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第15話 夢見

どこまでも青く透明な世界が広がり水の中のように体が浮いている。

「ここはどこだろう。」

少しひんやりした心地よい清涼感・・・・

かすかだが、懐かしい匂いが漂ってくる。

柔らかな春の日差しの中に白梅が咲いているような、そんな柔らかい香りだ。

背後で、しだれ梅が風に揺らいだ気がした。

振り返ると、うっすらと淡い光が差している。

まるで水面の様なその淡い光に向かって美琴は泳ぎだした。

「この体を包むものは・・・・・

今なら何なのかわかる。

この空間は陽の光を受けた水気で満たされている。」


以前は、息苦しいと感じたが、今は不思議と感じなかった。

むしろ、思いのまま自由に水気の中を動くことができる。

呼吸も、空気の中にいるのよりも、すっきりとしていてはるかに楽だ。

水気が全身の血液に直接流れ込み力が湧き出てくる。

美琴は光に向かいのびやかに泳ぎながらその感覚を楽しんだ。

近づくと、その光は水面に円状に広がり鏡のように輝いていた。

やがて光に近づくとそっとその鏡に触れた。

指先から暖かい光が流れ込んでくる。

「暖かい感情、友愛、愛情、仁愛、敬慕・・・・・」

人のあたたかな感情にあふれている。

その流れ込んでくる光は非常に心地良かった。

「このまま、まどろんでいたい。」

そう思った時、鏡を通して向こうの世界より語りかけてくる者がいた。

その声は、非常に柔らかで美しく、旋律を思わせる響きを含んでいた。

そして何より言い知れない懐かしさを漂わせていた。

「美琴、水気の声を聴くのです。

負の感情にも、生の感情にも引きずられることなく有るがままを聞くのです。

そうすれば、その先に大いなる祝福があります。

あなたはそれを水見の巫女として導くのです。」

以前は聞こえなかった声がはっきりと聞こえた——。


「お母さん——。」

思わず美琴はそう叫んでいた。

その瞬間に輝く鏡はすう―と水面にとけるように消えた。

そして美琴の心は水の底へ沈んでいった。

光に向かって必死に手を伸ばしもがくが、あんなにも軽かった水気が重くのしかかってきた。


時計を見ると午前3時をまわったところだった。

ベッドの上で気が付くと汗びっしょりになっていた。

最近見なくなっていた夢を久しぶりに見た。

だが今回は、声の主がだれだかはっきりわかった。

母は、美琴が物心ついた時にはもういなかった。

母だけではない、父もおらず、祖母と祖父が両親代わりに育ってきた。

「知らないはずの母の声・・・・・・・水鏡について何か知らせようとしている。」

美琴は大きな胸騒ぎを感じながら枕を抱え再びベッドに倒れ込んだ。


ちょうどその頃、学校のグランドでは、黒い水鏡が大きな渦を巻いていた。

その渦は夜の闇よりも暗く、全てを飲み込んでしまいそうな黒さをたたえていた。

周りの空気は瘴気を含んだように重く異臭を漂わせていた。

そしてその真ん中ではぬめっとして黒光りする鱗を月光に照らされながら黒い巨大な雷魚が水しぶきを上げながら飛び跳ねていた。

その姿は闇夜に跋扈する悪霊を彷彿とさせた。そしてその様子は何かの到来を喜んでいるかのようだった。


翌朝、美琴は朝ご飯を食べながら、祖母と祖父に思い切って切り出してみた。

「ねえ、お祖母ちゃん・・・・・・お母さんとお父さんってどこに行ったの?」

素直な感情をそのまま口に出した。

「どうして死んだの・・・ではなく、どこに行ったのか——」

素直にそう思ったのだ。

しばらく沈黙が流れた。

思えば、今まで、祖父も祖母も、両親が死んだとは一言も言ったことはなかった。

「何かあるはず。」

今では美琴はそう確信していた。

「・・・・・まあ、ご飯をたべんしゃい。

学校に遅れるけん。」

沈黙の後、茶碗を持った手をテーブルに置きながら祖父がそう切り出した。

「学校から帰ったら、久しぶりに剣の型見てやろうかね・・・・・」

そういうと二人とも、いそいそと朝ご飯を食べ始めた。

「また、お預けか・・・・」

美琴はふてくされながらご飯をかきこんだ。


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