第四章 家族
前回のあらすじ:第一章から第三章までを読んだら大体分かります。
塾の自習室で適当に時間を潰し、近くのスーパーに寄って家に帰る。
「今は丁度十九時半だから、今から帰ったら丁度ご飯で、風呂で…よし、なら良い感じだな。」
時計を確認し、ご飯の準備が始まる丁度の時間に帰れるように移動を始めた。
想定した時間に家に帰ることができた。ただいま、お帰りといった挨拶をお母さんとする。だが、妹の鑿命とお父さんは何も言わない。
「…またか。」
僕もそうなのだが、鑿命は基本スマホをずっと使っている。ご飯の用意も、風呂の掃除も、他の事も何もせず。学校からの連絡がスマホに来るので、それを確認している時もあるのだが、遊んでいることが多い。
そこに、お父さんの怒号が飛ぶ。そうすると、たちまちこの家の空気は悪くなる。お父さんは、相手の事情も考えず、そして聞きもせずひたすらに責め続ける。それに投げつける言葉一つ一つも乱暴なので、怒られている側も反省しようという気になれない。鑿命が反抗期なのもあって、この最悪な空気は次の日まで続く。
僕は、この空気が大嫌いだ。普段周りの空気が分からない分、この重圧には耐えきれないのだ。この中でご飯を食べないといけない、そもそもこの中にいないといけないということが僕にとって相当なストレスなのだ。独り言も、なんとか抑えながら早々と夕食を食べ終え、二階にある自分の部屋に閉じこもる。
部屋に入った瞬間、静寂に包まれる。この瞬間が、とても好きだ。ドアの閉まる音、続いて聞こえる一瞬のキーンという音。
「やっぱりこの空間は落ち着くな。」
独り言も遠慮なく言える。
この部屋は、僕にとって唯一安心できる場所なのだ。
パソコンを開き、曲を創り始める。その後ゲームをし、動画を見て、とにかくやりたいことをする。今は一応受験生だが、僕は勉強はできる方ではあるし、塾で勉強をして家ではのんびり休憩すると決めているので、今は自由時間だ。
「ただ、どうにかならんもんかんかな…。」
パソコンのキーボードを打ちながら、ふとそんな言葉を呟く。別に家族が嫌いなわけではない。鑿命のお母さんも大好きだし、お父さんに関しては信用こそしていないものの、嫌いというわけではない。それに、僕が今生きているのは両親のおかげなのだ。だけど、今のままでは家にいる時ですら安心できない。この部屋だって、いつまで安心できる場所のままかは分からない。親が部屋に来たら僕の平和は少し崩れるし、部屋のレイアウトを変えたりなんてしたら、それに慣れるまでは安心していられない。今の家庭環境は近いうちに改善しなければならない。家庭が崩壊なんてしたら、なんて考えると恐ろしい。でも、どうすれば良いのか皆目見当がつかない。
「そもそも、僕だけが行動したところで変わるもんなのかな。」
鑿命もお父さんも、基本的に誰の言うことも聞かないし、周りは周りで好きにやってろっていう感じのタイプなのだ。仮に話し合いの場を設けても無駄になるだけだろう。
「一つだけ可能性があるとしたら、やっぱりお母さんか。でも…」
でも、もしそれでお母さんが傷付くことがあったら、嫌だな。
僕も含め、みんなお母さんのことが好きだから、あのお父さんでさえお母さんの話だけは聞く。だけど、それでもたまに反発するときがある。そんな時、お母さんが凄く悲しそうな顔をするのを、僕は見たことがある。でも、これじゃ八方塞がりだ。本当に、どうすれば良いのだろう。
「駄目だ。眠くてちゃんと考えられねぇ。」
今日はもう寝よう。明日も学校だ。
そうしてパソコンを閉じて部屋の電気を消し、ベッドに横になるのだった。
携帯の目覚ましが鳴る。それと同時に、振動が伝わる。朝が来たのだ。
学校に行くために、起きようとする。
目を開け、体を起こし、のびをしようとして…その動作を、僕は何一つ行えなかった。
体を上手く動かせない。指先ですら自由に動かせない。
その日の朝、僕は頭痛に襲われていた。
頭の痛さとそれによる眠気で、再び眠りに落ちてしまった。
起きて、という声が聞こえる。
体を揺さぶられている。
お母さんが僕を起こそうとしてくれている。
だけど、僕は起きることができない。この頭痛は、昼が過ぎるまでおさまることはない。
「今日…頭…痛い。」
なんとか声を絞り出す。今の状態を伝えようと。だけど。
「でも起きないと。頭痛いくらいじゃ休んじゃいけん。」
やっぱり、そう返された。お母さんは、僕のこの頭痛の辛さを、分かってはくれない。
「うぅ…。」
苦悶の声が漏れる。だけど、お母さんはそれに構うことなく、起きなさいを連呼する。
「学校行かないなら、お母さん弁当作った意味ないやん。」
一つ、僕の心に重いものがのしかかる。
「先生に電話するの嫌なんよね。すみませんって。」
また一つ、重いものがのしかかる。
お母さんが言葉を一ついう度、一つずつ心は重くなっていく。そして、とどめの言葉が。
「じゃあ、今日休むのね。」
これを言われると、僕は休みたいと言いにくくなる。
僕はもともと、大きな事情がないのに学校を休むは悪いことだという考えを持ってしまっている。風邪や病気、もしくはお葬式みたいに、重たい事情で休むのは仕方がないが、頭痛や腹痛といった軽い理由で休むのはサボりと同じなんじゃないか、と思ってしまっている。実際は、頭痛や腹痛だって軽い理由なんかじゃないのに。だからこの言葉は、僕には〝学校をサボるんやね〟という風に聞こえてしまうのだ。そして、それより前に言われる言葉のせいで、より一層自分が悪いことをしてるように感じる。この問いかけには、僕はいつも何も返すことができない。言葉を返す代わりに、毛布の中に潜る。
「学校休むんやけ、ちゃんと寝ときいよ。携帯触ったりしんなよ。」
この言葉も、僕にとっては辛い。お母さんはいつも「何か辛いときは言ってね。お母さんはいつでも楓桜華の味方だから。」と言ってくれるが、こういう事があるのでその言葉を信じることが出来ない。本当に味方なら、僕が頭が痛いと言った時、あんなことは言わないはずだ。
そんなことを延々と考えながら、僕は眠りに落ちるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
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