第六章 暗黒舞踊の序章
前回のあらすじ:そんなもの、気にしたら負けだよ。
気怠さはあったが、今日は学校に行くことができた。舞に、会いたかった。理由はもちろん、あの夢だ。あんな夢を見てしまったので、不安になってしまった。
着替えをすませ、お母さんにおはよう、と挨拶をし、朝ご飯を食べる。あんな夢を見た後でも、ご飯はやはりご飯の味がする。昔誰かが、食べる時、その時の状況によって感じる味が変わると言っていたが、本当にそうなのだろうか。ご飯はいつ食べてもご飯の味だし、かぼちゃや魚も、いつ食べてもかぼちゃの味がするし魚の味がする。そりゃ、時間が経ったら味が変わることはあるけど。まぁ、そんなこと今はどうでも良い。
いつも通り学校に通う。教室に入り、自分の机に座る。舞は、いない。
「皆さんおはようございます。そろそろ夏休みが始まりますが、この夏休みは受験生にとっては最後の頑張りどころです。夏休み頑張るか頑張らないかで、この先の人生が決まりますよ。」
ぼうっと考え事をしていると、担任の先生がそんなことを話し出した。そんな程度の分岐で人生が決まってたまるか、と心の声でツッコミを入れる。
「夏休みが明けたら、体育祭や文化祭があります。それらを楽しもうと思うなら、頑張りましょうね。」
そうして、先生はありきたりな言葉を言い終えた。
夏休み。
去年は、咲と一緒に色んなところに遊びに行った。宿題やりに図書館に行ったり、中学校の近くのショッピングモールに行ったり、咲の家に行ったり。逆に咲が遊びに来たこともあった。咲の家族同伴で、隣の県の大きな総合スーパーに行ったこともあったかな。
去年の夏休みは、思い出だらけだった。
今年は一体。
「どうなるんだろうな。」
僕がそんなことを考えているうちに、一時間目の授業は始まっていた。
一時間目から四時間目までの時間は一瞬で過ぎ去っていった。思い出に浸っていると、すぐに時間が過ぎていくらしい。一瞬に感じた想い出は、思い出すときも一瞬に感じられるのだろう。
弁当を手に持ち、屋上へと駆け上がる。目的はただ一つ、舞に会うこと。話すこと。笑い合うこと。まだ見かけてはないが、きっと舞は来ている。この屋上の扉の先に、舞がいる気がする。
意気揚々と扉を開けた先に待っていたのは。
「こんにちは、綾さん。」
青空の下の、彼女の笑顔だった。
「あら驚いた。貴方も悪夢見るのねぇ。」
「え、驚くとこそっちなの?」
弁当を食べながら、僕は今日見た夢のことを話していた。咲が出てきたこととか、舞が死ぬことに驚かれるかと思って話していたので、その反応に逆に驚かされた。
「だって貴方悪夢とか全然見なさそうなんだもの。」
「それはどういう意味なんだ…?」
「ふふ、さぁどういう意味なんでしょうね~。」
舞は、朗らかな笑顔を浮かべながら、まるで踊るようにそう話した。
「それはそうと、舞も悪夢見たりするのか?」
その一瞬だけ、彼女の舞が止まった。
「見たりする…というより、悪夢しか見ないわね。私は。」
「…え?」
「でも、貴方が私見たみたいな悪夢は見てなさそうだから安心したわ。」
「…一体、どんな夢を見てるの?」
「さぁ、どんな夢かしらね~。」
そうして舞はまた、踊るように話すのだった。
数十分が経ち、昼休み終了のチャイムが鳴ったので、僕は教室へ向かうことにした。舞もどこかへ向かったようだが、それがどこかは分からない。
「もしかしたら、前に見た教室かな。」
あの部屋は、ここ数年使われていない特別教室だ。昔は何かの授業で使っていたらしいが、それが何の授業なのかは分からない。実は、この学校にはそういう教室がいくつもある。今は別の用途で使っている教室や、名前だけが残っている教室もあるし、名前も前の用途も分からず、今もなお放置されている教室もある。
「でも、そんな教室で一体何をやってるんだ…?」
一度疑問に思うと、解決するまで頭から離れなくなってしまう。おかげで、僕だけ午後の授業が空き教室での舞の行動の推測になってしまったのだった。
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