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出会いにもいろいろあります。
さて、この出会いは・・・・?
お互いになんとなく顔に見覚えがあった。
でもそれだけ。
名前も、学部も、知らなかった。知る必要もなかった、どうでもよかった。
もしも出会う、という行為が「お互いをしっかり認識し合う」というものならば
わたしは今日、初めて彼に出会った。
もしも出会う、という行為が「お互いの名を名乗り合う」というものならば
僕は今日、初めて彼女に出会った。
出会いは運命なんかじゃない わたしは
僕は
≪運命≫に出会ったんだ。
●●●Side.Y●●●
見事なフルスイングを見せた女は、表情に考えていることがすべて浮かんでいた。
「あれ?見られてた?ヤバいかな?」
「というかこの人どっかで見たような・・・」
「とりあえず無罪を主張しよう!」
おそらくこんな流れだと思う。
「きゃあ!藤堂先生!!大丈夫ですか~!?」
ものすごい勢いでパイプ椅子を真後ろに投げ捨てた後、これ以上ない棒読みで、頭部を変形させた・・・というより目玉も半分飛び出ているんじゃないか、コレ・・・老人に声をかける女。
無理があると思う。
でも、まあ、そこはどうでもいいし。
「これ本当に藤堂先生?人相変わってたからわからなかった」
だって顔、ひしゃげてるし。
目玉、飛び出しそうだし。
もともと、顔に興味ないし。
「えーと、いきなり倒れたんです!そう!バッタリと!ドッサリと!!」
とりあえず、彼女は殴ったことをなかったことにしようとしているのはわかった。
「顔、へこんでるね」
「うっ」
「あんなところに、パイプ椅子があるね」
「ううっ」
「さっき、キメてたよね」
「うううっ」
「こう、勢いよくキレイなフォームでガッコーンと」
「うう・・・う?」
「うっかり見惚れちゃったよ・・・完璧な技だった・・・」
「・・・う?」
「あそこまでパイプ椅子を見事に使いこなすひとはなかなかいないよね」
「あの・・・えーと、あの。もしかして褒めてくれてます?」
「もちろんだよ。名前を聞いてもいいかな?僕は山下優輝っていうんだけど」
藤堂先生を知っているみたいだし、今日あるはずだった講義にいつも出席していたんだと思う。自信はないけど。
半年同じ講義に出ていてなんとなくしか互いが分からないって・・・と自分のことながら苦笑がもれる。
「はあ、どうもご丁寧に。相沢杏奈です」
未だ「?」を頭上に浮かべそうな彼女・・・相沢杏奈と僕は、こうして出会ったのだ。