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第10話 奔走

少女は自分の力に苦しみ向き合うことで、新たな力を手にする。

新たな思いを胸に、救いの手を差し伸べる。

傷ついた少年を救うことはできるのか———。

蠢く存在へ向け物語は動き出す。

祖母から言われた、自分の中に流れる力と向き合うという意味が少しわかった気がした。そして水見の巫女としてやるべきことが見えた気がした。

あれから体育館に行ってみたが、もうよどんだ気は一切感じなかった。

倒れた生徒たちも徐々に学校に戻り始めている。

学校は保護者などへの対応に追われているが、平静を取り戻しつつあるように見えた。

ただし、倒れたクラスと同じクラスの子から話を聞く限り、鍵となった少年である

中野という生徒の意識は戻っていないらしい。

美琴には引っかかることがあった、水見の儀式の中で見た、中野という少年に絡まる水草の様な黒い触手だ。

「あれは明らかに幽世のものだ。」

今でも思い出す、あのねっとりとしたまとわりつくような感覚。

あれは中野から生えていたものではない。

もっと奥深いところから伸びてきて中野を取り込もうとしていたようにみえた。

それにあの濁った水鏡。

中空に浮かぶのではなく、地底から湧き出たように体育館中に広がっていた。

とても、中野の心だけが依り代となって出来上がったようには思えなかった。

そもそも水鏡が何なのか、美琴にはまだつかめていなかった。

「どうしよう。おばあちゃんに聞いてみようかな・・・。」

その考えを美琴は首を振って追い払った。

「お祖母ちゃんは私がどこまでできるか見ている。まだ私にはできる事があるはず。」

そう思うと美琴は放課後、中野が入院している病院を訪ねてみることにした。


 中野が入院している病院は市内の中心からそう遠くないところにあった。

バスを降りると白い大きな壁がそそり立っていた。

美琴には、それは何かを閉じ込める壁のように見えて仕方がなかった。

病院の中に入ると様々な気であふれかえっていた。

あながち先ほどの感覚は間違いではなかったのかもしれない。

様々な病を抱えた患者たちが暮らす巨大病棟は、それだけで大きな結界といっても過言無いのだろう。

この様々な感情が入り混じった中では、中野にまとわりついた黒い触手の痕跡を追うのは非常に困難だった。そこで、見舞いの同級生として、病棟の病室を訪ねてみることにした。

「すいません、先日学校の体育館で倒れた中野君のお見舞いに来たのですが。」

「ああ、中野君ね。クラスメイト」

明るい、小太りな看護士が対応してくれた。

学校での騒ぎはちょっとした事件になっており、少し訪ねただけで直ぐ分かり教えてくれた。

「あなたもあんまり気落ちしちゃだめよ。」

看護士はそういうと、手短に病室の番号と現在の中野の容態を手短に教えてくれた。

中野は、大きな病棟のB棟の5階の一室に寝かされていた。

中野の両親は医者らしく、一人で入院するには大きな個室だった。

看護士の話では、すず同様に身体的な問題はないとのことだ。

異なるのは、中野は全く目を覚まさないとのことだ。

病室のドアに触れるとひんやりとした感覚が指先から伝わってくる。

ドア越しに、ねっとりとした冷たい何かが向こう側にいるのが伝わってきた。

その不快感に、美琴は悪寒を覚えた。

「ここで引くことはできない。」

美琴は、左手で印を切りながらゆっくりとドアを押し広げた。


病室の中は薄暗い光に照らされていた、それが人工の光でないことは直ぐにわかった。

その光からは生気を全く感じなかった。そして中野の体から藻のように生えた触手はまるで水中のようにベットを中心に病室中に広がっていた。

「くっ・・・」

思わず、美琴は顔をそむけてしまった。

鼻を突くような激しいにおいがそこには漂っていた。

美琴は動揺する事が無いようにゆっくり大きく息を吸うと、祝詞を唱え始めた。

イザナミノミコトにかしこみかしこみもうす。・・・・・・・」

祝詞をゆっくりとしっかり唱えながら、藻の触手と正面から対峙ずる。

「やはりそうだ、これの根は別のところからきている。」

美琴は祝詞を更に唱えていった。

それに合わせて美琴の体には青白い帯状の印が浮かび上がってくる。

その因が浮き出た手を払うように大きく左右に動かしていく。

その動きに合わせて光の帯が両腕から放たれ、黒い藻を中野の体からはぎ取っていく。

そうしてあらかたはぎ取ると、美琴を包んでいた青白い光が今度は水のように空間を満たしていく。

空間が満たされたいくにしたがって、眠る中野の記憶が美琴の中に染み出してくるのが分かった。

はじめは、決定的なこの前の事件の瞬間の映像だ。

中野は自暴自棄になっていた、自分の存在意義が揺らぎ、孤独な中で支えを失っていた。その時発せられた心無い、声が中野を貫いた。それだけではない。中野の耳には別の声が聞こえていた。

「お前を苦しめるのは誰だ。

お前を締め付けるのは誰だ。

お前は一人だ。

嫌ならなら全てを塗りかえろ。」

そういう声が中野の頭の中では繰り返し流れていた。

場面は切り替わる。

小テストで満点をとれなかった時。

はじめはそんなに悔しくはなかった。

「たまにはあるさ。そう思いながら、隣で皆に称賛を受ける少年がまぶしかった。」

楽しそうに勉強をする少年が羨ましかった

「ねえ、君どんな勉強してるの。」

何度話しかけようと思ったことか。

純粋に友達になりたかった。

「医学部に通らないと駄目だ。」

医者の両親は、中野に常にそう言ってきた。

勉強はできて当然。

目指すはその先にある大学受験。

物心つくとそう言われて育ってきた。

「あなたは他の子供たちと違うのよ。」

近所の子供たちともあまり遊べず、塾に通う日々。

本当は羨ましかった、でも自分に言い聞かせた。

「僕はほかの子とは違うんだ。」

だから、楽しそうに仲間と笑う彼が羨ましく眩しかった。

「その輪に入れて欲しい。」

どんなにそう思ったことか。

それを、プライドという枷で覆って自分をごまかしてた。

テストで差を付けられるたび、

「自分は違うからいいんだ・・・」

と自分に言い聞かせていた。

そんな日々画像続いたある日、あの人がささやいた。

「君は悪くない。君の色は君のものだ。それを大切にすればいい。

それを壊そうとするやつがいるなら、君の色で塗りつぶせばいいんだよ。

そうすれば、世界は君の自由になる。

誰だってそういう権利を持ってるんだ。

恵まれたやつに気兼ねする必要はない。」

「そうだ、その通りだ、僕は間違っていない。今まで通りで良いんだ。」

「そんなの間違ってる。」

美琴は、その夢の中で思わず声を上げてしまった。

「あなたは本当はそんなことを望んではいない。

みんなと楽しく勉強して、医者になることだってその先にあることじゃない。

何も皆を塗りかえなくてもその手を取ればいいだけ。

勇気を出して。

塗り上げられた世界で待ってる人なんて誰もいなよ。」

その声に、捕らわれたままの中野が反応する。

まだ目を開けることができない。

けれど必死にあがこうとする。

「本当は・・・・、僕は・・・・」

「そう、どうしたいの。」

「頑張れ、見てるから」

「・・・・・・・皆と一緒にいたい。」

その時、夢の中が輝きその眩しい光に美琴ははじき出された。

ゆっくり目を開けるとそこは病室だった。

窓からは柔らかな風が漂い、柔らかな日差しが降り注いでいた。

木漏れ日が注ぐベットでは、中野が安らかな寝息を立てて横になっていた。

その眼もとにはうっすらと涙がにじんでいた。

その寝顔には穏やかな安ど感が漂っていた。

その時、窓に波紋の様な波が立ったと思うと、そこから一匹の雷魚が跳ね出てきた。

先日生まれた小さな雷魚だ。

雷魚は嬉しそうに中野の周りをまわると、まるで頬付けをするように中野に触れた。

その瞬間、小さな温かな光の雷光が散り中野を押し包んだ。

美琴はその様子を、母親のような優しいまなざしで見守っていた。

「もう大丈夫。」

美琴はそうつぶやくと、静かに病室を後にした。

その後ろでは、幼い雷魚が飛び跳ねていた。


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