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029:敵討ち

 生方さんの予知能力は本当に凄かった。

 大体30分くらいのタイムラグかなって言ってたけど、実際に測ってみたら平均して40分前から怪のことを察知することができるのだ。

 しかも、複数に感じることもできるし、どこが早く出てくるかなども感覚で分かるのだという。


 この生方さんの予知能力のお陰で、怪との戦いが捗って仕方がなかった。

 今までは滅怪より到着が遅れてしまって、10体中4体くらいしか戦うことが出来なかったのだが、今では10体中8体の怪と戦うことが出来ている。


 怪と効率よく戦うことができるようになったことで、俺のレベルも1つ上がって今はレベル8になっていた。

 しかし、等級が低い怪と戦っていても得られる魂が少ないのか、レベルの上がりが遅いのが現在の悩みだった。

 レベルのことだけを考えるのであれば、そろそろ怪の国の霊獣の森の奥地にいる霊獣と戦った方が効率的かも知れない。

 怪の村の様子も気になってはいるので、また怪の国に行って一度様子を見ても良いかも知れないな。


 ちなみに凛音には、お昼休憩の時に生方さんのことを紹介した。

 紹介したと言っても、凛音には生方さんのことを見ることが出来ないので、生方さんがいる方向だけ教えて挨拶をさせた感じだ。

 第三者から見たら、凛音が壁に向かって自己紹介をしている変な人に見えたことだろう。

 しかし、そんな状況でも真面目に自己紹介をするのだから、凛音はやっぱり良い人だなって思うのであった。


 このような生活を送って2週間ほどが経過して、3月も下旬に近付いてきた。

 その間に一年の総決算となるテストが行われたのだが、なんとか成績を落とさずに学年2位をキープすることができた。

 3位だった凛音はとても悔しがっていたが、俺も美湖に勝てなかったことを悔しく思っていた。


 テストも終わったことで、春休みが近付いて来たこともあり、周りは結構浮かれモードになっていた。

 しかし、俺は内心焦っていた。

 生方さんの仇がまだ日国に現れていないのだ。


 まさか、もう来ないのか?

 それとも、すでに倒されてしまった?


 もうすでに倒されてしまっていたなら、それはそれでも構わないと思うのだが、生方さんの気持ちを考えると俺の手で倒したいと思ってしまう。


 この日も仇ではない怪を倒し終わったので、家に帰ってゆっくりしようと思いながら、黒衣と一緒にのんびりと歩いている。

 すると、突然影の中から生方さんが飛び出してきて、「来るわ! 仇の怪がこっちに来る!」と大声を出した。


 俺たちはのんびりモードから切り替えて、すぐに怪が出現するポイントまで出来る限りの速度で向かった。

 この怪だけは俺たちの手で倒さないとダメなんだ。




 ―




 俺たちがポイントについて10分位したら、上空の空間がグニャリと歪んだのを確認した。


 ついに現れるのか。

 俺が気を引き締めたその時だった。



『詩庵様! これから出てくる怪は2等級相当です! お気を付けください!』



 今までにないくらい緊張感のある声で、黒衣が俺に警戒しろと言ってきた。

 俺も黒衣ほどではないが、目の前に現れようとしている怪の霊装が、今まで対峙してきた怪とは比べ物にならないことを察する。


 俺は先手を取るために、怪が完全に出現する前に斬りつけようと飛び上がる。

 しかし、俺の狙いなどお見通しと言わんばかりに、俺の攻撃を弾くと一瞬で隠世を展開した。



「ヘッヒャ。なんだお前? 滅怪とかいう奴らの仲間なのか? あいつらの魂は良質だからなぁ。わざわざ喰われにきてくれてありがとなぁ」



 2等級だからなのだろうか。

 この怪の見た目は化け物ではなく、まるで人間のようだった。



「うるせぇ。喰われに来たわけねぇだろうが! おめぇのことをぶった斬るために来たんだよ!」


「ヒャヒャヒャヒャ! やれるもんなら、やってみなぁ」



 怪は右手に幅の広い刃のついた、柄の長い太刀――つまり青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを具現化させて襲いかかってくる。



(速い!)



 俺は想像以上の速度で迫ってくる怪の攻撃をなんとか防いだが、2撃目3撃目と立て続けに攻撃をされて防戦一方になってしまった。



(くっそ、この怪マジで強えな……)



 怪は「ヒャハハハハ」と笑いながらも、攻撃の手を緩めることはない。

 しかし、いつまで経っても攻撃が当たらないことにイライラし始めたのか、怪の攻撃が大振りになり、どんどんと雑になっていった。

 俺はその一瞬を見逃さずに、青龍刀を受け流して怪の胴に黒天を切り付けながら脇をすり抜ける。



「ヒャハァ。お前なかなか強いじゃんかよ。それだけ強い魂はどれだけ美味いんだろうなぁ」



 舌なめずりしながら、青龍刀を肩に担いで再び俺に向かって走り出そうとしたその瞬間に、俺は怪の元へ向かってダッシュをした。

 まさかの俺の動きに虚をつかれた怪は、先ほどの俺のように防御するしかない状態になっている。



(この怪は確かに力はあるけど、技量は高くなさそうだな)



 俺は、先ほどの攻撃を受けていて、怪の攻撃は力に任せた強引なものだと見抜いていた。

 防御も甘く、反射神経の速さでなんとか対応しているという感じだ。

 実際に怪の身体には黒天の切っ先は届いている。

 だが、致命傷まで持っていくことができなかった。

 人間に攻撃されていることが気に障ったのか、怪の表情は怒りに歪んでいる。



「調子に乗るなよ人間んんん!」



 怪の左手に2本目の青龍偃月刀を具現化して、防御だけではなく攻撃も仕掛けてくる。

 一本でも決め手に欠けていたのに、もう一本で攻撃をされてしまうと攻撃だけするわけにはいかなかった。

 このままだと攻守が入れ替わってしまう。


 怪が持つ青龍偃月刀は中距離でこそ真価を発揮する武器だった。

 なので、俺はあと一歩怪の懐に入るため、強引に間合いを詰めた。



(ここまで入ったらあとは一方的に斬り込むだけだ)



 俺は相手よりも小回りが効く黒天で、何度も斬りつけて傷を負わせていく。

 傷が増えるたびに、相手の魂が弱っていくのを感じる。

 怪も危機感を覚えたのだろう、刃ではなく柄で無理やり殴ってきた。

 その攻撃が肩に当たって弾き飛ばされてしまった。



「許さんぞ、クソ人間が。俺にここまで傷をつけた貴様のことを八つ裂きにしてくれるわ!」


「吠えるな雑魚が。人間風情にボロボロにされてる奴が偉そうなことを言うなよ。日和ってねぇでさっさと来いや」



 この怪はひょっとしたらまだ子供みたいなものなんじゃないだろうかと思っていた。

 いくら格下だと思っている人間に攻撃をされたからといって、こんなにも怒りを顕にするものだろうか?

 そう思った俺は、わざと挑発をして相手の攻撃を単調にしようと考えたのだ。


 ぶっちゃけさっきの攻撃で、俺の肩の骨が折れてしまったみたいなんだよな。

 そのため俺にも余力なんて一切なかったのだ。

 なので、俺は相手を挑発することで大振りになることを狙っていた。振りかぶったその隙をついて斬りつけるつもりだ。



「死ねぇぇぇ! 人間がぁぁぁぁ!」



 思った通り怪は、全力の一撃を放つために、青龍偃月刀を大きく振りかぶってこちらに向かってきた。

 しかし、ダメージを受けている影響なのか、怪のスピードは最初に比べて格段に落ちている。


 俺は怪と同様に次の一撃に全てをかけるために、中段で黒天を構えて全神経を集中させる。

 俺の纏う空気の変化に気付いたのか、怪が一瞬動揺したことが分かったが、それでも勢いそのまま青龍偃月刀を振り抜いてくる。

 大振りになった青龍偃月刀の太刀筋は乱れていた。



「天下一刀流――太刀の型――――天下崩し(てんかくずし)



 天下崩しは、振り上げた刀を袈裟斬りに

 する技だ。天下一刀流の技は、勁を練ることで普段以上の力を引き出すことが出来る。

 霊装とは違う力を使うため、連続すると強い疲労で身体が持たなくなってしまうので使い所は見極める必要があった。


 天下一刀流の極意を使った俺の剣筋は鋭く、後から振るったにも関わらず怪の体を一刀両断した。



「ぐっ、がぁ……。馬鹿な、この俺様が人間如きにやられるなんて。やっと2等級までのし上がったというのに……」



 徐々に体が崩壊していく怪を見て、俺は生方さんを影の中から出てきてもらう。



「生方さん。こいつがキミの仇だ。この怪に止めを刺すのは俺じゃなくて、生方さんがやった方がいいと思うんだ。だけど、どうするかは生方さんに任せることにするよ。もし自分の手で仇を取りたいと思うなら、刀を握ってる俺の手を掴んでくれ。一緒に振り下ろそう」



 怪のことを睨み続けている生方さんは、俺の手を迷わず握ってくる。

 そして、俺の目を見て、コクリと小さく頷くのであった。



「や、やめろ……」


『五月蝿い! 私の大切な人たちを、無慈悲に殺したお前の言うことなんて聞く訳が無い! みんなの苦しみをお前も味わえばいいのよ!』



 生方さんは、掴んだ俺の腕に力を入れて、迷わず怪の眉間に刀を突き刺す。

 怪は「ゲッヒャ……」と漏らすと、粒子となって完全に消滅した。



『うっ、うぐっ……。やったよ。パパ、ママ……和也。みんなの仇は私がちゃんと取ったわよ』



 生方さんの仇を取ることができて本当に良かった。

 だけど、今はここでゆっくりしている訳にはいかない。

 思ったよりも長いこと戦ってしまったので、ひょっとしたら滅怪がそろそろ来てしまうかもしない。

 その展開は流石に歓迎できないので、俺は生方さんのことを落ち着かせて、影の中に戻ってもらった。


 俺はここから離れるために、隠世から飛び出したが急に俺の目の前に何者かが飛び込んでくるのが目に映った。



 ガキィィィン



 不意打ちの一刀はなんとか防ぐことができた、しかし……。


 くそ、最悪の展開だ……。

 まさかの襲撃を受けて、俺は急いで辺りを見渡して状況判断を行う。

 俺の周りには、漆黒の羽織を着た十数人の滅怪が刀を向けて包囲をしていた。



「貴様に聞きたいことがある」



 俺に声を掛けてきたのは、まるで宝塚の男役みたいに凛々しい表情をした女性だった。

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