久し振りにキレました
あの一件があってから、黒板に私の悪口を書かれることは徐々に少なくなっていった。スノア王女殿下もだけど、アジル殿下も一緒に消してくれた事が大きいと思う。あと、私と一緒に行動してくれた事もね。
「ユリシア、行きますよ」
「ユリシア嬢、行こうか」
両殿下とも分かっている。自分たちの存在が抑止力になっている事を。私を護ると同時に、黒板に悪口を書いた者を止めるために。それが、護ることに繋がるから。
私の我が儘を聞いてくれた両殿下に、私は何を返せばいいの。本気で悩む。深読みすれば、カイナル様の根回しかもしれないけど、それでも、優しいなと私は思うの。
だけどね、アジル殿下はスノア王女殿下よりも少し距離があるんだよね、物理的に。教室で、スノア王女殿下は私の隣に座るのに、アジル殿下は椅子一脚分あけて座る。それが、自分以外の番を持つ者に対する距離感なんだって学んだよ。ちょっと寂しいけどね。
「はい、待って下さい、アジル殿下、スノア王女殿下」
私は両殿下よりかなり小さいから、早歩きでやっと追い付くの。そのせいで、いつも私に合わせて貰って、ほんと申し訳ないよ。
「そんなに急がなくても、大丈夫だよ」
アジル殿下が優しい言葉を掛けてくれた。
同時に、遠くから悲鳴が聞こえた。もしかして、歓声かな。耳が良いよね。カイナル様にもファンクラブがあることは知ってるけど、アジル殿下にもあるらしい。優しくて、笑顔が爽やかで美少年の王子様なら、ない方がおかしいよね。なら、スノア王女殿下にもファンクラブあるのかな?
「ユリシア、どうかしましたの? 難しい顔をして」
スノア王女殿下が、私の頬をグニグニと押しながら尋ねる。
(そんなに、難しい顔してたかな?)
「……ファンクラブの扱いには注意しないといけないかなと、思いまして」
そう答えたら、スノア王女殿下に抱き締められた。
(む、胸が!! 本当に十ニ歳なの!?)
柔らかくて、弾力があって、良い匂いがする。
「私が護りますから、安心なさい」
「あんな暴挙は、僕は許さない。安心して、ユリシア嬢。僕が徹底させるから」
(徹底って、何をするつもり!? あっ、でも、躾けてもらえれば助かるかな)
「ありがとうございます、スノア王女殿下、アジル殿下……それで、何故、私たちが生徒会室に?」
スノア王女殿下の胸から脱出した私は、両殿下に尋ねた。
「生徒会の勧誘を受けましたの」
スノア王女殿下が教えてくれた。
「生徒会ですか?」
(私、勧誘されてないけど)
「成績優秀者が、自動的に生徒会入りするのが習わしなんだ。カイナル様も在学中は、生徒会長を務められたと聞いてるよ」
アジル殿下が補足してくれた。つまり、私が知らない所で、私を含めて勧誘されたってことね。なんか、ムカつく。
「……拒否権は?」
そう尋ねたら驚かれたよ。
「生徒会は選ばれた生徒しか入れない!! 誇れることだ。断るなんてありえない」
アジル殿下の力説に、私は苦笑い。
「そ、そうなんですね……」
いまいち、選ばれた云々はよく分からないけど、将来、王城に務めたい高官志望や、近衛騎士、王宮魔術師を目指す人には有利になるわね。
学園は一つの国家のようなものだから、アジル殿下やスノア王女殿下にとっては、人の上に立って動かす事を習うには最適な場所ね。私には関係ないけど。
だって、私が目指す一級司書官は特殊だからね、そもそも、そんなに人気がないんだよ。暗くて、陰キャを極めた職業って思われてるからね。事実、派手さは全くないから、本当は凄い仕事でも中々認められてないの。腹立たしいよね。
そんなことを考えているうちに、生徒会室に到着した。
三人を代表して、アジル殿下がドアをノックする。
すると、ドア越しに男性の声で「どうぞ」と返事があった。同時にドアが開く。私たちは招かれ生徒会室に入った。
開けてくれた人と目が合った。
(招かれた感じじゃないわね)
明らかに不愉快そうだもの。アジル殿下やスノア王女殿下には見せてはいない。一番最後に入って来た私にだけ、見せた目だった。
私は気付かぬ振りをして、両殿下と並んでソファーに座る。その行為が、更に癪に障ったみたい。私は無視する。
「僕は、現生徒会長を務めているゲルツ・ダクリスだ。学年は三年。さて、君たちをここに呼んだのは、君たちに生徒会に入って欲しいからだ」
やっぱり、両殿下の言う通り生徒会の勧誘だった。面倒くさいな……どうやって断ろうかと考えていたら、助け舟が入った。生徒会室に入る時から、ずっと私に敵意を向けていた男子学生だった。ネクタイの色は緑、三年ね。
「私は反対だ!! ユリシア嬢の生徒会入部は認めない!!」
場が凍り付くって、こういうことをいうんだね。その場にいる全員が、静止画のように止まっているもの。
「黙れ!! その話は、もう済んだだろ!! この学園の伝統を破る気か!?」
アジル殿下とスノア王女殿下が抗議する前に、生徒会長が怒鳴った。
「相応しくない者を入れることによって、穢されるくらいなら、始めから入れない方がいい!!」
(完全に嫌われてるわね。初対面なのに)
なんか、腹が立ってきた。理由を述べることもなく、一方的に他者を否定する。あまりにも理不尽な言い方ね。自分が正義だと信じて押し付ける。私が一番嫌いなタイプだわ。
「理由をお聞かせ頂けますか? 貴方様と私は面識がなかったと思いますが……それとも、私が忘れているだけですか? 人の顔を覚える自信はあるのですが……まさかと思いますが、貴方様は一度も面識がない者を否定なさるのですか? それが許される程、優秀で地位のある方だとは、申し訳ありません。無知で」
一気に捲し立てる。別の意味で、この場は凍り付いていた。でも、これで終わらせたりはしない。私は更に続けた。
「そのような優秀で地位がある方が、流れる噂を鵜呑みにして、自分独自の正義を振り回すことなんてありませんよね。失礼致しました。生徒会は団結して、学園の運営をする場、それを乱す私はいない方がいいですね。私の方から辞退させて頂きます。誘って頂きありがとうございました」
呆気に取られている皆を残し、私は立ち上がるとドアまで移動する。にっこり笑って一礼し、出ようとした時だった。
「ここは、必死で、自分の夢や生きる道を探して掴み取ろうとしている者たちがいる所だ!! 番に選ばれて、安穏としている奴がいるべき場所じゃない!!」
男子学生が恫喝してきた。
(そっちか。視野、狭過ぎない)
私は振り返ると、静かに低い声で言い放った。
「私が道楽で、この学園に入学したと……確かに、カイナル様の手助けはありましたが、平民である私が、国内最高の教育機関に、ただの道楽で、それも学園二位の成績で入学したと仰りたいのですか。それとも、不正したとお疑いですか。だとしたら、この学園はそんなに低いレベルなのですか……私には、幼い頃からの夢があります。一級司書官になると言う夢がね。私のことを否定するのは許しましょう。でも、何も知らない赤の他人が、私の夢を否定するな!! それだけは許さない!! では、失礼しました!!」
頭を下げ退出した私は、教室に戻ると頭を抱えて蹲る。
(やっちゃった〜〜)
最後の方は、完全に貴族相手に恫喝しちゃったよ。久し振りにキレたわ。でも、後悔はしてない。だって、私にも譲れないものがあるからね。もう済んだ後だし、気にするのはやめよう。うん、前向きに生きなきゃ。もう会うこともないし。




