ユベラーヌ・コーマン
「……そうね、一番近い言葉で表現するなら、勘違い腹黒女ね。それよりも、ユリシア、何故、ユベラーヌの事を知りたいの?」
スノア王女殿下は教えてはくれたが、反対に訊き返された。訊かなくても分かってるのに。
(ふ〜ん、勘違い腹黒女ね。だから、少し系統が違う気がするのかも)
「元侯爵令嬢に留学先で要らんことを吹き込んだのが、ユベラーヌ・コーマンらしいのです。なので、大変興味を持ちまして。一応、相手が隣国の第二王女殿下なので、一番詳しいのは両殿下だと思いました」
そう答えると、嫌悪感で両殿下の顔が曇る。
「もしかして……アジル殿下とスノア王女殿下は、ユベラーヌ王女殿下の事が苦手なのですか?」
ここまで顔を曇らせれば、誰でもそう思うよ。ユベラーヌの名前を出した途端、顔歪めているし、「ありそう」ってぽつりと漏らしてから、駄目押しに溜め息も吐いているしね。
「苦手って言葉は不適切だよ、ユリシア嬢。まともな思考を持つ者で、ユベラーヌと少しでも接した事がある人は皆、その性根の悪さに嫌悪するよ。ただ……国王には重宝されて、溺愛されている」
スノア王女殿下より、アジル殿下は酷い顔をしている。接した時間の長さかな?
(この二人に、そこまで言われる人って……元侯爵夫人よりも、いっちゃってるのは確定ね。でも)
「重宝?」
アジル殿下の台詞の中に、引っ掛かる言葉があった。妄想お花畑親子には決して使われなかった言葉、お花畑には絶対使わない言葉よね。
「頭が非常にキレるのよ。戦術にも長けているし、王族の役目を果たしてるわ。スタンピードが発生した時は、カイナル様と共闘したそうよ」
「共闘ですか……」
声のトーンが自然と低くなる。
(接点があったわけね)
命が掛かった大事な仕事なのだから不可抗力だけど、なんかモヤッとする。
「敵に回したくない、腹黒よ。最悪な事に、人を操るのにも長けているわ。ましてや、目的のためならなんでもする面があるの。平気で臣下を切り捨てれるし、暇潰しのために人を駒のように使って楽しんでいる、死のうが大怪我しようが、壊れようが気にしない最低な奴よ、あれは」
「まさにそうだな。ユベラーヌは、人の弱みや願いに敏感な所がある。欲を見抜き、引き出すのが異様に上手い」
(なるほどね……)
両殿下の台詞に納得した。聞いてよかったよ。これでも、両殿下なりに言葉を選んでいると思う。それで、これ。これがカイナル様なら、ただの腹黒で済んでいたわね。
「……つまり、妄想お花畑親子は、ユベラーヌ第二王女の人形だったって事ですね。余興に過ぎないと」
(心底、胸糞悪い話だわ。人として屑以下ね。ヘドロ、汚物)
あの魔法陣は未完成だったけど、儀式そのものに関しては、近いものが魔法書に記されていたとセリーシアお母様が教えてくれた。嘘と真実が混ざり合っていたの。
あの儀式は、魔族に生贄を捧げ、力を得るもの。
故に、その魔法書は禁書に指定されていたはず。いくら、元侯爵夫人が王族でも禁書を閲覧する事は出来ない。当然、元令嬢の方もね。そもそも、そんな思考には至らないでしょ。
なのに、あの惨事が起きた。
あの凶行を引き起こさせた起爆剤が、あの儀式と魔法陣なら、その情報を教え、信じ込ませれる人物は禁書を閲覧しても咎められない人物になる。魔法書も一冊だけじゃないし、同じ物が隣国にあってもおかしくない。
両殿下の直感力と観察力から見て、国王に溺愛されているユベラーヌの立ち位置なら、禁書を閲覧しても咎められないし、元侯爵令嬢の背景を調べるのも簡単でしょうね。あと、接触するのも。両殿下にあそこまで言わせる人なら、あのお花畑を信じ込ませて誘導するなんて簡単だわ。
(一連の流れが見えたわね)
「そうね。心底、腹立たしくてしょうがないわ」
「ほんと、腹立たし!! 隣国じゃなかったら、なんとしても、その厚い面を剥いでやるのに」
グルルと唸りながら、両殿下は吐き捨てた。
(どんな厄介者だったとしても、自国の民を人形にされたのだから、そりゃあ腹立たしいよね。それにこの様子だと、一度や二度じゃなさそう)
自業自得の結果とはいえ、遊ばれた妄想お花畑親子が気の毒過ぎる。選んだのは彼女たちだし、手を下したのも彼女たち。だから、同情はしない。
「自国だとしても、罪を問うのは難しいでしょう。証拠がありませんから……この遊び、これで終わりでしょうか? また、新しく人形を調達するのでは」
根拠はないけど、何故か、このまま終わりだとは思えなかった。
「だとしても、難しいと思うわよ」
スノア王女殿下が言った。
「僕も同意見だね。言っただろ、重宝されて溺愛されているって。だから、コーマン王国から出したくないと、国王は思っている」
アジル殿下もスノア王女殿下と同じ考えだった。
(そうなんだけど……)
素直に安心して頷けない。
「だといいんですが……」
「やっぱり、心配?」
スノア王女殿下が心配そうに尋ねてくる。
「心配っていうよりは、不安ですね。私には、ただの暇潰しの人形遊びには見えないのです。なんらかの意図があるのではと、考えてしまうのです。だとしたら、こんな面倒くさくて遠回りをした理由も理解出来ます。何かしらの目的と意図が、あるように思えるのです」
言葉にすると、頭の中で考えが整理されていく。
「意図って、まさか!?」
察しの良いアジル殿下は、私の意図を正確に読んでくれた。
「その可能性は高いと思います。コーマン王国は、いえ、ユベラーヌはカイナル様が欲しいのでは? 共闘した接点もありますし。どうやら、一番自分が偉いと勘違いしている方のようなので、そんな自分に釣り合うのは、カイナル様しかいないと思われたのかも。カイナル様を手に入れたいと本気でユベラーヌが考えていたら、何かしらの動きがあると思います」
(正直、考え過ぎであってほしい)
「か、考え過ぎよ」
アジル殿下は黙り込んでしまった。代わりに、スノア王女殿下が不安を打ち消すように否定した。
「……そうですね」
私は笑みを浮かべながら、ユベラーヌの話を終えた。
消えない不安が、闇のように心を蝕んでいく。
でも何故か、怖いとは思えないの。それはやっぱり、カイナル様を信頼し、新しい家族を大切に思っているからかな。まぁそれに、簡単な負ける気はしないから。相手が、どんなに力を持っていても。
だって、カイナル様の中で、私の立ち位置は決して揺るがないものだと分かっているからね。




