なりたいもの作文
「大きくなったらなりたいものを書いてください」
小学校の授業で、作文の課題を出された。
一年生だから、アイドルとかサッカー選手とかパイロットとか、思い思いの夢を書いていく。
特に決まっていない子は、エンピツをくわえたままウンウンうなっている。
初斗は“かがみ はつと”と名前を書いたあと、こころのおいしゃさん、と書いた。
横からのぞき込んでいた先生は驚く。
精神科医という職業をピンポイントに書いた児童は、これまで受け持ってきた子の中でも初めてだった。
「どうして心のお医者さんなの? 他にも外科、とか内科、とかお医者さんはいっぱいいるのに」
先生が聞くと、初斗は聞き返した。
「なぜきくの? 他の子には『スポーツはテニスも野球もあるのにサッカー選手がいいのはどうして?』とは聞かなかったでしょう」
変なスイッチ入れちゃったなと、先生は内心で臍を噛んだ。
はっきり言って、嘉神初斗はこれまで受け持った中で一番めんどくさい子なのだ。
「くだらねーこと聞かないで、だまって書いてろボケ」
質問を更に重ねようとした初斗の後ろ頭を、隣の席の男の子が叩いた。
初斗と同じ顔、同じ声の男の子……双子の兄、平也だ。
のほほんとした性格の弟と正反対で、気性が荒くてガラが悪い。
初斗と同じく、扱いづらい子だ。
兄に叩かれた初斗は後ろ頭をさすりながら、しぶしぶ作文の続きを書く。
「平也くんは何になりたいの?」
「なにも」
双子だからといって、同じ時期に夢が決まっているとは限らない。
淡々と返された言葉に、先生は苦笑いで他の子の様子を見に行った。
これより何年も後、初斗が本当に精神科医になる夢を叶え、平也が外科医になるとは想像していなかった。




