探偵、坂井
2200年、人間の技術は空想を超えた。 空も飛べれば腕に核を仕込むことも出来る、ワープも出来れば目からレーザーも撃てる、俺が探偵業を営む街はそんな世界の中心、スウェーレシティだ。
堂々と[坂井探偵事務所]を設立したものの、最初の依頼人は反政府のテロリストだった。 そいつはスウェーレシティの暴徒鎮圧部隊隊長であるイヴァークの調査を俺に依頼してきた。 報酬に目が眩んだ結果が牢屋行き、一年の業務停止を命じられ、今の俺は賊だった頃と何ら変わりない状況だ。
事務所で安物の身体強化薬を摂取し、これからどうするかを考える。 あのクソテロリストを殴りに行くのも良いかも知れない、そう考えながらモニターに映したニュースを見る。 ニュースにテロリスト共の衛星衝突テロの映像が流れた。
「テロリスト如きが! 舐めやがって!」
せっかく掴んだ俺の事務所、こんなことで台無しにされては困る。 奴らには代償を払ってもらわなければならない。
義手の戦闘プログラムをアクティブにし、賊時代の装備を床下の隠し倉庫から取り出す。
三十年前のワープ技術を巡る戦争によって左腕を失くし、軍を退役することになった俺は、長い間強盗、窃盗、などを繰り返して生き延びて来た。
そんな中、軍時代の友人の助けもあり、探偵事務所に就職した。 キャリアを積み重ね、自ら事務所を立ち上げるまでになった。
テロリスト共への怒りは、もう止まらない。
一年振りに義手のミサイル発射口を点検し、防弾コーティングされたバイクヘルメットを被る、仕上げに分厚いコートだ。 この格好になるのは賊をやっていた時以来だな、調子も出て来た。 奴等を血祭りにあげてやる。
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あらかじめ付けていた発信機を追いかけ、テロリストのアジトへたどり着いた坂井は、ミサイルの誘導機能をONにし、照準を扉へと合わせ、発射した。
義手の掌から小さな砂時計のようなものが飛び出る。 砂時計は蜘蛛の巣状に分解され、一つ一つが弾丸の形をとり、扉へ命中した。
扉が破壊され空いた入り口の前に立った坂井を待ち受けていたかのように、テロリスト達がレーザーガンの銃口を向け、発射した。 坂井はミサイルを自分の足元に向けて撃ち、上空に逃れ、右腕の義手をレールガンへと変化させ、テロリスト達を撃ち抜いた。
依頼者のテロリストを探し、坂井はアジトの奥へと入る。 最初の一発がかなり効いていたようで、中は既に半壊していた。
一人、テロリストが起き上がる。 坂井は生き残りのテロリストに挨拶をした。
「よお、こないだの礼だ。 取っとけ。」
「貴様、これは街への反逆だぞ!!」
坂井は困惑した。 テロリストでは無かったのだ。 安物の身体強化薬が自分に幻覚を見せていたらしい、今更、気づいた所で遅いが。
坂井の脳裏に賊の頃の記憶が色濃く映る、ミサイルを警察へと向けた。 警察もレーザーガンを坂井に向ける、街に響いたのはどちらの音だったのか、誰も知らない。