に急上昇して、まだ頭の整理がつきません。そもそも、知っていたなら、どうして一言言って下さらなかったのですか!?」


(これ、怒っていい案件だよね。相手が両殿下でも)


「内密にと釘を刺されていたから、ね……」


「もし、うっかり口を滑らせたら、どんな制裁が待っているか……」


 スノア王女殿下もアジル殿下も、私に視線を合わさずに、青い顔でボソボソと理由を話してくれた。


(これ、完全に狼にライオン食われてるじゃない!! 恐るべし、ゴルディー公爵家)


「……それにしても、かなり無理を通しましたよね、ゴルディー公爵家は。サインして今更なのですが、本当に、平民である私が、王族の末席に名をつられても宜しいのですか?」


 私がそう尋ねると、両殿下が首を傾げる。その反応で納得した。


(まぁ、そうだよね。対抗手段で王族入りしただけ。あくまで、書類上での身分なのね。当然だわ。それだけで、十分)


「ユリシア、何か勘違いしていない? 末席ではないわ。私の隣に座るのよ」


「当たり前だよ。僕たち、兄妹になったのだから」


 さも当然のように、スノア王女殿下とアジル殿下は告げた。


(兄妹なんて、烏滸(おこ)がましい)


「…………申し訳ありません。ゴルディー公爵家にゴリ押しされたとはいえ、平民である私が王族を名乗るなど……両殿下の心中は複雑だと思います。出来る限り、目立たず、後ろに控えていますので」


 私は深々と頭を下げ両殿下に謝罪する。


「謝る必要なんてないよ」


「何故、頭を下げているの」


 両殿下の声が近くで聞こえた。同時に、背中に手を添えられた。添えられた手は一つ。たぶん、スノア王女殿下ね。アジル殿下は目の前に立っているから。顔を上げると、両殿下とも困ったような表情をしていた。


(本当に、困ってるだけなの……嫌じゃないの?)


「そもそも、ユリシアは勘違いしているわ。私たち、ユリシアだから認めたのよ。貴女の頑張りと気高さ、そして、心の強さと柔軟さにね」


 スノア王女殿下が優しい笑顔で微笑む。


「ゴルディー公爵家が、いくらこの国に対して発言権が強くても、ユリシア以外の者なら、私たちは認めなかった。それこそ、ゴルディー公爵家と仲違いしても。僕たち王族は馬鹿ではない。そこまで愚かしくもない。ゴルディー公爵家が打診してきてから、僕たちはずっとユリシアを観察してきた。王族たるものを持っているのかを」


 アジル殿下も優しい笑顔で言葉を(つむ)ぐ。


「……王族たるものですか?」


(それは何? 二人とも嫌じゃないの?)


「それは、追々分かるわよ。ところで、ユリシア、そろそろ呼び名を変えてくれない」


 悪戯っ子のような顔で、スノア王女殿下がそう切り出してきた。途端に、空気がガラリと変わった。こういう所、さすがだと思う。


「呼び名ですか?」


(今まで通りでいいと思うけど)


「スノア王女殿下ではなく、これからは、スノアお姉様と呼んで欲しいわ」


「じゃあ、僕はアジルお兄様で」


(極端に変わり過ぎだよ)


「いやいや、同じ年齢ですよね」


 三か月、私が遅く生まれてるけど。


「「だから?」」


(こういう所、双子だよね。綺麗にハモってる。これは、言わないまで帰らせないパターンよね)


 周囲を見回しても助けてくれる人はいない。なんか……微笑ましい感じだし。せめて、敬称を除けて様呼びに抑えるとか……


「「アジル様とかスノア様は駄目だからね」」


 満面な笑みを浮かべながら、両殿下に先手を打たれてしまった。


(分かったわよ!! こうなったら、腹を決める)


「………………アジルお兄様、スノアお姉様」


 小さい声でポツリと呟く。恥ずかしくて、顔が真っ赤になってるの分かるよ。そんな顔を見られたくなくて、両手で顔を隠した。


「「……破壊力あり過ぎ」」


 ボソッと呟いた新しい兄姉の声は、あたふたしている私には届いていなかった。



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