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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢使いは闇に跋扈する

作者: 衣谷強

家紋 武範様主催「夢幻企画」投稿作品です。

一番乗り、かな?


この作品は、学生時代に書いたものの焼き直しになります。悪夢使いという設定の厨二臭さはそういう事です。

といっても元データは吹っ飛んでいるので、頭の中に覚えているストーリーを、あれこれ引っ掻き回しながら書き出した、新作と言っても過言ではないかと。


何に予防線を張っているのか分からなくなって来ましたので、ひとまず本編をお楽しみください。

「お前か。腕利きの殺し屋と言うのは」


 神経質そうな初老の男の言葉に、目の前の青年は恭しく頭を下げた。


「初めまして魚籠うおかご社長。わたくし夜雌馬やしまつかさと申します」

「名前なんぞどうでもいい! お前が証拠を残さず人を殺せるのかどうかを聞いている!」


 魚籠と呼ばれた男の剣幕に、司は肩をすくめる。


「誤解の無いようお願いいたします。私は殺し屋ではなく悪夢使い。人に悪夢を見せるのが仕事でございます」

「悪夢!?」

「ま、結果として社長に取って邪魔な人間を排除する事は出来るかと思いますが」

「ふざけるな! 夢ごときで人が殺せるか!」

「おや、社長は悪夢の力をご存知ない様子」


 司はポケットから手袋を取り出すと、右手にはめながら魚籠に歩み寄る。


「な、何をする気だ!? く、来るなぁ!」

「夢なんかで人は殺せない、そう仰ったのは社長ではないですか」


 言った瞬間、司の姿は魚籠の目の前にあった。その視界が黒い手袋で塞がれる。


「や、やめ……!」

「良い夢を」


 と言った瞬間、司の姿がかき消えた。


「な、何だ!? どこに消えた!?」


 辺りを見回す魚籠の耳に、奇妙な音が滑り込む。


 ふしゅるるる……。


「!?」


 振り返った魚籠の目の前には、


「へ、蛇!?」


 馬すらも飲み込めそうな大蛇の姿があった。


「ひ、ひいぃ、助け、助けてえええぇぇぇ!」


 尻餅をつき、後退る魚籠。そんな無駄な抵抗を、蛇は獲物の活きの良さと見たのか、嬉しそうに目を細める。


「わっ……」


 次の瞬間、大蛇が猛然と飛びかかって来たのが見えたかと思ったら、魚籠の視界は闇に包まれた。


「な、何だ! 何も、何も見えない!」


 辺りを探ると、生暖かく、柔らかい感触。その蠢く物が蛇の腹だと知り、魚籠は絶叫した。


「だ、出してくれぇ! 出して……っ熱っ!?」


 熱湯が当たったかと思うような痛みに額を擦ると、べろりと剥がれ落ちる皮。胃酸に溶かされている事を理解した魚籠を恐慌が襲う。


「い、嫌だ! 嫌だあああぁぁぁ!」


 身体のあちこちから、酸が服や皮膚を溶かす音、肉が溶ける嫌な匂いが立ち上る。半狂乱になって辺りを押したり叩いたりするが、


 ぽきり。


 その手から嫌な音が聞こえた。

 それが皮と肉が全て溶かされ、剥き出しの骨が砕けた音と認識した魚籠の精神は限界を迎え、悲痛な絶叫が


「はいここまで」

「ひぎゃあああぁぁぁ……、あ、あれ?」


 暗闇が消える。へたり込んだ魚籠の目の前には、にこにこと微笑む司の姿。


「な、何が、一体……?」


 身体を見回すが、服にも身体にも、溶けて折れたはずの手にも傷すらない。


「これが私の能力です。触れた人間に見せたい悪夢を見せます」

「夢……?」


 恐怖感が抜け、安堵が広がると共に怒りが湧き起こる。


「ふざけるな! これで何が出来る! 所詮は夢! 鼠一匹殺せはしないではないかっ!」

「えぇ、ですから殺し屋ではないと」

「人を虚仮にするのもいい加減に……!」

「ですが社長、今の夢を毎晩見せられたら、どうなりますかね?」


 はっと息を呑む。あれほどリアルで強烈な悪夢、ほんの数分で発狂しそうになった。それが毎晩……?


「大抵の方は頭がおかしくなって、衝動的に死を選びます。しかし脳の中身を見る事は出来ません。つまり」

「証拠は残らない、か……」


 計画の筋道が見えた事で、魚籠には心の余裕が出来た。


「では頼むとしようか」

「ありがとうございます。ではターゲットの情報を頂けますか?」


 社長は用意しておいた封筒を手渡す。


「拝見いたします。『魚籠うおかご 天夢てんむ』……ふむふむ、これは……」

「実の兄だ」

「それはそれは」


 小馬鹿にされたと感じた魚籠が怒鳴り声を上げる。


「その男は! 父が死んだ時、音楽家になるなどとぬかして会社を放棄した! なのに今になって女に入れ揚げ、財産を幾らか寄越せなどとほざく寄生虫だ! 処分して何が悪い!」

「私はそう言った背景はさして考慮いたしません。こちらの望む報酬を頂けるかどうかでございます」

「……幾らだ」

「一億」


 魚籠は一瞬息を呑む。だが人一人の命、対価としては相応なのかも知れないと考え直す。


(それにあいつが死ねば、俺が預かっているあいつ名義の財産も全て俺の物だしな……)


「分かった。支払おう。手付けに一千万、残りは奴が死んでからだ」

「承知いたしました」


 魚籠は、指紋認証でロックを解除したクローゼットからアタッシュケースを取り出すと、司へと手渡した。


「どれくらいかかる?」

「個人差はありますが、半月耐えた方はいらっしゃいません」

「分かった。一月後、また会おう」


 にこやかな笑みを残して、司は社長室を後にした。




「社長! 大変です! 天夢様が……!」

「騒ぐな。既に警察から報せは届いている」

「し、失礼いたしました!」


 先代から仕えていた老秘書の肩が震えている。


「……残念でございます……! 身一つでこの家を飛び出し、音楽で身を立てる、その夢があと少しで叶うところでしたのに……!」

「やめろ」

「……恋仲となった同じオーケストラの方の借金を何とかしてあげたいと、ここに来たのが最期になってしまいましたな……」

「やめろと言っている」

勝明かつあき様! 何故あのような……!」

「黙れ! 出て行け!」


 秘書はその肩が震えているのを見て、自分の無礼を恥じた。


「……差し出がましい事を申しました。失礼いたします」


 部屋に一人になった事を確認した魚籠は、


「くくくくく……、くっははははっ! あーっはっはっはっはー!」


 堪えに堪えていた笑いを解放した。


「死んだ! やっと死んだ! あのクソ兄貴! これで親父の遺産は全て俺の物だ!」


 悪魔のような哄笑が部屋を埋め尽くしていく。


「あんなコブ付きの女に惚れたから、預けていた金を返せだと? そんなくだらない事に金を使えるか! 馬鹿め!」


 怒りと笑いが入り混じり、狂気と言って差し支えない顔で魚籠は部屋を歩き回る。


「そうだ! あの女、俺が買ってやるか。娘が確か小学生、そっちも楽しめそうだしなぁ。くくく、くひひひひひ!」


 ひとしきり下卑た笑いを上げると、魚籠は一息ついた。


「さて、後は仕上げだな……」




「社長、ご無沙汰しております」

「うむ、夜雌馬君、だったか。実によくやってくれた」

「お気に召したようで何よりです」


 社長室に通された司は、最初の時のように恭しく礼をした。


「まさか電車に飛び込むとはな」

「悪夢が続くくらいなら死を、私の力はそう言ったものでございますから」

「実は素人を雇って事故に見せかけようとした事もあったのだが、やはりプロが一番だな」

「お褒めの言葉、恐縮でございます。それで……」

「分かっている」


 魚籠は大きなアタッシュケースを机の上に置いた。


「残りの九千万だ」

「ありがとうございます」


 ケースの取っ手を掴む司。


「では社長、また御用命がありましたらお知らせください」

「いや、もう頼む予定はない」

「はい?」


 次の瞬間、強烈な電気が司を襲う。


「我が社の開発した防犯アタッシュケースだね。認証した指紋以外が三秒以上触れると、警告の上電気を流す。もっとも今は警報を切っていたがね」

「あ、が……」


 身動きが取れない司の首に、魚籠は注射針を押し込む。


「さて、夜雌馬君。君を紹介してくれたあの女、どこの誰だ?」

「な、内藤、舞愛まいな……。うちの、使用人……」

「ほほう、『消したい人がいるなら相談に乗る』などと言ってきたから、てっきり闇のネゴシエイターか何かだと思ったが、そういう事か」


 朦朧としている司の胸ぐらを掴み上げる。


「その女は今どこにいる」

「……このビルの、入口……。私の、帰りを、待っている……」

「それは有り難い。手間が省ける」


 そう言うと、魚籠は弛緩した司の身体を壁際へと引きずる。


「さて夜雌馬君。これが何かわかるかね?」


 魚籠がリモコンを操作すると、壁にぽっかり穴が空いた。


「ダストシュートだ。このまま地下の焼却炉に一直線。君は正に髪の毛一本残さずこの世から消え去るのだ」

「はえ……?」

「自白剤が効きすぎたか。面白くもない」


 魚籠はつまらなさそうにそう言うと、司を躊躇いなくその穴へと放り込んだ。


「さて、内藤、と言ったか? あの女はもう少し楽しんでから始末しよう。そうすれば俺の秘密を知る者は誰もいない! 安泰だ! はーっはっはっはぁ!」


 司を罠にかけたアタッシュケースを持ち、悪魔の笑みを仕舞い込むと、魚籠は部屋を出てエレベーターのスイッチを押した。




 ビルの入口で待っていた舞愛は、エレベーターを降りて、自分に向かってくる男に声をかけた。


「どうかなさいましたか?」

「どうもこうもないよ。あっさり殺されちゃった」


 そこにはアタッシュケースを持った司の姿があった。


「思った通り、天夢さんが死んだら、身の安全のために僕も舞愛も始末するつもりだった。舞愛なんか酷いセクハラされてたよ?」

「それ言う必要あります?」


 おちゃらける司に舞愛の目は冷たい。


「ではいつも通りに?」

「あぁ。蜂蜜色の夢(ハニー・ディップ)にどっぷり。これから先、どんな望みも叶う夢の中、さ」

「何年ほどでしょうか?」

「あのおっさんの欲張りっぷりからしたら、二十年くらいは出てこれないんじゃない? 富と女と権力、全部揃うまで飽きそうにないから」


 舞愛が軽い溜息を吐く。


「『現実に帰りたくなくなる程最高の夢』、これ以上恐ろしい夢も無いでしょうね」

「そう言う事。ま、点滴でもして貰えば死ぬ事はないから、ゆっくり夢を楽しめば良いよ」


 司は楽しそうに答えると、手付金一千万の入ったアタッシュケースを持ったまま歩き出す。


「じゃ、依頼主に報告に行くとしますか」

「しかしたった五百円の為に、ここまでなさるとは」

「彼女の全財産だ。不服はないよ。それに『お母さんの大事な人を守りたい』っていう小さな女の子の願いは、お金には代えられないからね」


 そう言うと、司は依頼主へのお土産を肩に担ぎ、隣に並ぶ舞愛にウインクをした。

読了ありがとうございました。

何というか、まぁ、バレバレでしたよね。べったべたな夢オチネタですみませんでした!

それでも当時誰の目にも触れなかった拙作が、こうして日の目を見たのは単純に嬉しく思います!

ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少女の大事な人を想う一生懸命な気持ちが優しい悪夢使いの心を動かしたのですね。 途中で電車に飛び込む、の辺りで作者様の作風から考えるとこの段階で夢かな?と思いました。 司さんの言うとおり、…
[一言] 夢幻企画の参加作品を拝読中です。不勉強な私には一読しただけだとちょっとよくわからなかったので感想欄を読んで何度か読み直して、そう言うことなんだ!と理解しました。このお話を学生時代にかけるって…
[一言] 夢幻企画から来ました。 私も悪夢系の能力で一つ書いてみようとしたことがあるのですが、これは……好きです! すっごく好き! 他の感想欄を見て、あっここから夢なのか、ふぉおお!ってなりました。…
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