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人族も亜人族も好きだから


 一週間後、登校したら、掲示板の前に人(たか)りが出来ていた。廊下にも、数人がそれぞれ集まって噂話をしている。


「あ〜決まったのね」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。


 少し離れた場所から掲示板を見る。やっぱり、停学処分になっていた伯爵令嬢と、取り巻き三人、計四人の処遇が貼り出されていた。


 伯爵令嬢はSクラスからCクラスに。取り巻きたちは全員Eクラスに降格した。Cクラスの伯爵令嬢は、なんとか頑張れば、まだ先は見えるかもしれないけど、Eクラスに落ちた生徒の未来は真っ暗ね。貴族籍を持つ者が行くクラスじゃないから。Cクラスでも、落ちこぼれって言われてるみたいだし。


 確認も終わったので、そのまま教室に向かう。私が廊下を歩いていると、あからさまに避けられた。まぁ、そうなるよね。


 降格処分になった原因が私だってことが、生徒の間に広がっているからね。受け取り方は、亜人族と人族とは違うみたいだけど。亜人族は大体がしょうがない、自業自得って感じだけど、人族はありえない、厳し過ぎるって感じかな。


 人族からは、完全に危険物扱いになってるわね。でも、これで絡んでこなくなるならいいかなって考えてたんだけど、そうはならなかった。


「またなの!?」


 スノア王女殿下が声を荒げる。


 物を壊されたりはしないけど、代わりに、黒板に私の悪口がデカデカと書かれるようになった。移動教室の黒板にもね。随分と暇なのね。可愛い内容だったから、そのまま放置していた。


「消せますから、大丈夫です」


 私は淡々と黒板消しで悪口を消して行く。


「だとしても!!」


 スノア王女殿下の言いたい事は理解出来る。でも、続けては駄目でしょ。それに、ただの悪口を書いているだけ。持ち物が壊されるとかの実害はないから大丈夫。


「心配してくれて、ありがとうございます、スノア王女殿下。クラスメートが降格したばかりです。これくらいのガス抜きは必要ですよ」


 犯人がクラスメートの誰かか、その関係者だと推測は出来る。先回りして、移動教室にまで書かれていたから。使用すると知っていなかったら、まず無理だよね。


(友人からか……妙な正義感からか)


 苦笑しながらそう答えたら、スノア王女殿下に本気で怒られた。


「それは間違ってますわ!! 悪い事をしたのはあちらでしょう!! それに、退学にならないように計らったのはユリシアでしょ!!」


 私は手を止める。


「確かに、そうですけど……当人かしたら、余計に残酷な事をしてしまったかもしれません」


 そんな声が上がっているのを、私は知っていた。わざと聞こえるように言ってい来る人が多かったからね。それを聞いて気付いたの。


 貴族社会において、一度落ちるっていうことがどういう事なのかを――


 私は頭でしか理解していなかった。


 亜人族と人族。


 そして、貴族と平民。


 それぞれの間には、目に見えない分厚い壁がある。私は、それを身体で再確認したの。


「それは違いますわ!! ユリシア、貴女は被害者なの。そして、降格した者は加害者。処罰を下したのは学園です。何故、被害者であるユリシアが、こんな幼稚な嫌がらせを受けなければならないのですか!? どうして、貴女は、その理不尽を受け入れているのですか!? 卑怯者の声に抵抗しないのですか!?」


 スノア王女殿下の声が教室内に響く。廊下にも響いていたかもしれない。


 静まり返る教室。


 廊下からも音がしない。聞こえるのは、私とスノア王女殿下の声だけ。


「……スノア王女殿下の仰ることは、間違ってはいないと思います。でもそれは、理想論です。ただ、勘違いしないで下さい。私も暴力を受ける側が悪いとは一切思いません。悪いのは、加害者側です」


「だったら――」


 私は、スノア王女殿下の言葉を遮るように続けた。


「スノア王女殿下、人の心は、そんなに正しくも強くもありません。それに、また人族を裁けば、人族の不満が跳ね上がります。今は小さな亀裂でも、大きな亀裂になる可能性があります。私はそれを避けたいのです。私は人族も亜人族も好きですから。これからも、良き隣人でありたいのです」


 スノア王女殿下が本気で怒ってくれて、心からぶつかって来てくれたから、私も本心で答える。


「…………貴女って人は……」


 スノア王女殿下は眉を(しか)めそう呟くと、もう一個置いてあった黒板消しを手に取る。そして、落書きを消し始めた。


「スノア王女殿下……」


 驚いたけど、とっても嬉しかった。泣きそうになったよ。


「手を動かしなさい。間もなく、先生が来るでしょ!!」


 お叱りを受けて、私はスノア王女殿下と一緒に消し始める。二人で消すと、あっという間に消せた。


「ありがとうございます、スノア王女殿下」


 私はにっこりと微笑み浮かべながら、お礼を言う。すると、何故かスノア王女殿下は真っ赤な顔で、「別に、構いませんわ」と答えた。


 スノア王女殿下はツンデレですね。


 悪目立ちしたくはなくても、私の存在そのものが悪目立ちしている。それは仕方ないし、受け入れた。でも……一人は寂しいし、思っていた以上に辛かった。でも、私を心配し、本気で怒り、私の声に耳を傾けてくれる人がいるから大丈夫。


 学園生活楽しめそうです、カイナル様。



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