カイナル様の闇
ヤンデレ度★★★★★
「…………カイナル様、今日もお仕事お疲れ様でした……それで……お願いが」
恐る恐る、お願いする。それに、この体制何!? さっきお風呂に入ったのに、もう汗だくだよ。
(こ、怖い。美形が無表情になったら、迫力あり過ぎて怖いよ〜)
「俺はシアの願いを、これまで何度も叶えてきた」
お昼寝事件と同じように無表情のまま、今度は感情のこもらない目で私を見据えながら淡々と告げてきた。
身体はピクリとも動かない。それでもカイナル様は、私の僅かな身体の動きで、逃げようとしたことを察した。逃げたら駄目だって分かってはいたけど、真正面から来られたら本能がどうしても勝ってしまう。生存本能のせいで、無意識に逃げようと動いたの。
「どうして、逃げようとした?」
目に光がない。
(あ……やっぱり、また地雷を踏んだ。鉄格子と手錠が脳裏に浮かぶよ。もしくは、鎖かな。間違いなく、デスゲームの駒、一気に進めたわ)
「……本能です」
もうこうなったら、素直に答えるしかない。
「シアは俺が怖いのか? 何故怖がる。俺は今までシアに尽くしてきた。シアの夢を応援してきたつもりだ。なのに、何故シアは俺を恐れるんだ。教えてくれないか、何故恐れるんだ? 俺の何が悪い? なぁ、教えてくれないか? 俺はどうしたらいい。何をすればいい。俺の何が足りない」
噛まずに続く、言葉のラッシュ。
「そ、その目です!!」
耐え切れずに、私は叫ぶ。
「そうか……この目が嫌なのか。なら、いらないな」
(えっ……!?)
カイナル様はそう呟くと、私の上から身体を起こし、指で自分の目を突き抉ろうとした。
「止めて下さい!!」
さっきまで、身体が金縛りのように動かなかったのが、嘘のように動いた。必死で、カイナル様の腕にしがみつく。
「何故、止める。この目が怖いのだろう? なら、シアの怖いものを排除しなくてはいけない」
さも、当然のようにカイナル様は告げた。
(なんで、そうなるのよ!!)
私はしがみついたまま叫んだ。
「な、なんで、簡単に自分の身体を傷付けようとしてるんですか!?」
「番が望んだ事を叶えるのは、当然のことだろう」
「私はそんなこと望んでない!!」
この屋敷に来て、一番大きな声だったと思う。
「しかし、この目が……」
小さい声で、カイナル様は尚も考え直さない。否定の否定に、戸惑っていた。その気持ちが、痛い程伝わって来る。
(……この人は、嫌になる程私に対して、純粋で一途過ぎる)
目と鼻の奥が熱くなる。気抜いたら、泣きそう。泣いたら、絶対また勘違いする。だから、我慢しないと。
「私が怖かったのは、カイナル様の目そのものじゃなくて、いっちゃってる目が怖かったんです!! いいですか!! もう、自分で自分の身体を傷付けようとしないで下さい」
我慢していたのに、興奮したら泣けてきた。感情が爆発したら泣くんだね。知らなかったよ。
私が声を上げて泣き出すと、カイナル様があたふたしだした。もう、あの光を失った目はしていない。声にも感情が表れている。ほんと、よかった……
怖いと思った――
カイナル様はいとも簡単に、何も迷わずに、私の台詞のせいで自分の未来を壊そうとした。閉ざそうとした。人族には到底理解出来ない行為。それが出来るのが、亜人族なんだろう。
震える程恐ろしい。
「もうしない。だから、泣かないでくれ。頼むから、泣き止んでくれ」
恐る恐る私に触れてこようとする、カイナル様。さっきまでの彼とは違う。
私ってつくづく大馬鹿者だよ。こんなに、カイナル様の闇に触れても、彼を突き放すことができない。見限る事もできない。番だからという理由にしていたけど、もう無理ね。私はカイナル様を受け入れている。
「……だったら、私を抱き締めて下さい」
そうお願いすると、カイナル様は躊躇いながらも、私を抱き締めてくれた。壊れ物を扱うようにそっと。
「これでいいか?」
頭上から、カイナル様の温かい優しい声がする。
私は、カイナル様の胸の中で思いっ切り泣いた。その間も、カイナル様は私を抱き締めてくれた。おかしいよね、カイナル様が怖いのに、彼の胸の温かさが、次第に私を安心させる。
やっと落ち着いた私は、カイナル様の胸に手を添え押した。カイナル様の腕が離れる。俯いたまま、私は思いの丈を吐露した。
「……もう、自分の身体を自分で傷付けようとしないで下さい。そんな事をされたら、私は自分が許せなくて、貴方の傍にいられなくなります。こうして、カイナル様の背中に腕を回せなくなってしまいます。お願いだから……もう、自分を傷付けようとしないで」
「分かった……シア、済まない。怖がらせたな」
再度、私を抱き締めたカイナル様は、沈んだ声で私に謝る。
「もう、いいです」
しんみりとした空気がやんわりと和んで、これで終わったかなって安心したけど違った。
「生徒会を手伝うのはいい。だが、放課後は絶対に駄目だ。シアには明るいうちに帰って来てほしい。もし、シアが放課後まで生徒会を手伝ったら、性格上抜け出せないだろ」
仰る通りです。
皆が仕事している中、一人抜け出すことは出来ないと思う。なら、始めから、放課後は手伝えないって言っていた方がいいよね。無用なトラブルを避けれるから。
「……分かりました。放課後は手伝えないって断りますね」
「分かってくれて嬉しい。心配なんだ、シアはとても可愛くて綺麗だから」
(いや、綺麗なのはカイナル様だよね。私のような平々凡々で生意気な小娘を好きになる物好きいないわ)
「そう思うのは、カイナル様だけですよ」
「そんな事ない!! シアはとても可愛くて綺麗だ。いつも目で追って、見詰めてしまう。目が離せないんだ」
「それは、番だからです」
その台詞に納得出来ないカイナル様は、まだ、ブツブツ言っている。
「あと……ゲルツ・ダクリスには近付くな」
褒めたのがいけなかったみたい。完全にターゲットにされてる。ごめんなさい、生徒会長。
「出来るだけ、近付かないようにしますね」
「出来るだけは駄目だ」
相手は生徒会長なのにね。彼から仕事を振られるのに、難しいこと言ってきた。それも、強い口調で。
ほんと、私の番は、とても病んでいて面倒だと思う。だけど、それがカイナル様なんだよね。




