第13話 水鏡
少女の運命は大きく動き出す。
そして語られる水鏡のなぞ
物語は新たな展開へと流れていく
むっとする熱気が広がる浴室の中で、美琴は熱いシャワーを頭から浴びていた。
流しっぱなしにしたままお湯を頭から浴び、湯気で曇った鏡に浮かぶ自分をジーと眺めていた。
今日は、いろいろなことが起きた。
美術室では、水鏡が大量発生していて、学校が、異界の入り口になっている。
そして、体育館で呼び出した水鏡は黄泉の底を思わせるどす黒い色をしていた。
そこから出てきた、巨大な雷魚も漆黒の鱗で覆われていた。
その瞳は、全てを見透かし、飲み込むような沼を思わせた。
美琴はそれらと一人対峙し、水気の力で本来あるべき姿に戻そうとした。
しかし、美琴一人の力では無理があった。
闇に飲まれそうな美琴は、外から投じられた呪符に救われた。
そして、
「もう少しで全てをあるべき姿に戻せる。」
そう思った時、今度は水鏡の中より現れた、闇の化身の様な男に邪魔をされた。
術式は破られ、途中で切れてしまった。
「このままじゃいけない、私の力ではまだ遠く及ばない・・・・。」
そう思った、美琴は心の中で一つの決心をした。
シャワーからは光る水滴が滴り落ちていた。
「お祖母ちゃん、良いかな——。」
美琴は祖母に切り出した。
その後ろ姿はいつになく神々しい。
白衣を着ているからだけではない。
その体全体がどことなく青白く光っているように見える。
その姿は、日常から浮き出た一輪の白ユリを思わせた。
「いいわよ、おいでなさい。
聞きたい事がいっぱいあるでしょう。」
祖母も、美琴からの問いかけを待っていたようだ。
美琴はかしこまって祖母の前に正座した。
そして、大きく息を吸い、呼吸を整えると祖母に一つ一つ疑問をぶつけていった。
「あのね、今日はありがとう。
でもね、聞きたかったの。
なんであそこに来たの。
あの黒い水鏡は何。
そもそも水鏡ってただの入り口じゃないの。
それにあの黒い雷魚・・・・・・・・。」
美琴は頭に浮かんだ疑問を祖母にぶつけた。
珠江は、微笑むと美琴にすり寄り、美琴の震える手をそ優しく包んだ。
そして、美琴に頬に優しく手を添えると、ゆっくりと話し始めた。
「今日は大変だったわね。
どこから話そうかしら。
そうね・・・・・・
先ずは・・。」
そういうと、珠江は、水鏡について語りだした。
「その昔、まだ大地が定まったばかりのころの話よ。現世と黄泉の国が、黄泉平坂でまだつながっていたのよ。
だから、魂の行き来は自由だったの。そして、その支配をイザナミ、イザナギノミコトが行っていたのよ。
イザナミノミコトは黄泉の王として、イザナギノミコトは現世の神として魂の往来を制限管理していたわ。
やがて、神代の時代は過ぎ去り、黄泉平坂は閉じ二つの世界は分かれた。
そう思われたの。
しかし、実際には、突発的に黄泉平坂は開きそこから闇に飲まれる人間が続出ししてしまったの。」
美琴は息をのんだ。
その逆もしかりで、亡者の魂が現世にさまよい出ることもあったというのだ。
「・・・・・・・あの水の中でもだえる感じ、あれが闇に、黄泉の世界に飲まれるという事?」
「そうね、あれは黄泉が口を開いている状態。普通の人間は、魂の光を徐々に吸われていってしまうわね。それだけじゃないわ。」
「もしかして雷魚が亡者なの!」
「それは違うは・・・・・・、
そうね、雷魚は司る存在とでも言っておきましょう。」
珠江はさらに話し続けた。
「困り果てた人々は、とある一族にその魂の管理を任せることにしたわ。
その者たちは、黄泉平坂を通ることができる特別な人間だったのよ。
普通の人間では、黄泉の闇に飲まれてしまい戻ってこられない。
しかし、どういうわけかその者たちは、平気だったわ。
一説には、イザナギが黄泉より戻り、穢れを払おうと行った禊で化成した水の三神の血筋を引いているとか。
あるいは、イザナミノミコトの寵愛を受けて地上に遣わされた一族だとか言われている。
しかし今となっては審議は分からないわ。
重要なのは、そういった人間が存在するということよ。」
美琴はその話を聞いた時、体の内側から血が熱くなるのを感じた。
「そう、気づいた・・・、水見の巫女の一族のことよ。
そして、水見の巫女の一族は、黄泉と現世の入り口を監視する役目を担うようになったの。
そうして、現世に影響を与える黄泉の入り口を水見の巫女達は、鏡に映し管理しようとした。
そう、水鏡はこうやって生まれたの。」
「だから社では鏡の事を水鏡って呼んでたんだ。」
「美琴、水鏡の役割は何だと思う。」
「・・・・黄泉平坂を閉じる事?」
「うーん、少し違うわね。そもそも黄泉平坂はとはなに?」
「・・・・・わかんないよ。」
「よく思い返してごらん、あなたが知っている古い和歌や祝詞に中に答えはあるわよ。しっかり考えて自分で答えを見出すの。
私はその手伝いはできるけど、それを理解するのも巫女の使命なのだから。」
祖母はそういうと、今日はここまでと言わんばかりに、ポンポンと美琴の頭を撫でると出ていった。
そこには淡いゆずの様な心地よい残り香が漂っていた。
結局、ほとんどの事は聞けずじまいだった。
学校に現れたのは、何かしらの方法で見守っていたのだろうか?
それとも何か別のものを感じてかけつけたのか?
今の時点では祖母は話す気はないようだ。
まるで、一連の事件は美琴が一人前の巫女になるために通らないといけない課題とでも言わんばかりだ。
それにしても気になるのはあの黒い影をまとった男の正体だ。
あの視線、底が無く、魅入られるとどこまでも仕込まれてしまいそうな大きな黒い瞳。それだけが影の中で際立っていた。
そして、その存在自体が声にならない異質な音声をまき散らしていた。
それは心に直接響いてきた。
心臓を素手で触られたような不快感が全身を尽きぬけた。
美琴の中では大体の見当はついている。
普段はその全てを影で覆い隠し存在そのものを希薄にしているのだろう。
美琴にはその正体に迫ることと水鏡の役割とには関係があるように思えた。




