私の感情を否定しないで
ヤンデレ度★★★★☆
作戦会議は滞りなく終わり、その日は、そのまま義両親の所に泊まることになっていたのに……何故か、目を覚ましたら、カイナル様に抱き締められ自室で一緒に寝ていました。
答えは簡単。深夜、私が寝ている部屋にカイナル様が忍び込み、運んだまま寝たからでした。
(じゃないわよ!! さすがに、これはアウトだよ!! アウト!! 年齢関係ないから!!)
婚約はしていても、まだ結婚してないのに同衾はもってのほか。全然外れない。隙間も出来ない。抱き枕みたいに、がっしりと抱き込まれてるよ。格闘していると、耳元から声がした。
「…………また、俺から離れようとするのか? 暴れるほど俺の事が嫌いなのか? だが、俺はどんな手を使ってもシアを離したりはしない。絶対、逃さない。逃がすものか。シアの全ては俺のものだ。なのに、シアは約束を破った。俺以外に肌を見せた。許さない。許せない。ほんとに、シアは悪い子だな。始めてを俺じゃない、違う奴にあげたのだから。躾をしなくてはいけないな。でも大丈夫。俺は寛大だから優しくする」
(病み度が更に進んでる)
色々要因はあるけど、決定打は嫌いって叫んで飛び出した事とお風呂ね。分かってはいるけど、自分の母親にも敵意を露にするなんて、予想の斜め上で呆れるというか、カイナル様らしい。
私は小さく溜め息を吐くと、ジタバタするのを止めて、大人しく抱き枕になることにした。
「離れたりしませんよ。少し喧嘩をしただけじゃないですか……これから、長い時間を一緒に暮らすのですから、喧嘩ぐらいしますよ。寧ろ、しない方がおかしいですよ」
いい所で遮らないと永遠に続きそう。貞操も危ないし。
「……喧嘩は嫌だ。嫌いと言われただけで、差し出した手を拒否されただけで、俺の胸は潰れそうになる。激しい痛みが襲って、気が狂いそうになる。もう……あのような痛みを味わいたくはない」
切実で、悲壮感たっぷりで、ましてや泣きそうな声で、カイナル様は今の気持ちを吐露する。
(想像出来ないよね……)
大陸一の強さを持ち、数々の武運を若くしてあげ続ける、ぜシール王国の英雄様。軍馬に跨り王都を行進する様は、本当に神々しくて、私は一生忘れない。
あの時のカイナル様と今のカイナル様、どちらがいいかと訊かれたら、私は今のカイナル様を選ぶかな。病んでいる時は非常に厄介だけど、人間味があって温かく感じるの……心も身体もね。カイナル様には絶対言わないけど。
「……カイナル様は、私に怒るなと言いました。カイナル様は怒って、伯爵家とそれに連なる家に制裁を与えたのに」
私は出来る限り感情を押し殺し、淡々とした口調で事実だけを語った。
「俺はシアの身が危険に晒される事はしなくないだけだ!! 何故、それを分かってくれないんだ!!」
容赦なく、カイナル様は感情を私にぶつけてくる。
「カイナル様が、私の身を案じてくれているのは分かっています。私は人族であり、まだ子供ですから。でも、カイナル様が与えてくれた魔法具のおかげで、私は常に護られています。何人たりとも、私を傷付ける事はできません」
「だとしても――」
(どう説明したら、カイナル様は気付いてくれるの。私がここまで怒っている理由、本当に分からないの? それとも、気付かない振りをしてるの?)
「私は自分が馬鹿にされたり、蔑まれた事でここまで怒ってるんじゃない。だってそうでしょ。私は平民なのは間違いないし、容姿が華やかなわけでもない。平凡な子供だよ……私が怒ったのは、カイナル様が私のせいで馬鹿にされたからだよ。番である私を非難することは、私を選んだカイナル様を非難する事でしょ。だから、私は自分を囮にしようと考えたの。私がここまで怒るのは、カイナル様が馬鹿にされたからだよ。大事な人を馬鹿にされて、怒らない人なんていない」
もう、敬語とかどうでもよかった。話の途中で、それは違うとか口を挟んできたけど、私は続けて強い口調で言い切った。
「シア……」
カイナル様が優しく抱き締めようとした手を私は払い除け、ベッドから飛び降りた。呆然とするカイナル様。
「だから、怒るななんて言わないで!! 私の感情を否定しないで!! お願いだから、しないで……私の気持ちを踏みにじらないで……」
感情が一気に爆発したみたいだった。感情が高ぶりし過ぎて涙が出てしまう。あのお花畑妄想女が言っていた通り、今の私は馬鹿丸出しね。分かっているのに、涙が止まらない。
すっごく、不細工な顔になってるよね。平凡な顔が益々酷くなってる。手を払い除けてから、カイナル様、硬直してるし。唇を噛み締める。
これ以上、汚い顔を見られたくなくて、私は寝間着のまま部屋を飛び出した。カイナル様は追い掛けて来なかった。
「カイナル様の馬鹿――!!」
深夜、廊下に私の声が響き渡った。




