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第二話

 次に目を覚ました時、辺りは暗黒に満ちていた。

 なぜか目の前に天蓋ベッドがあり、薄いカーテンに囲まれ中は直接見えなかった。

 しかし中に光源があるのか、ベッドの上に座り込んでいるような人影が薄いベールに映し出されている。

 いったい何なんだ、ここは。境界のない暗闇が周囲を覆っていて、なんで自分が立てていて、なんの上に立っているかすら分からない。

 さっきまで恐怖で心臓バックバクの足ガックガクだったのだが、くるとこまで来ちまった感が一周回って俺を冷静にさせていた。

 もう多分俺生きて帰れないと思うし、もしかしたらもう死んでいると思うので、できるだけ楽しんだ方が得なのかもという気さえしてくる。

 さて……これからどうしたものか。

 周りをきょろきょろと見渡していると、目の前のカーテンの影が動いた。


 『あつめて』


 男とも女ともとれない中性的な声が聞こえた。

 いや、聞こえたというより頭の中に直接響いた、の方が正しい表現かもしれない。

 あつめて、そう言ったよな、コイツ。

 いったい何を――


 『わたしの……からだ』


 おいおいおい、鳥肌のバーゲンセールかよ、怖すぎだろおい。間違いない、怨霊の類だ。バラバラ殺人の被害者の霊ですコレ。

 とりあえず深呼吸しよう。

 俺は肺を空気で満たし、吐き出す。

 できるだけクリアな頭で考えよう。コイツは俺に要望を言った、体を集めろって。ってことは、今のところは俺をどうこうする気はないのかもしれない。

 これから殺す相手にわざわざ用事を頼む、なんてこと普通はしないしな。

 まぁこの状況が普通じゃないから、これから起こることも普通じゃない、なんて言われたらなんも言い返せんが。

 てか集めてほしいと言ってはいるが、影ができてるってことは体あるよな。

 しかし無くしたのは1パーツだけで分かりづらいところだったら影だけでは分からんしな。

 いやそもそも霊体で……そうなると影はできないと思うが。

 ふむ……こういう時は本人に聞くのが一番なんだよな!

 俺は無害を主張するため、一応両手を上げることにした。


 「あのー……俺に集めてほしいんですか? あなたの体」


 質問に返事はない。聞き返すのは悪手だったか?

 人影は全く動く様子がない。


 「ぜ、是非とも協力させていただきたいのですけどもぉ……すぅ……そのためにも一旦さっきの場所に戻していただきたくてぇ」


 あーこれ絶対悪手じゃん、俺蟻ンコじゃん。けどもう口止まらないよ。

 反応してくれないと、余計に言葉重ねちゃうわ。

 覚悟の決まっていたはずの顔は引きつり、冷や汗があふれ始める。


 「……準備とかしなきゃなんでぇ。あのぉー聞いてますか」


 どうするかな……。これもう積んでるか?

 反応もなければ、帰してくれるわけでもなし。

 周り見ても扉なんてないし真っ暗だし。

 ……いっそのこと前へ進むか。

 このままじゃ埒が明かない。俺は待たせるのは好きだが、待たされるのは死ぬほど嫌いなんだよなぁ。

 鬼がでるか蛇が出るか。というかこの状況、鬼も蛇も出きってるだろ。

 ならもう一歩踏み込んでも変わんないよな。

 俺はすり足でじりじりと、あの王族の使ってそうなベッドへ向かい始めた。

 今にも何か飛び出してきそうで、俺はへっぴり腰になっていて足が先行する奇妙な歩き方になっている。

 しかしビビりまくった割にはあっさりとカーテンの前まで来ることができた。

 あと少し、ほんの少し手を伸ばせば、カーテンに手が届く。

 中の人影に動く気配はなく、近づいて気が付いたのだが少しうなだれブツブツとな何かを呟いている。

 俺は熱い物を無理やり持とうとしているときみたいに、伸ばしては触れる直前で勢いよく縮め、また伸ばしてはを繰り返し、ようやく触れた――その時。


 『「動くな!」』


 いきなり人影のこちらを向き、そう大声をあげた。

 頭の中に声が放たれたの同時に、()()()()()()()()()()()()()

 頭の中の声よりも幼い別の奴の声。

 二つ重なった音。一つは頭蓋の内で跳ね回るように反響し、一つは耳鳴りをかき鳴らしている。

 そしてそれを受けた俺の体は、その言葉通りピクリとも動かなくなった。

 指一本どころか、瞼さえ閉じることができず、乾いた瞳を潤す涙も出ない。

 息を吸おうにも、膨らむ肺がなかった。あれほどうるさかった鼓動もなりを潜め、俺の体に静寂が訪れた。

 肺には重苦が満ち、止まった血流の代わりに、気の狂いそうなほどの苦痛が血管に満ちる。

 次第に、長時間正座した後みたいな痺れが全身を襲い始めた。

 俺は死ぬ。直感的に理解した。

 怖い。

 本当だったら死に怯え、苦しさにそこら中のたうち回って叫びまわっていただろう。

 しかし今は、この恐怖と痛みに目を閉じることさえ許されていなかった。

 影はまた俯くと、


 『「目を閉じろ」』


 と言った。

 終劇を伝えるかのように、上から瞼が下りてくる。

 やがて二度目の暗転を迎える。


 『あつめて』


 最後にまた、声が聞こえた。



 ――――――――――――――――――――――


 

 俺はハッと目を開けた。

 やっちまった、という後悔にさいなまれると同時に、苦しさから解放されたという安堵と、いったい自分はどうなってしまったのかという疑問がいっぺんに湧き出す。

 体はいつの間にか倒れており、天を仰いでいた。

 現世の夜空とも先程までいた暗黒空間とも違う、平凡な白い天井が目の前にある。

 背中の柔らかな感触的に、ベッドに寝かせられているようだ。

 広さ的にどこかの一室。病院か? のわりにきついアルコール臭はない。

 眼球をきょろきょろと回し、辺りをうかがう。

 真っ先に目に入るのが、俺の四方を囲う木製の柵。

 といってもそこまで高いものではなく、三十か四十センチほど。

 閉じ込めるための物という印象はなく、あくまでベッドからの転落防止のためだろう。

 ……先程のアレは何だったのだろうか。

 まぁ、幻覚か夢が一番妥当な所だろう。

 最近夜更かしばかりしていたから、疲れがたまって倒れた。そしてそれを見つけた誰かが家に連れ帰って介抱してくれたとか?

 いや、家に連れて帰るってのはないか。救急車呼ぶよな、普通。

 ま、とりあえずできる範囲で散策でもするかな。

 俺は腹に力を入れ上体を持ち上げようとする――が持ち上がらない。

 それどころか首一つまともに持ち上げられなかった。

 いったいどーなってやがる。

 俺は視線だけを足元へ向けた。

 目に映ったのは、だらしないお腹とムチムチとした赤ちゃんの小さな足。

 アレ?これ俺の体だよな。足動かそうとしたら、この足が動くし。

 俺は顔の前に両手を持ってくる。

 まごうことなき可愛らしい赤ん坊の手。未発達な左手に、中指から親指にかけて大きく欠損した右手……。

 右手!?

 

 冴島翔太 17歳。転生先は右手の半分欠けた赤ん坊でした。

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