攻略本が欲しいです
「……どう考えても、納得できないわ」
今日も、朝からスノア王女殿下は毛並みが良くて、可愛くて元気です。厄介事がなくなって、教室でゆっくり話せるの久し振り。
(内容は、平和的じゃないけど)
「そうですか……停学一週間って、私的には重いと思いますが」
「降格になっていないでしょ!!」
スノア王女殿下が朝から憤慨しているのは、自己中男が停学一週間で済んだ事。クラスはそのまま。謹慎の二日を入れると、十日後に学園に戻って来る。
因みに、自己中男の手駒だった生徒会役員の中で、私を無理矢理連れて行こうとした役員は停学十日。他の役員は生徒会長を含め、厳重注意となった。私も、軽く担任から注意されただけで済んだよ。手と口を出して来たのは向こうからだからね。あくまで私は、正当防衛。目撃者は大勢いたから証言は十分に取れたよ。
あれから、自己中男の人気がどうなっているかは知らないけど、私的には、仮面が外せただけでいいかな。
「直接、副会長は何もしてませんから。ちょっと口喧嘩をしただけ。肩を掴もうとはしましたが、伯爵令嬢たちのように暴力を奮おうとはしていません。降格にはなりませんよ」
「でも!!」
スノア王女殿下の言いたいことは理解出来る。自己中男が、私に殺意に近い悪意を向け、手を伸ばしてきたことに怒っているの。
「人の胸の内は裁けません。思うのは自由。行動が全てです」
(自分で言っててなんだけど、重いよね)
カイナル様に出会う事なく、あのまま食堂でお手伝いをしていたら、私はそんな事は口にはしなかった。この六年間必死で勉強して、いつの間にか、私の中から平民らしさが抜けて行ってる気がする。少し寂しいけど、しょうがない事。それが、正しいんだから。
「確かにそうだけど……」
まだ不服そうだけど、なんとかスノア王女殿下は納得してくれた。
スノア王女殿下自身、頭では理解していると思う。だけど、感情が付いて来ないんだね。スノア王女殿下には悪いけど、私は嬉しいかな。本気で心配して怒ってくれたから。
私の中から平民らしさは、これからも抜けていくけど、代わりに補充されるものもあるんだね。それを、スノア王女殿下とアジル殿下が教えてくれた。
「本当に、私は良い友人が持てて嬉しいです。それで……アジル殿下に何かあったのですか? 最近、とても忙しいそうなので」
スノア王女殿下のデレ顔が、アジル殿下の名前を出した途端に消えた。
(あれ? また喧嘩でもしたのかな?)
双子で仲が良すぎるのか、その分、喧嘩も多いんだよね。直ぐに仲直りしてるけど。
「アジルは、もう少ししたら来るわ」
(なんか、奥歯にものが挟まったかのような言い方ね)
「喧嘩ではないとしたら、何か、用事でもあったのですか?」
「…………生徒会室よ」
超不機嫌な声で、スノア王女殿下は答える。
「えっ!? また、勧誘されたの!?」
吃驚して、素が出ちゃった。
「自発的に行ったのよ。役員の大半があの件以降、生徒会室に来なくなって、仕事は生徒会長と数人の役員で回してるらしいわ。人がいいアジルは、黙ってられなくなったみたいで……」
(目に見えるわ〜仕事放棄ね……まぁそうなるわ)
だってあいつらは、そもそも生徒会にいた理由が違うから。生徒会役員になったのも、憧れの副会長の傍にいるため。彼のいない生徒会など、どうでもいい。魅力を感じない、ただそれだけ。私にはあの自己中男の魅力が、未だに全く理解出来ないけどね。アジル殿下の魅力は理解出来るのに。
「それが、アジル殿下の良い所だと思います。そうでしょ、スノア王女殿下」
そう言ったら、またスノア王女殿下は少しデレた。僅かに、表情が変わる程度だから、気付いているのは私とアジル殿下だけ。癒やされる。
「……少し甘いと思いますが、アジルらしいわ」
ほんとに、仲が良いよね。だから、提案してみた。
「なら、昼休み、アジル殿下の分の軽食を購買で買ってから、私たちも生徒会室に行きませんか?」
「えっ!?」
(そんなに、驚くようなことを言ったかな?)
「役員になるつもりはありませんが、新たな役員が決まるまで、中継ぎをするくらいはしてもいいと思います。どこまで出来るかは、分かりませんが」
「生徒会、毛嫌いしてたでしょ!?」
(なんか、勘違いしてるみたい)
「生徒会、そのものを嫌ってはいませんよ。面倒くさいとは思っていましたが。私が嫌だったのは、その体質です。元凶がいなくなったので、手伝う分は全然構いません」
にっこりと微笑みながら答えると、スノア王女殿下はなんとも言えない表情になった。
(あ……もしかして、やり過ぎたのを思い出したの?)
私的には、やり過ぎたって全然思わないんだけど、貴族の御令嬢や御子息たちには、若干、嫌……かなり、刺激が強かったみたいで引かれたわ。真っ青で震えている生徒もいたし。精神面弱いよね。
「……ユリシアが手伝うなら、私も手伝ってあげるわ」
ちゅっと素直じゃない所も可愛いな。ほんとは、アジル殿下の事を心配して手伝いたかったんだよね。
「ありがとうございます、スノア王女殿下」
「但し、放課後は一時間だけよ」
「スノア王女殿下、用事でもあるのですか? なら、私だけでも」
そう気を利かせて言ったら、怒られた。
「私じゃなくて、ユリシアが!! ユリシア、お願いだから、少しは自覚を持って。貴女には、カイナル様という番がいるでしょう。私と一緒にお昼寝しようと平気で言うし、少しはその言動と行動を考えなさい」
カイナル様も、お昼寝って言葉にやけに敏感に反応してたし、すっごく怒られた。デスゲームのゴール一歩前まで駒を進めちゃったよ。
(でもなんで、放課後は一時間しか駄目なの? よく分かんないけど、これ、選択間違ったら駄目なやつじゃない?)
頭の中で警報が鳴り響いてる。間違いなくそうだ。ほんと、亜人族ってよく分からない。何処かに、攻略本ないかな。あったら、大金払っても即買いするのに。
ないのなら、カイナル様の普段の行動を思い返せば、回避するコツが見付かるかも。
普段のカイナル様って――




