私は断じて腹黒ではありません
相手が隣国の王女でも、負ける気は一切ないし怖くもない。でもね……不安にはなるの。
取られる可能性はほぼ皆無よ。分かってはいるけどね、カイナル様に心を奪われた人があまりにも多くて、そんな人と彼が一緒に行動するのは……こう、胸中がモヤモヤして気持ち悪いの。伯爵令嬢の件から、特にそう感じる事が多くなった。
(誰かに相談したくても、ツーツーだから言えないし、魔法具を外したら、それこそ、大変な事になるわ)
自分の中で処理するしかないかな、と考えていたら、ずっと空気だった副会長がポツリと呟いた。
「……なんか、ユリシア嬢と似ているな」
(はい!?)
ちょっとした感想だったと思う。でもね、口にしたらいけない事もあると思うの。
副会長がそう呟いた瞬間、空気がピシッと音を立てて凍ったからね。慌てて生徒会長が副会長の口を塞いでも、もう遅いよ。
「……どういう意味ですか、副会長? 私が人を駒のように扱う、非情で無慈悲な最低最悪な人間だと?」
口元をヒクヒクさせながら確認したよ。
(返答次第によっては、私の手でしめる!!)
「そんな事は思っていない」
「そうですよね〜人を駒のように動かすのは、副会長の方ですよね」
私がそう言うと、副会長は顔を顰め睨み付けてきた。
動揺も怖がりもしない。そもそも、間違った事は言ってないし。私は人を動かすなら、自分が飛び込む方がマシなタイプだ。副会長とは正反対だよ。見せ掛けだけでも、人望ないし。完全な腫れ物扱い。
「似てるって言ったのはそこじゃない。腹黒な所だ」
きっちり訂正してきたわ。
(ほぉ〜私に喧嘩売ってるんですよね。買いますよ、その喧嘩)
「何処がです? 猪突猛進だとは思うけど、断じて腹黒ではありません。腹黒なのは、副会長の方ですよ」
同意を求めるように視線を両殿下に向けたら、視線逸らされたよ。
(もしかして、二人ともそう思っているのかな? なら、話し合いが必要よね)
「ユリシア嬢が私にした事は、腹黒じゃなければ出来ないと思うが」
「もしかして、食堂の件を言ってます? 確かに、副会長を誘き出すために少し仕掛けをしましたが、それは中々出て来てくれないからですよ」
私は悪くない。寧ろ、被害者。
「えげつない手を使ってきたくせに」
(それが、どうした)
「私は売られた喧嘩を買ったまでです。それ以上もそれ以下でもありません。その状況に応じた最良の方法を取ったまで。それに、私は外面が良いわけではありませんし、人の輪の中心にもいません。反対に避けられてます。なので、基本ぼっちです。そんな私が、他者を追い落とし、自分を優位に持っていこうとしていると思いますか? もし、行動していたら、今頃ぼっちではありませんよ。なので、腹黒ではありません」
一気に捲し立てた。
腹黒な人って、他者からの評価が高いでしょ。優しいとか、頼りがいがあるとか言われたりして、常に人の中心にいるし。少し前の副会長のようにね。私とは正反対。
「言ってて、悲しくないか?」
思わず、握り拳を作ってしまったよ。ピシッピシッと音が鳴ってる。
(なんでこの人は、こうもズバッと言ってくるのよ。っていうか、私だけだよね。私なら、何言っても大丈夫だって思ってる?)
「……副会長は優しくありませんね。下級生の女生徒に対して、腹黒とか悲しくないかなどと……涙が出そうですわ」
「出ないくせに」
確かに出ないけど、こうもキッパリ断言されると、腹は立つけど清々しいわね。でも、嫌いじゃない。
「副会長、この後、魔法訓練の手合わせお願いしますね。……涙は出ませんが、傷付く事ぐらい察して下さい。私の心は鉄では出来てないのです。それにしても腹黒って……入学から、ずっと遠巻きにされているのに。両殿下だけですよ、話し掛けてくれるのは」
これ以上口にしたら、本当に泣いちゃうかも。
「遠巻きにされる原因の大半は、ユリシア嬢の責任だろ。敵認定したら、徹底的に潰そうとするからな」
副会長に真顔で言われたよ。
「それの何が悪いのです? 同情して、中途半端で終わらせたら、後に自分に火の粉が降りかかるかもしれないでしょ。そうなれば、他所に飛び火するかもしれませんし、面倒ですからね」
そうなれば、やった側の罪は更に重くなるでしょ。何事も、中途半端っていけないと思う。消化不良だし、やるなら徹底的にしないとね。
「……そうだな、ユリシア嬢はそうだったな」
何、遠い目をしてるのよ、副会長。それに、私と副会長以外顔引きつってるけど、どうして?
「そんなに、おかしな事を言いましたか? 至極当然の事を言っただけですけど。まぁいいです、副会長、私が腹黒だという発言を今ここで訂正して下さい」
間違いは、きちんと訂正しないといけないでしょ。誤解されたままは嫌ですから。それが、天敵の副会長でも。




