第三章 異質な少女
前回のあらすじ:ぶっちゃけこの文いらないって思い始めた()
「石井は、途中から転校してきた奴なんだけど、なんか変なやつなんだよ。お前も結構変な奴だが、お前とはまた違った感じに変だった。」
「僕の事は今は良いよ…。それより、どんな感じに変だったんだ?」
「そうだな…なんか、目が違った。」
「目…?」
「そう。まるで、〝私に関わるな〟っていう目だった。それでクラスの女子達が中心となって石井を虐め始めて、それがクラス中に広がったって感じだ。石井は顔が可愛くなかったし、逆にその女子達はとびきり可愛いもんだから、当然っちゃ当然だな。」
…なんだか、話してると気分が悪くなってくる。ただ、今は話を聞かなければ。
「他の理由は何かあったのか?」
「石井の奴、お父さんがいなくてね、それも理由だったけな。とにかく、異質だったんだよ、石井は。」
片親だから、虐められた。
「随分と…」
随分と、理不尽だ。
「ん?」
「…いや、何でもない。」
「まぁ、下手に石井と関わんねえことだな。でないと。」
「でないと、なんだ?」
「お前も、俺達に虐められるよ?」
つまり、だ。こいつも舞を虐めていた一人ということか。
頭に血が上っていくのが分かる。拳が握られていて、それに力が入っていくのを感じる。
隣に座って話しているこの男を、殴り飛ばしたい。
だけど。
だけど、その気持ちは抑えた。
今殴っても、何も生まれない。舞が幸せになるわけでも、こいつが反省するわけでもない。
「とりあえず、理解できたよ。」
そう言って僕は屋上を立ち去り、一人になったところで一言。
「お前達が、クズだってことがな。」
っと、そう呟くのだった。
他の人からも少し話を聞いたが、ほとんどの人が似たような話をした。その度に僕は怒りを抑え込むのに必死になったので、特段と疲れた。舞が虐められたのは、片親であることが主な理由だった。人をはねのけるような目の話をする人は少なかったが、片親の話はほぼ全員がしていた。
舞は、ずっと理不尽に虐められてきたのだ。片親なのは、舞が悪いわけじゃない。仮に事故か何かでいなくなったのなら、舞はどれだけ辛かったのだろうか。
「何かできねぇのかな…」
僕には、舞の辛さが分かる。僕も、虐められていたから。
舞を、救いたい。
でも、どうすれば救えるのだろうか。
あの時、僕は友達が欲しかった。味方が欲しかった。つまり、僕が舞の味方になれば舞を救えるのかもしれない。
「なら、とりあえず舞と友達にならないとな…。」
味方になるには、まず信頼を得なければならない。信頼を得るためには、まずは友達にならないといけない。そう考えた僕は次の日、行動をするのだった。
今日も舞は教室に現れなかった。担任の先生にも聞いたが、今日も欠席だという連絡があったらしい。だが、僕だって普通に教室で話せるとは思っていない。会えるとしたら、きっと。
そうして昼休み、階段を上り、扉を開け、その場所へ足を踏み入れる。
「やっぱりここにいたか、舞。」
「あら、久しぶりね。」
舞は、屋上でのんびり空を眺めていた。
「弁当はもう食ったのか?」
「いや、まだよ。」
「なら、一緒に食おうぜ。」
そう言って、適当なところに座り、弁当を広げる。一方で、舞は困ったような顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「いや、私弁当持って来てないのよね。」
「え、それお腹すかないのか…?」
「すくはすくけれど、慣れたわ。」
「…もしかして、いつも持ってきてないのか?」
「そうね。そんなものを用意する時間も余裕もないもの。」
「親は作ってくれないのか?」
「そうね。」
衝撃だった。僕の家では、朝お母さんが僕に弁当を持たせてくれる。中学校には学食もあるのだが、僕は一度も食べたことがない。必ず毎日弁当を手渡しくれるのだ。
でも舞は、弁当どころかお昼ご飯すらないのだ。
舞の親は、どういう気持ちでこんなことをさせているのだろうか。
「食えよ。」
気付けば僕は、舞に弁当を向けて、そんな言葉を言っていた。
「一緒に食おうぜ。僕の母さんの弁当、すげぇうめえんだから。」
「え…でも、良いの?」
「良いに決まってんだろ。美味しいもんは誰かと食った方がより美味しいってもんだ。」
「…ありがとう。頂きます。」
そうして、舞は玉子焼きを一切れ口にいれる。
「あら、これ美味しいわね。」
「だろ?」
「えぇ、とっても。」
そうして、二人で弁当を食べ続けた。二人で食べたからか、数分で完食してしまった。だが、色々な話ができて楽しかった。
そして僕は、ある程度話しのキリが良くなった時に、とある話を切り出した。
「なぁ舞。僕と友達になってくれないか?」
舞は、少しだけ悩んでいたが、やがてこう言った。
「よろしくね、綾さん。」
丁度その時、昼休み終了のチャイムが鳴るのだった。
とりあえず、友達にはなれた。だが、これはスタート地点に立っただけに過ぎない。ここから信頼を得なくてはならないのだ。だが、どうすれば良いのだろうか…、
「おい綾、ぼさっとしてないでちゃんと掃除しろ。」
「これは失礼…って、お前らも掃除してねぇじゃねぇか。」
声をかけてきたのは同じ掃除場所の山宮だったのだが、そんなこいつも綺麗な床の上を箒で撫でているだけだった。もう一人の貴島なんて、まだ埃を集めていないのに塵取りを抱えている。まぁ、人間なんてそんなもんだろう。特に男子なんて、大体ろくでもないことしかしない。
「俺らは良いんだよ。」
どんな理屈だよ。まぁ、まともなことを期待するだけ無駄なのは最初から分かってる。というわけで、僕は一人で坦々と掃除をする。後十分…後九分…後…。
「あと五分以上もあるって長すぎだろ!」
お前がそれを言うかよ。何にもしてねぇのに。
そうしてやがてチャイムは鳴り、午後の授業が始まり、終わり、終礼をして、今日の学校が終わる。後は、のんびり帰るだけだ。
「部活もないしな。」
その瞬間、近くにいた人が驚いた顔でこっちを見て…そして即座に、嫌なものを見たという顔をした。どうやら、また独り言を言ったらしい。
「相変わらず嫌われてんなぁ…。」
今日は早いところ帰ろう。
…いや、やっぱり少し寄り道をして帰ろう。今日は、あいつが仕事が休みで家にいるはずだ。
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