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ヤンデレ狼の英雄様に、無理矢理番にされました〜それでは、デスゲームを始めましょうか〜  作者: 井藤 美樹


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副会長再び登場です


 いつもと同じように、私は両殿下と一緒に昼休みに生徒会室に訪れていた。そして、一人雑用にせいを出していたんだけど……


(まぁ、今日ばっかりは仕方ないよね)


 普段は和気あいあいとしているのに、この日は空気がピンッと張り詰めていた。理由は分かってる。


「ちゃんと、逃げずに登校して来たよ」


 生徒会長が険しい表情をしながらも、どこかホッとした様子で教えてくれた。


 誰がとは言わないし訊かない。あの食堂の件から十日、謹慎時間が二日あったから、昨日停学処分は終わた事をこの場にいる全員知っていた。


「生徒会を辞めたわけではないですよね?」


 スノア王女殿下が若干声のトーンと口調を押さえながら、生徒会長に尋ねる。


(これ、詰問だわ)


「本人から何も聞いてはいないが、もう来れないだろう。矜持をズタズタにされた上、塩を塗られたからな……実際、教室であからさまに避けられた」


 生徒会長の台詞に、皆の目が私に向く。


「……別に、ズタズタにする気も、塩を塗るつもりもなかったですよ。仮面を()がしてやろうとは思いましたが。ただ……やり方に腹が立っただけです」


(やっぱり、この件に関して、誰からも信用されてない)


 白けた目が語ってる。


「面と向かって怒られた事なかったからな。それに、大概の我が儘は通っていたし、自分が特別だと信じて疑わなかったと思うよ。それなのに、格下だと思っていたユリシア嬢に、為す術もなかったのだから、心がボキッと折れても仕方ないんじゃないかな」


 アジル殿下の台詞に、苦笑いしか出来なかった。


「…………ほんと、打たれ弱過ぎ」


 思わず、溜め息を吐きながらぼやく。人族の生徒会長には聞こえなかったようだけど、両殿下にははっきりと聞こえたみたい。苦笑してたからね。


 そんな話をしていたら、ドアをノックする音がした。同時に、さっきまで話題に上がっていた人物が入って来た。


 副会長だ。


(まだ、入室許可出てないのに)


 彼は私を一瞥(いちべつ)すると、何も言わずに、生徒会長の前まで来た。そして、一枚の紙を机に置いた。


「……本気で辞める気か?」


 低い声で生徒会長が、自己中男の意思を再確認する。その声音には、悲しみと怒りが混じっているように聞こえた。感情の機微に敏感な両殿下も気付いているはず。彼らの耳はとてもいいから。


「ここに、僕の居場所はもうない」


 きっぱりとした声で、自己中男は答える。


(何、勝手に自己完結してるの)


 その諦め切った台詞に、私はイラッとした。


「お山の上のお猿さんではなくなりましたからね」

 

 口を出した私を、自己中男はキッと睨み付けてきた。特に怖くはないけどね。


「君には関係のないことだ」


(もう、あの気味の悪い仮面は被ってないのね)


「そうですね、関係ないです。一応訂正しますが、私は次の生徒会役員が決まるまでの中継ぎですから……でも、無責任ですね。責任を一切取らずに、途中で放り出すなんて。辞めることが、責任の取り方だと考えているなら、格好悪いですね。結局、逃げているだけでしょ。楽ですから」


 私がそう言い放つと、自己中男は唇を強く噛み締め、荒々しく生徒会室を出て行った。


(少しは自覚しているようね)


「……呆れるほど、ユリシアは優しいわね」


「伝わりにくい、優しさだけどね」 


 スノア王女殿下とアジル殿下が、苦笑しながら言う。


「私は優しくはありませんよ。買い被り過ぎです。自己完結している様子に、イラッとしたから口を出してしまっただけです。副会長の事など、私にはどうでもいいことですよ」


 まとめた資料の束を定位置に戻しながら答えた。


「どうでもいいことなら、端から何も言わないわよ。無関心を貫くわ」


 スノア王女殿下がニヤリと笑いながら言った。


「手が止まってますよ、スノア王女殿下」


 図星を指されて、ちょっと面白くない私は注意する。スノア王女殿下は「はいはい」と二度返事してからペンを走らせる。


 自己中男が生徒会に戻るかどうかなんて、私には関係ないことだよ。自分で決める事だからね。亜人族も人族も、生きて行く上で、色々な分岐点があると思うの。時には考え立ち止まったり、考えずに選ぶ事もあるわ。


 でもね、どの道を選ぶかは本人次第。


 ただ……一度逃げた後の楽さを覚えてしまうと、些細(ささい)な問題がある度に、その楽さを選ぶようになる。その選択肢が増えるの。


 だって、辛い事やしんどいのは、誰でも嫌だからね。そして、逃げ癖が付くの。その時は楽だけど、それは問題を先送りにしているだけ。やがて、大きな形で返ってくる。そうなった時、一番困るのは本人。


 私は自己中男には逃げて欲しくないと思ったの。だって自己中男は、勇気を出して、生徒会長に直接辞める意思を伝えに来たのだから。


 私が出来るのはここまで。



 数日後。


「よかったわね、ユリシア」


 スノア王女殿下が私に言った。


「そうですね。これで、生徒会はきちんと機能してくれれば、もう、私が手伝わなくてもよさそうですね」


 視線の先には、生徒会長と並んで歩く副会長。その手には書類を()じたファイルがあった。


 自然と笑みが浮かぶ。でも、両殿下に見られたくなくて直ぐに顔を引き締めた。


「それは困るわ。まだ、生徒会役員は決まってないのよ」


 いや、優秀な三人プラス一人増えそうなんだから、凡人である私はこのへんで退場しないとね。


「なし崩し的に入りそうなのが怖いので、そろそろ、手を引きますね」


 にっこりと笑って、私は退場を告げた。



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