授業に遅刻したら、待っていたのは尋問でした
ヤンデレ度★★★★☆
オリエンテーションも問題なく終わり、授業が開始されて間もなくの昼休み、チャイムと同時に、スノア王女殿下とアジル殿下が私の所にすっ飛んで来て、有無を言わさずそのまま連行された。
連れて行かれた場所は、高位貴族のみが使える特別な部屋。どうやら、貸し切りにしたみたい。さすが王族。このまま、ここで昼ご飯ってならないよね……たぶん。
「ユリシア!! どうして、授業を遅刻したの!?」
入室した途端、スノア王女殿下の尋問が始まった。隠しても直ぐにバレるので、ここは素直に答える。それに、心配掛けたみたいだし。最初は絡まれたりしたけど、今は何かと気にかけてくれている存在かな。
「忘れ物を取りに教室に戻ったら、人族に絡まれ、暴力を振るわれそうになりました。待ち伏せしてたようですね」
その返答に、両殿下とも青くなる。
亜人族からしたら、考えられない暴挙だよね。入学式に、スノア王女殿下が絡んできたけど、私が番であることを否定するようなことは、一切口にはしなかった。
でも、彼女たちはした。
「誰に!? 怪我は!? 大丈夫なの!?」
(矢継ぎ早に訊いてくるわね)
「スノア、訊く前に、保健室に行った方がいいんじゃないか?」
アジル殿下が私とスノア王女殿下の間に入ってくれた。やっと、これで話せる。
「心配してくれてありがとうございます。大丈夫ですよ、授業には遅れましたが、普通に授業を受けましたし」
(保健室は嫌かな……まだいるから)
「そう……なら、いいけど、誰に絡まれたの!?」
まだ、尋問は続くみたいね。
明日になれば、学園内に知れ渡ると思うけど、それが真実とは限らない。王族としては、事実を把握しておく必要があるよね。
「名前は記憶してませんが、同じクラスの伯爵令嬢様です。あとは、その取り巻き三人ですね」
さすがに、王族の前で金魚のフンとは言えないわ。
「あ〜あの子ね。カイナル様の熱烈なファンというか信者? ストーカー? ……兎に角、自分がカイナル様の番だと妄信して吹聴していた愚か者よ。何度か、ゴルディー公爵家から抗議されたと聞いてますわ。ですが、なまじ亜人族の血が四分の一入っているものだから、信用なさる方もそれなりにいましたね。ほとんどが、人族でしたけど」
詳しい経緯を、スノア王女殿下が教えてくれた。
(なるほど。番だと妄信していたのに、私がひょっこり横から掠め取ったと思ったのね。それとも、番を惑わす悪女とでも思ったのかな。どっちにせよ、現実を知って暴走したのね)
考え込む私に、アジル殿下が続けて言う。
「ここまで、明確に匂い付けをしているのに、何故、ユリシア嬢を害しようと思ったのか……僅かでも、亜人族の血が入っているのに」
心底、アジル殿下は分からないようだ。亜人族から見たら、考えられない非常識な行動なんだね。
「……人族の血が強かっただけでは。そして、その思考も人族だった。ただそれだけですわ」
亜人族の血が入っていても四分の一、ましてや、両親は人族。ならば、亜人族の能力も人族の生活の中で失われたのでしょう。
「人族って「厄介ですね」
アジル殿下が言い辛いことを、私が代わりに答えた。
「貴族社会では、人族でも離婚は難しいですが、婚約は違いますからね。簡単とはいきませんが、変更は可能です。それに、私は平民ですからね、脅せば、大人しく下りると考えたのでしょう。人族は、婚姻を軽く考えてますからね」
だから、番の間に平気で割って入ろうとする。
「そこだけは……私たちでも、どうすることもできませんわ」
スノア王女殿下の顔が曇る。
「スノア王女殿下が責任を感じることはありませんよ。これだけは、どうすることもできません。民族性の問題ですから」
「達観してるわね……」
スノア王女殿下は怪訝そうに言う。
「ある程度は予想していましたから。対策に関しては、カイナル様が自ら嬉々としてしていまし、私は不安を感じる要素はありませんね」
その時の事を思い出すと、魚が死んだような目になるから、敢えて思い出さないようにした。
「その対策って……訊いてもいいかしら?」
恐る恐る、スノア王女殿下が訊いてきた。
(勇気あるなぁ、王女殿下。私なら、絶対訊かないけど)
「そうですね……私も全部は知りませんが、悪意を持つ者に反応する魔法が、ピアスに施されています。物理攻撃無効、魔法攻撃無効、状態異常を無効化する魔法。自動回復魔法。蘇生魔法。受けた攻撃を弾き、受けた攻撃を何倍にして相手に跳ね返す魔法。通信機能と追跡機能も付いてますね。それとは別に、録画機能を有する魔法具も常備してます」
ここまで言うと、スノア王女殿下とアジル殿下の表情が見る見る間に青くなり、小刻みに震え出した。
(だから、聞かない方がよかったのに。でも、亜人族でもここまで青くなるなんて……カイナル様って、かなり獣性が強いのかな?)
「まぁ……学園に番一人通わすのだから、手を打つのは理解出来ますが……今も録画されてますの?」
(二人が青くなったのは、そこか。今って言ってるけど、入学初日に絡んできた事を心配してるのかも)
「安心して下さい。録画はされてません。スノア王女殿下からは、悪意は感じなかったので」
悪意を感じれば、録画されてたけど。あれは、ただの難癖だったからね。私を排除しようなんてしていなかったし、私が番であることを否定する言葉を口にはしなかった。後でちゃんと謝ってくれたし。
「……ユリシア嬢が保健室に行きたくない気持が分かったよ」
両殿下とも、録画のことは触れなかった。濁した部分の意味を正確に汲み取ってもらえてよかったよ。
「私に触れない方がいいと忠告したのですが……聞き入れてくれませんでした」
一瞬、躊躇はしたんだけどね。そこが、運命の分かれ道だった。
「皆、退学でしょうね」
スノア王女殿下の台詞に、私は軽く首を横に振った。
「退学だけはしないように、カイナル様にお願いしましたので。クラスは変わると思いますが、退学にはならないでしょう」
「えっ!? 敵に情けを掛けましたの!?」
(いや、そんなに驚かなくても)
「このクラスに入るのに、とても努力し頑張ったと思います。その頑張りを、これくらいのことでなかったことにするのは、忍びなかったたけです。罪と罰が釣り合ってませんから」
良いように言ってるけど、自分のエゴだからね。次はないけど。
「……カイナル様も苦労しているな」
「厄介な番を持ちましね、カイナル様」
しみじみと、両殿下が言った。
(何故か、カイナル様に同情票が集まってる。どうして?)