とんでもない爆弾が投下されました
ヤンデレ度★☆☆☆☆
「どういう事?」
リアお姉様の疑問は尤もだよ。
「コーマン王女殿下の執着は、かなりのものです。わざわざ、私に逃亡の手助けを、使者を送ってまで打診しに来てくれるくらいですから。当然、断りました。溺愛され優遇されていた王女殿下の好意を、平民の小娘が跳ね除けるとは考えてもいなかったでしょうね。それも、私は煽り増々で跳ね除けた。絶対、仕掛けてきますよ。もしくは、正々堂々乗り込んで来るかもしれませんね」
私がそこまで言うと、驚きながらも察したリアお姉様は、満面な笑みで提案に乗ってくれた。
その笑顔を見た瞬間、目に見えない何かが身体を通り抜けた気がした。同時に、一気に体温が奪われた。ガクガクと激しく震えだす身体。震えが止まらない。首をゆっくり締められているようで、息も苦しくなってきた。
ただ、リアお姉様は笑顔を浮かべただけなのに。
今まで感じた事がないくらい、濃厚な殺気だ。いや、威圧だった。
「リア、止めろ!!」
カイナル様の怒声が廊下に響くと同時に、身体がフッと楽になる。私は息を吸い込み、激しくむせた。その背中をカイナル様が優しく撫でてくれた。
「ごめんなさい!! 苦しかったよね、本当にごめんなさい!!」
膝を付き、リアお姉様が必死で謝る。苦しくて涙目になっていけど、リアお姉様の声と、怒るカイナル様の声がちゃんと届いていた。
なんとか落ち着いてきた私は手を伸ばし、リアお姉様の頭に手を乗せる。
「……だ、大丈夫。平気……ちょっと、吃驚しただけ」
なんとか伝える事が出来た。リアお姉様、泣きそうになってる。
(マジ、苦しかった……でも、それだけ怒ってるって事だよね)
「大丈夫か!? シア。まだ苦しいだろ!! 今直ぐ、ベッドに運んでやるからな!!」
一旦、廊下に降ろされていた私は、またカイナル様に抱っこされた。リアお姉様はショックで動けずに座り込んだまま。
《このままじゃいけない!!)
カイナル様とリアお姉様の間に溝が出来る。仲の良い姉弟なんだから、それは駄目。私は咄嗟にリアお姉様の髪を掴んでいた。
「……ベッドで休まなくていいです。それよりも、外の空気が吸いたい。リアお姉様も一緒に」
少し声に力がないけど、なんとか言い切った。
リアお姉様は今にも泣き出しそうな顔で私を見上げてるし、カイナル様は苦虫を噛み潰したような表情をしている。
固まったように動かないカイナル様。私の心配とお願いの板挟みで葛藤してるのね。なら、もう一度頼むだけ。
「皆でお茶にしませんか。喉が少し痛いし」
そうお願いすると、カイナル様は軽く息を吐き、リアお姉様を鋭い目で睨み言った。
「今回は、シアに免じて許してやる。だが、次はないぞ」
「分かっているわ。本当に、ごめんなさい」
(大袈裟だよ。別に怪我したわけじゃないのに)
リアお姉様の尻尾垂れ下がってるし、耳も横にペタンとなってる。私は髪から手を放し、今度は両手をリアお姉様に向けて突き出した。まるで、抱っこをせがむように。年齢的にかなり恥ずかしいけど我慢。
「シ、シア!?」
焦るカイナル様。
「……いいの?」
戸惑いながらも、訊いてくるリアお姉様。私は軽く頷く。でも、カイナル様は私を放さない。なので、妥協に妥協を重ねて下ろしてもらって、リアお姉様と手を繋ぐ。左手はカイナル様が。皆で仲良くお庭に行きましょう。
「あれは不可抗力ですよ。それに、リアお姉様があそこまで怒るような事が、戦場であったのでしょう。それを思い出しただけ。殺気に耐え切れなかったのは、私の力不足。あれ、威圧のスキルですよね。今度、教えて下さい。修得したいです」
力説すると呆れられた。
「ユリシア、どこ目指しているの?」
真剣な顔でリアお姉様が訊いてきたから、ちゃんと答えたよ。
「夢は変わりませんよ。ただ、敵を制圧するのに使えると思って。身体が小さくて体力も劣りますが、その分、魔法である程度はカバーは出来ます。体術、剣術も習っていますが、まだまだ騎士の皆さんと打ち合えるまでではありませんし、そこで、威圧のスキルがあれば戦いに有利に働くとは思いませんか? 敵はゴロゴロと無限に湧いて出て来ますから」
そこまで言うと、リアお姉様がカイナル様に視線を向けた。カイナル様はあたふたしている。
「そう……分かったわ。教える」
苦笑しながら、リアお姉様は引き受けてくれた。実際問題、無限に湧いて出て来るのは確定事項だからね。
「はい。お願いします、リア先生」
「……ほどほどにな」
渋々、カイナル様から許可を貰えたよ。すっごく不機嫌そう。この屋敷から出なければ安全とか思ってるんだろうな。
(まぁこれも、ある意味、不可抗力から生じた結果だから諦めてね)
「……それにしても、つくづく矛盾してますね。亜人族は、番を一番に考え大切にし、唯一無二の存在なのが常識なのに、裏では平気で、さも当然のように番変更を口にする。それだけ、カイナル様がモテるのだから仕方ないけど……入学して、僅か二か月の間に、伯爵令嬢、次に侯爵令嬢、止めは王族ですか……ほんと、無限に湧いて来ますね」
最悪、結婚後も湧いてきそうで怖い。というか、正直面倒くさい。
「俺の番はシアだけだ!! シアだけを愛している!! シアさえ傍にいてくれたら、それだけで幸せなんだ!!」
泣きそうな表情でカイナル様が焦ったように叫ぶ。
(別に、カイナル様を否定してないのに……しょうがないわね)
カイナル様の頭をよしよしと撫でながら、私は言った。
「安心して下さい。私は別に、カイナル様の事を疑ったりはしてませんよ。ずっと、傍にいますから」
私からの言質が取れて、ホッとしながらも、まだ不安が残るカイナル様の頭を撫で続ける。そんな私たちを、優しい目で見ていたリアお姉様の表情が、段々難しい顔へと変わった。
「リアお姉様?」
撫でる手を止め、リアお姉様を見上げる。
「確かにおかしいよね。普通は、こうも続かないものよ。考えられるとしたら……」
「カイナル様の美しさと強さ。あと、私の身分ですよね」
繰り返し思うけど、こればかりはどうにもならない。それに、飛び抜けた才能も秀でた容姿でもないしね。平凡な平民だから仕方ないよね。
「シア、その件だが、どうにかなりそうだ」
とっても良い笑顔でカイナル様が言う。尻尾フリフリしながら。なんだが、飼い犬がボールを持って来て褒めてくれるのを待っているみたい。一抹の不安を感じるのは私だけ?
(訊くの怖いな……)
「どういう意味ですか?」
怖いけど訊いた。とっても訊いて欲しそうだったから。
「シア、来週、俺と一緒に王城に行こうな」
(いや、それ答えになってないし。王城に? 何で?)
嫌な予感しかしないよ。
「……何故、王城に?」
恐る恐る聞いてみた。
「署名しないといけないからだ。シアのサインが必要な書類が多いからな。サインが終われば、シアはゼシール王国第二王女だぞ」
「…………はぁ!?」
とんでもない爆弾が投下されたよ。




