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第7話 胎動

 学校に行くと、昨日の事件に関して、ホームルームでそれらしい説明がなされた。

多感な思春期特有のもので、何かをきっかけに集団心因性疾患に陥り、過呼吸になり倒れたというのが見解だった。

きっかけになった原因は、全員がその当時の記憶があいまいなため調査中であるとのことだ。なお、プライベートな内容に関わってくるため、事実が分かっても公表はしないとこのとだ。

生徒に実質的な健康被害はないということで、学校側は早急に収束を測りたいらしくい。

私は、職員室に呼び出され昨日の事件について改めて話を聞かれた。

「すずと涼香の仲が最近よく無くて・・・・私ただ仲良くするように言っただけです。」と、あたりさわりのないことを話しておいた。

流石にもう、さすがにもう、涼香がすずに手を出すことはないだろう。

「水見さんもあんまり無理しなくていいからね。ほかの生徒に色々聞かれるでしょうけど、話したくないことは無理に話さなくていいから。」

一応、担任や学年主任は、心配したようなことを言っていた。

「体よく言えば穏便に済ませたいんでしょ。」

よっぽど言ってやろうかと思ったが、そんな気力も起こらずスカートを握りしめる手をじっと見つめていた。

「美琴大丈夫。」

奈津が職員室の前で待っていた。

「心配したんだよ。クラスの連中になんか言われても私が守るからね。」

こんな時の奈津は頼りになる。今はあんまり余計なことにかまっている余裕はない。

奈津の話だと昨日の事件は学校中の噂になっているという。

既にほかのクラスの連中が様子を除きに来ていたりしているとのことだ。

クラスに帰る途中で、何人かこっちを見ながらひそひそ話をしているのが見て取れた。

「ほんと暇人、美琴は気にしなくていいからね。」

「なんかごめん、ほんと私大丈夫だからさ。ちょっとすずのことが心配なだけ。

そんなことより、奈津にも迷惑かけたね。」

そう今は、些細なことにかまってはいられない。

すずの事に関しては祖母の言葉を信じるしかない。

何よりも、なぜ水鏡?・・・と思われる中空に浮かぶ水面は出現したのか。

巫女としての美琴の力なのかそれとも、何か別の力が呼んだのか。

あの青い空間とそこを泳ぐ巨大な魚に関しては分からないことだらけだ。

祖母は、今は話す時ではないといってそれっきり何も語ってくれなかった。

「自分の中に流れる力と向き合いなさいってなんだよもぉ。」

ふてくされながら、奈津の後を追う美琴の眼にそれが映ったのはその時だった。

それは突然現れた。

まるで、広大な海中の底から一気に浮上してきたように、忽然と姿を現した。

美琴のうなじは泡だち、全身の毛が逆立つのが分かった。

それと同時にねっとりとした悪寒が全身を包んだ。

巨大なそれは廊下の窓いっぱいの大きさで、その眼はうつろで、そのまま見ていると暗い闇に引きづりこまれそうなたたずまいをしていた。

「奈津・・・」

思わず声を上げて親友を呼び止めると、親友は不思議そうな顔で振り向いた。

「どうした・・・・やっぱ変だよあんた。 今日もう帰る?」

見えていない、それどころか全く感じていない。

あの時は、これが出現する前、青い空間が現れそれにみんな飲み込まれていた。

「青い空間が無いからなの?・・・それにしてもこいつは」

「そう、明らかに昨日見た巨大な魚とは違う個体だ!」

「奈津ごめん」

そういうと美琴はその薄暗い魚を追い始めた。

その魚はまるで美琴を誘うようにゆっくりと泳いでいく。

それでも美琴は走らざるをえない。

「どこに行く気。本気になられたらおえない。」

必死で後を追う美琴をよそに、それは悠々と泳いでいく。

そして渡り廊下に差し掛かろうとするところで、

「君、廊下を走るのはやめなさい。」

一人の教師に呼び止められた。

その瞬間、巨大な魚はすうっとコンクリートの中に消えていった。

美琴の目にはまるでその教師の影に入り込んでいくように見えた。

教師の名前は確か岸部、最近転任してきた美術教師だ。

岸部は、息を切らしている美琴にそれ以上のことは言わなかった。

ただ数秒間、美琴をじっと見つめた。

眼鏡越しに見えるその眼は、美琴を見ているようで見ていないような、薄暗い灰色をしていた。

「君が、水見君か。」

その声はむき出しの心をざらついたもので撫でたような質感を持っていた。

そして、くぐもった笑みを浮かべるときびを返して立ち去っていく。

美琴は思わず何も言うことができずその場に立ち尽くしたままその薄暗い影に縁取りされたような後姿を見送るしかなかった。

美琴が、不思議な教師と対面していたそのころ学校では新たな事件が起きようとしていた。


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