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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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穢れた純愛の狂信者

後半にほんの一部、残酷なシーンがあります。


 やはり、王都を出るつもりね。(わら)を被せられていても、会話は耳に入ってくる。当然、門番の会話もね。


 門番は商人に化けたゴロツキと挨拶をしただけで、ろくに荷台を確認しないまま通過を許す。もぞもぞしていたし、藁を除ければ簡単に見付かるのにね。それに気付かないなんて、門番として失格だわ。というか、賄賂受け取ってる可能性大よね。


(まぁ、私にとってはラッキーだけど)


 私とリアを載せた荷馬車は、途中、舗装されてない道を何時間も走り停まった。


 ゴロツキは先にリアを荷台から下ろし、その白くて細い首元にナイフの刃を当てる。そして、命令した。


「降りてこい」


 私は素直に従った。


 手首と口元は拘束されているけど、足は拘束されていない。拘束出来なかったって言った方が正しいわね。私に触れないように足を拘束したとしても、運べないからね。さっきの叱責もそうだけど、明らかに魔法具の性能を知っていて警戒しているようだった。


(まぁ、知ってて当然よね)


 学園に通う者なら大半は知っている。今更、それを隠す事は不可能。だから、私自ら動かざる得ない要因を特別に用意してあげたの。


 つまり、それが人質だった。


 ゴロツキはリアの首元にナイフを当てたまま、私に「付いて来い」と命令すると、お化け屋敷のような古びた屋敷の中に入って行った。私も遅れないように中に入る。


 薄暗く長い廊下を歩き、一番奥であろう部屋へと向かう。部屋の前には、仲間が一人待っていた。その男が、ゴロツキに代わってドアを開けた。


 室内は、厚いカーテンで窓は覆われ、辛うじて、姿を確認できる程度の明るさだった。


(屋敷や廊下といい、徹底してるわね)


 何処か他人事のような感想を抱いていた私に、リアが近付き手錠を外した。同時に、男はリアの腕を掴み引き寄せ、首筋にナイフの刃を当てた。猿轡は自分で外した。


「おい、ガキ、それに着替えろ。魔法具は全てテーブルの上に置け」


 テーブルの上には、木綿で出来たような大きな布と細いロープのような紐が一本。


 よく見たら、頭が出せる穴があいていた。腕を通す穴はない。腰はこの紐で結ぶわけね。


(これって、昔読んだ本に出てくる奴隷の服じゃない)


 ほんと、徹底してるなと思いながら布を広げていたら、殺気を感じた。リアの目が憤怒で見開かれていた。目の色も金色に変化している。


(獣性出掛かってる!! 折角、人族に化けているのに、駄目!!)


 私は必死で首を横に振った。最後まで付き合うって決めたのだから。


 男は特に気にせず急かした。


「ここで着替えろと?」


「ガキが色気づくなよ。ほら、そこの部屋の隅なら暗いから誰にも見えないぞ」


 面倒くさそうに、男は言った。


 私は小さく頷くと移動し着替えた。戻ると、男は更に命じた。


「ピアス以外の魔法具を、全部ここに置け」


(この奴隷服に着替えさせたのは、魔法具を持ち込ませないためもあるようね)


 私は命じられるままにピアス以外の魔法具を外し、テーブルに置いた。ネックレスとブレスレット、あと髪留めも。ピアス以外、外し終えた。


(何故、ピアスは付けたままでいいの?)


 疑問に思ったが、それが妄想お花畑親子の願望なら従うまで。それにこの衣装って、彼女たちの演出よね。物語的にあるでしょ、こんなシーン。貴族に逆らった平民が奴隷落ちするもの。本気で、黒魔法を私が使っていると信じている人たちだからね、本気で落とすつもりかも。


「それで全てか?」


「疑うのなら、貴方自身で確認すれば」


 そう答えたら、気持ち悪い爬虫類のような目で、上から下までじっくりと見られた。

 

(一枚布の奴隷服に腰紐。靴と靴下も脱いで裸足なのに、何処をどう隠せるのよ)


「よし」


 男はそう呟くと、部屋の奥にある本棚の本をいじった。


 すると、本棚は消え失せ、代わりに古びた鉄のドアが現れた。


 幻覚魔法と結界魔法の混合魔法ね。本棚は隠し扉を隠すための幻。始めて見たわ。魔法書に記載されていたのを思い出す。確か……大事な物を保管する隠し部屋って書いてあったわね。今回は違うみたいだけど。


 男はドアを開ける。部屋はなく、地下に続く階段が見えた。中に入るよう命令され入る。リアが続こうとしたら、ドアが閉まった。ドア越しに、リアの叫ぶ声か聞こえた。


「進むぞ」


 男を先頭に、私を挟むように階段を降りて行く。


 降りる途中で見えた。


 赤褐色の何かで、石畳に描かれた魔法陣が――


 同時に、鉄の匂いが鼻腔を突いた。嗅いだ事がある匂い。体術の練習中に何度も嗅いだ。


「…………まさか、あれは血?」


(あれが本当に血なら、相当な出血量よ。いくら、黒魔法を信じたからといって……)


 困惑しながらも一番下まで下りると、ラメール侯爵夫人とその娘が、真っ白なワンピースを着て私を待っていた。


 血の匂いに顔を(しか)めていると、歪な笑みを浮かべたラメール侯爵夫人が、声高らかに笑いながら言い放った。

  

「やっぱり魔族には、この神聖な魔法陣を嫌うのね」


(いや、血の匂いで気持ち悪いだけ)


 鼻と口を覆う布が欲しい。


「これで、この平民が、人間の振りをした魔族だと証明されたわ、お母様!!」


(正気なの!? この親子)


 少し離れた場所に立っている男も無表情。お金さえ貰えば、正気を失った妄想お花畑でもいいってわけね。


「あの〜因みに、その魔法陣は魔法書から引っ張ったの?」


 想像力で描いたのなら、かなりのものね。


「留学先の親友が教えてくれたのよ」


(この女の親友ね……かなり、その親友も脳内お花畑のようね)

  

 気になる。カイナル様か両殿下とか知ってそう。


「それで、私をどうする気?」


 私がそう尋ねると、妄想お花畑親子はにっこりと微笑み、恍惚な表情を浮かべ言った。


「魔族は滅ぼさなければいけませんわ。この国のためにも、愛する御方のためにも」


「この聖なるナイフで、魔族からカイナル様を救うの。そして、運命の番である私と永遠に結ばれるのよ!!」


(殺す気満々ね。とりあえず、両方から殺人未遂の言質取れたからいいかな。その魔法陣に寝かされるの、絶対嫌だし。でもその前に)


「この血は、動物の血よね?」


 低く硬い声で尋ねる。


「ええ、私を檻に閉じ込めて、ずっと監視していた魔族の手先の血よ」


 ラメール侯爵夫人は、心底楽しそうに笑いながら教えてくれた。その言葉に、私は背筋がゾッとした。  


「…………完全に狂ってる」


「あら、純愛と言ってくれるかしら」  


 ラメール侯爵夫人が言った。


「そうよ。私たちは純愛を貫くの。そして、純愛には障害がつきものでしょ」


 あの女も親に続けて言った。


「…………自分の父親でしょ!!」


「だから?」


 あの女は平然と笑いながら答えた。


 私は奥歯をグッと噛み締める。


「……時間がない。言質は取れたわ!! 早く来て、カイナル様!!」

 

 ありったけの大きい声で、私はカイナル様を呼んだ。




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