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第11話 ひと時の邂逅

少女の思いは一人の少年を救った——。

物語は新たな局面へと動き出す。

成長する少女のそばで怪しい影が蠢く。


教室では、中野と矢作が楽しそうに話をしている。

その様子からは、まるで旧知の仲の様な親しさを感じることができる。

とても、事件をきっかけとして話すようになったとは思えない。

元来、二人とも頑張り屋ということで気が合ったのだ。

それにしても、中野からは、以前の様な自分の殻に閉じこもっているような雰囲気を見ることはできない。

事件を通じて、自分の心と素直に向き合うことができたのだ。

過程での過度な期待。

周りとのすれ違いが彼に必要以上の壁を作らせていたのだろう。

その様子をそれとなく廊下から見ながら美琴はほっと胸をなでおろした。

その肩では幼い雷魚が飛び跳ねている。

雷魚も二人の放つ眩しい青春の光を祝福しているのだろう。

とりあえずは、一軒落着というところだ。

しかしまだ疑問が残る。

中野の記憶の中で見た、中野を嫉妬に駆り立たせた人間の事だ。

いったい誰なのか、言葉巧みに中野に近づき、中野の最も弱いところをついてその嫉妬を助長させた。

その件と、例の藻の様な黒い触手は繋がっているように思う。

いっその事、黒い藻について祖母に聞いてみようかと思った。

しかし、まだ早いと思い留まった。

「もう少し、状況を調べてよう。もし、何かの力が関与したのであれば痕跡が必ずあるはず。」

それと、あの巨大な黒い雷魚だ。

あれがどこからきて、何が目的なのか。

もう少し調べる必要がある。

とはいっても、あれから黒い雷魚も、おかしな水気の働きも見受けられない。

現時点では八方ふさがりといった感じだ。

「まいっか、そのうち何か出てくるっしょ!」

美琴はそう思いその場を後にした。

すずはだいぶ良くなってきている。

祖母の言った通り徐々に回復してきている。

今日は、奈津と連れ立ってすずのお見舞いに来たところだ。

まだボーとするのか、すずの話し方はだいぶ間延びしている。

「ありがとー二人とも、そういえば学校はどう。」

奈津と美琴は顔を見合わせるた。

2人とも暗黙の了解で、体育館の件は黙っておくことにした。

いずれ分かるだろうが今は余計な気を使わせたくない。

すずは何が起きたかよくわかっていなかった。

万が一にも、自分が引き金になって何かが起きたとは思わせてはならない。

「そういえば、新しい美術教師いるじゃん、なんか一部の生徒の間で人気らしいよ。」

「へー、そーなの・・。 どんな感じなの。」

すずが詳しく知りたそうに聞いてきた。

「あの美術教師の事か・・・・」

美琴も適当に相槌を打ちながら奈津の言葉に耳を傾けた。

何となく気になる、それとない風を装いながら奈津の話を注意深く聞いた。

何でも、ほかの先生と違って話が分かるとのことで、担任でもないのに一部の生徒達が、悩み相談に押しかけているとのことだ。

そのせいもあってか、万年人手不足だった美術部に入部希望者が殺到しているとのことだ。

学校の方でも教育熱心な先生ということで、校長以下お偉い方々のおぼえがいいらしい。

普通に聞けば、いい先生なのだが美琴には妙に引っかかった。

転任してきてこの短時間でそんなに信頼を得るなんて。

巨大な雷魚との遭遇の現場にいたことといい、美琴の中で何かが警鐘を鳴らしていた。

「少し調べてみるか。」

美琴はそう思うと、奈津とすずのたわいもない話を聞きながら、肩の上に浮かんでいる幼い雷魚をそっとなでた。

幼い雷魚は嬉しそうに飛び跳ねると、すずと奈津の頭上を跳ねまわった。


 学校では今のところ平穏な日々が続いていた。

校内の水気を探っても新しい変化はなかった。

また、あの巨大な雷魚の影も感じることはできかかった。

「雷魚がたまたま通りすがっただけだったのではないか。」

そんな疑問も頭をよぎったが、あの黒いうつろな目が何かを訴えているようで頭から離れなかった。

気になるといえば、相変わらず新任の美術教師の事も頭から離れなかった。

探りを入れるにしてもどうしたものか。

悩んだ挙句、入部希望ということで、美術部から探りを入れてみることにした。

既に3年だが、とりあえず絵をかいてみたいということで押し通そうと思う。

一人では心もとなかったので、奈津を無理やり誘ってある。

「ごめん、待った。」

「全然、美琴こそほんとに急にどうしたの。」

他愛もない話をしながら美術室にむかう、念のため水気を探っているが今のところ何の変化もない。

美術室の前まで来るとドアをノックしてみた。

人の気配は漂っているが、外からでも、中が静まり返っているのが見て取れた。

「失礼します、見学の水見と速水です。」

事前に、美術部の部長には話を通してある。

最近、入部希望者が多いとのことで、別段怪しまれることはなかった。

ゆっくりドアを開け、美術室内に体を滑り込ませる。

その間も異常は見て取れなかった。

美術室には12~3人ほどの部員たちがいた。

思い思いに、絵や粘土で彫像を作ったりしている。

直ぐに、部長の牧瀬さんがあいさつに来た。

「どうぞ自由に見ていってください。基本的には銘々、好きな創作活動をすることになっています。」

部長にお礼を言うと、生徒たちの周りをまわりながら創作する様子を観察することにした。どうも、顧問はまだらしい。

ちょうど都合がよい。

作品を見るふりをしながら、一人ひとり観察していく。

美琴はポケットの中で印を結ぶと、ゆっくりと声にならない声で祝詞を唱えはじめた。

注意深く、ゆっくりと生徒の間を回りながら何も見落としが無いか探っていく。

ほんのわずかな水気の乱れも逃さないつもりだ。

その時だった、一人の生徒が書いていた絵から、美琴になついていた雷魚が飛び出してきた。

「どうしたの・・あんた!」心の中上げた声を外に漏らしそうになる。

一瞬大きく息を吸うと何とかこらえた。

雷魚は嬉しそうに美琴の周りをまわっている。

今日は途中から姿を見ないと思っていたが、急にどうしたのだろう。

しかも、なぜ絵から・・・・・。

はっとして、美琴は絵に向き直った。

「何で気付かなかったのだろう。」

何と絵には小さな水鏡が発生していたのだ。

もしやと思って周りを見渡すと、ほかの生徒達の作品にも小さな水鏡が出来ているものがある。

幼い雷魚は嬉しそうに、その小さな水鏡を出たり入ったりしながら作品の間を飛び回っている。

まだどれも小さく、しかもまだ何の感情にも染まっていない。

作品には思いがこもりやすいものだ。しかしだからと言って簡単に水鏡ができるものではない、

にしても異様だった。

これだけのものに気が付かなかったのか?

そこで、美琴はふと病院の事を思い出した。

「巨大な白い棟、日々様々な感情が放たれ吸収することで檻の様な役目を果たしていた。

ひょっとして美術室も、日ごろから作品というものを作り、それをいれておく場所としてもともと作られたのであれば——。

結界の様な役目を果たしてもおかしくない。

盲点だった。

既に、美術室は、呪物をいれた祭壇の様なものになっている。」

だが、単純に作品を作っただけで水鏡はできない。

その時、中野の夢の情景が思い浮かんできた。

中野の心の最も弱いところをくすぐる甘い言葉——。

それにより中野は水鏡に捕らわれていく。

全てが繋がろうとしていた。

確信を得るためにはこの根本の主とあわなければならない。

そう決心した。

「でもどう切り出す・・・・・

そうだ雷魚だ、あの巨大な黒い雷魚、あれを呼び出すことができれば——。」

美琴の中で閃いたことがあった。

美琴はそのひらめきを実行に移すため、美術室を後にすることにした。

その時、教壇に飾ってあるひと際大きな絵の中心で、暗い水の底を思わせる巨大な瞳がこちらを見つめていた。」


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