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1死後の世界と、祝福

「おお、ロザリア。死んでしまうとは情けない!」

 ロザリアが目を開いた先。そこは目がくらむような一面真っ白な世界だった。きょろきょろと見回すロザリアの耳に、突如どこか演技めいた声が飛び込んできた。

「いきなり何よ!?」

 ロザリアは吠えた。

 声のしたほうに顔を向ければ、そこにはまばゆい輝きがあって。

「目、目があああああ!?」

「ああごめん。後光の調節に失敗していたよ」

 閃光に目をつぶされたロザリアは地面を転がった。

 しばらくして涙目ながらも立ち上がろうとしたロザリアは、視界に入った自分の腕が透けていることに気づいてまたしても悲鳴を上げた。

「ちょ、ちょっと、どうなっているのよ!?」

「あれ、覚えていないかな?君は死んでしまったんだよ。ロザリア・ヴァンプスちゃん?」

「高貴なわたしをちゃん付けで呼ばないで頂戴!」

 すん、と一度感情が抜け落ちたロザリアは、それから噛みつくように声を張り上げた。その先には、後光の差した白絹の衣に身をまとう美しい少年。彼が浮いていることも、その背中に一対の純白の翼があることも、ロザリアが気に留めることはなかった。

 少年が笑みをたたえたまま首をかしげる。

「……そこなの?」

「そこなのよ。いい?わたくしはすべての男から傅かれるべき、生まれながらの女王なのよ」

「君ってただの侯爵令嬢だったよね」

「……わたくしは愛されるべき存在なのよ。そうよ、わたくしは、なのに、あいつがッ」

 ウガーッ、と咆哮を上げるロザリアの長い赤色の髪が揺れる。ころころと表情を変えるロザリアを見ながら、少年はやっぱり楽しそうに笑みを浮かべていた。

「って、あれ?わたくし、刺されたはずじゃなかったかしら」

 ペタペタと胸元に触れる。衣服は、死の間際に身に着けていた学園の制服だった。えロザリアはもともと学園なんて面倒臭くてほとんど通っていなかった。その最期が趣味ではない服を身につけてのことであったために、ますますロザリアの怒りは大きくなった。

 ロザリアは死んだはずで、けれど今、体が透けてはいるものの、確かに一人の人間としてここにいた。

 傷がないことを確かめながら、ロザリアは般若のごとき形相で脳裏に浮かぶ一人の男に向かって叫んだ。

「……あんのクソ王子が!」

「うんうん、クソだよね。あんな女狐にいいようにされるなんてね」

「女狐!いい呼び名だわ。あの女に巫女なんて呼び方は似合わないとずっと思っていたのよ!男どもを取り巻きにするあんな奴のどこが神聖な巫女なのよ」

「それ、君が言うの?あの子を取り巻いていた令息たちって、もともとみぃんな君の取り巻きだったよね?」

「わたしは傅かれるべき人間だからいいのよ!」

 息を荒らげて断言したロザリアは、ふと周囲が気になって視線をさまよわせる。視界に移るのは先の見えない、そもそも先があるのかもわからない、真っ白な空間だった。すべてを拒むような異質なそこにいるのは、ロザリアと少年だけ。そこでようやくロザリアは目の前の少年を観察して――鼻で笑った。

「ちょっと?」

「ぶ、はは、ははは!あの巫女を送ったのがこんなちんちくりんだったなんて!」

「いや、僕は彼女を世界に送っていないよ」

 神であろう少年が、不適されたように告げる。その顔に、ロザリアは少しだけ溜飲が下がった。

 パチン、と少年が手を鳴らすとともに、目に見えず、物理法則も適用されない衝撃波が広がり、ロザリアの心を占めていた暗い感情を吹き飛ばした。

「……何よ今の?もしかして魔法?」

「僕は神だよ?魔法なんてなくてもこれくらいできて当然だよ」

 神を自称する少年を、ロザリアは目を凝らして観察する。後光と、翼、ため息すらこぼれる美しい容姿に、黄金のような金髪と瞳。

「……確かに神々しいわね」

「でしょう?自慢なんだ。でも最近悩みがあってね。君が死んでしまう原因になった巫女ちゃんなんだけど。彼女、本来はこの世界にいるはずがなかったんだよね」

 ロザリアが生きていた世界には、異界から人々を導く巫女が神に遣わされて現れるという伝説があった。そしてある日、その伝説になぞらえるように、世界には巫女が現れた。黒目黒髪という珍しい色合いをした、肌の黄色っぽい彼女は、ロザリアから見て特に美しくもない少女だった。ただ、なぜかロザリアを取り巻いていた令息たちは、皆がロザリアから遠ざかって巫女へと近づいて行った。

「……どういうことよ?あなたがミスしたんじゃなくて?」

「まさか。僕は完全無欠の神だよ。僕のミスではなくて、世界を混乱に陥れた馬鹿が別にいるんだよ」

 ふぅん、と気のない返事をしたロザリアは、目を瞬かせながら少年神の言葉の続きを待った。

「そんなわけで、僕もちょっと反撃に出ることにしたんだ。……ねぇ、ロザリア。復讐したくはないかい?」

「初対面なのにロザリアって呼び捨てされるのは好きじゃないけれど……まあいいわ。復讐ね。望むところよ」

 ロザリアは、目の前までやってきた少年神が差し出した手を、深く考えることもなく握った。

「あ。もちろんわたくしは、わたくしのままなのよね?」

「そうだよ。君はロザリア・ヴァンプスとして、人生の途中からやり直すんだ。誰も知らない未来を知ったうえで、思うように世界を動かすんだ。ソクゾクするでしょ?」

「最っ高じゃない!それじゃあさっさとわたくしを生き返らせなさい!」

「いいね。いいよ!それじゃあ、ロザリア。君には僕が新たな命題を与えよう。今日から君の命題は【真実】だ。さぁ、思う存分に二度目の人生をやり直してくればいいよ!」

 その瞬間、ロザリアの視界は純白の光に染まった。

「ああ、最後に一つ、君に贈り物をしておくよ」

 光の中、ロザリアは頬に触れた唇の感触を覚えて、目を吊り上げて怒りを露わにしながら意識を失った。


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