第三話 初登校ならぬ初連行
「昨日結界を破ったのもあなた方のようですね……、ちゃんと入学手続きを踏んでいただければそんなことしなくてもよかったのに……はあ……手間が増える」
ため息混じりにそんなことを話したその人は、コツンと杖で地面を叩いた。すると私たちが破りながら入ってきたシダのカーテンが緑色に光る。その光はちぎれたシダの葉一枚一枚に伝わり、繋がっていく。その光がすべて消えたとき、そこには見事なシダのカーテンが復活してした。
「さてあなたたち、案内状は持っていますか?」
彼は紫の瞳で私たちを見た。和也の腕をつかむと和也も私の腕をつかんだ。私たちは目を合わせ、そして、和也は私から手を離すと両手で耳を塞いだ。
それを確認してから、私は――
「魔法使いじゃないですかー!!!!!!」
――雄叫びをあげた。
「えっうるさいですね」
「森に住む魔法使い!!!!!!百万回読んだやつですよ!!!!!!」
「え、本当にうるさいですね、なんですか、あなた……」
「勝った!!!!! 第三話完!!!!!」
「なんの三話なんですか?」
私が躍り狂っていると、ゲシ、と和也が背中を蹴ってきた。どうやら耳を塞いでいてもうるさかったらしく、その眉間に深い深い皺が刻まれている。
「落ち着けよ、明日美。今のところ不審者の可能性のが高いぞ」
「そんなことないです!!! 目が紫だもん!!!!」
「カラコンだろ」
「そんなことないですよ!!!!!」
私は和也の言葉を否定してから魔法使いの前に進んだ。彼は不審そうに私を見下ろしていたが、そのアメジストのような瞳に不審なところはない。胸ぐらをつかみ、その顔を引き寄せて「は? なんです?」と言う人の瞳を至近距離でのぞきこむ。まつげが刺さりそうな至近距離で見ても、コンタクトレンズは見えなかった。
「ほら、コンタクトじゃない!!!!!!」
「……随分と活きがいい子どもが来たもんですね……」
「明日美、帰ってこい。さすがに失礼だ」
和也に腕を引かれたので魔法使いから手を離し和也の横に戻る。魔法使いは私がつかんでいた服を払い、整えると「はあ」とため息をついた。
「……あなた方、魔法使いのお知り合いがいないんですか?」
「いるわけないだろ、なに言ってんだ」
「なに言ってるんですか、和也! あなたの隣にはいつも未来の大魔法使いがいたでしょう!」
「お前は黙ってろ! ……あんた、本当に自分が魔法使いとでも言うつもりか?」
黙ってろと言われたので私は口を閉じた。一方で、和也の質問にその魔法使いは肩を竦める。
「わたくしは『管理人』と名乗っています。必要なので魔法も使いますが、『魔法使い』を自称はしていませんよ。魔法を見たこともないような『隔離世界』の方々には分からないかもしれませんが、『こちら』では魔法は使えるものです。わざわざそんなもの名乗りはしないんですよ」
「……話が長い、要約しろ」
和也の睨みにその『管理人』は鼻をならした。
「要するに、あなた方はすでにこちらの世界の人間です。隔離世界の常識は持ち込まないでいただきましょうか」
コツン、と彼は杖で地面を叩くと、そこにまた緑の光が生まれる。
「私は隔離世界の方々は嫌いなんですよ……話が通じない。あとのことは『校長』から聞いてください」
「『校長』……? ちょっと待て! 俺たちはあの妙な城にはいるつもりはない!」
「え、入りますよ!」
「お前ちょっと黙ってろ!」
緑の光は私たちに向かって延びてきていた。
「要するに」
その管理人は疲れたようにまた、ため息をつく。緑の光が私たちの足首をつかんでいた。
「あなた方の意見なんて聞いていません。とっとと校長室に向かってください」
「は!? ふざけんなよ!」
「魔法だ! これ魔法ですよ、和也!」
「お前は黙ってろってば!!!」
しかしその緑の光はわたしたちの足を勝手に動かし出した。まるで足首に鎖をつけられたみたいに無理矢理引っ張られ「すごいすごいすごい!」と興奮する私と「なんだ! やめろ、誘拐だぞ!!」と騒ぐ和也は跳ね橋をわたり、強制的にその城――『魔法学校』に入ることになった。