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美少女新人議員達の挑戦!~あなたはこの法案に賛成ですか、反対ですか?

作者: 祭影圭介

 若者の政治への関心を高めるため、朝廷の命を受けた宮内省により、ジュニア議会が設立された。


 毎年十件ほど審議され、その後インターネットを活用した国民投票にかけられる。


議会で扱われる内容は、時間をかけられる議題と、若者の未来にすごい影響する法案などが、既得権に影響を受けにくい若者の判断に委ねられた。


 今年の大きな議題は、ベーシックインカム、食品添加物の規制問題、組織罰、仮想通貨、カジノ、同性婚、女系天皇を認めるかなどだった。


 議員の資格を得られるものは十六~三十五歳までで、小学生でもわかるように国民にわかりやすく伝えるのが仕事だ。


 国民投票制度ができてから参議院は廃止され、先代の帝、桜神天皇(現上皇)により、宮内省管轄の桜神学園が設立された。


 国家の未来を担うエリート(ジュニア議員)の育成を役割とし、中学から大学まで全寮制の男女共学で学費無料。成績優秀な者はTⅤ討論等で活躍した。


 しかし厳しいことでも有名で、夏休みであっても実社会を知るため、大人並みに働いてくる教育プログラムなども多く組まれていた。




 その桜神学園の教室――


 赤い縁の眼鏡を掛けた女教師が、制服姿の生徒達の机の間を歩く。


 先生の名前は、城咲真美佳。


 髪は明るい茶髪のショートカットで、黒いスーツを着用し、タイトスカートにストッキングを履いている。


 年齢は二十代後半、背は160センチほどだ。


 男子生徒達は皆、若く美しい先生の方を見ながら話を聞いていた。


 高校三年生の生徒達には、タブレットとペンが支給され、全員机の上に出していた。


 今日は組織罰についての授業だった。


 人が人を殺したら殺人罪に問われるが、会社などの組織が事故で人を殺しても、何の責任も問われない。


 安全を軽視して重大な事故が起きた場合、組織に高額な罰金などを課すというのが、組織罰である。国民投票を一月後に控えTⅤ、新聞、ネットで議論が深まっていた。


「我が国では現状どんな大きな事故を起こしても、会社などの法人の刑事責任は問うことができません」


 教室前のモニターに、鉄道の脱線事故やバスが崖から転落している映像が映る。


「このような事故がいくつも起こっています。わかる人?」


「はい! 西日本帝国鉄道脱線事故、格安バス転落事故」


 城咲の問い掛けに、後ろの方の席から男子生徒が大きな声で答える。


「運転手の人は亡くなってしまったんですよね?」


 先生の近くに座っていた女子生徒が発言した。


 名前は、島津紫真(しま)


 背は160センチほどで、体重は五十キロ代前半になんとか抑えている。


 桜色の半袖のブラウスに、涼しくするためか襟元はボタンを外し、大きく開いている。


 長い黒髪のポニーテールが特徴だ。性格は活発で、運動も得意だった。


「ええ、残念ながら…‥。そして何十人も亡くなる大事故を起こしながら、社長達は無罪だったり、とても軽い罪で済んでいます」


「経営者がもっと安全に配慮していれば、そもそも事故は起きなかったかもしれない――。被害者の遺族の方は本当に悔しくてやりきれないと思います」


 紫真の後ろに座っている少女――莉奏佳奈恵が言った。


 背は140代後半。


 狐のような小顔で、セミロングの黒髪を左右に分け胸元まで伸ばしている。


 胸はまだ未発達で、色白でやや痩せ型の体型だった。


 白いブラウスに桜色の半袖のベストを着用し、襟元にきちんとリボンをつけている。 


 教師からの評判も良い優等生タイプだ。


 教室前のモニターに図が出る。


 法案審議→採決(国会または国民投票)→公布→施行。


 城咲が教壇に戻り解説した。


「本来法律には、法の不遡及という概念があり、実際にこの日からやりますと施行した日以降でないと犯罪が起きても罪に問えませんでした」


「新しい法律ができるまで悪いことし放題だった!」


 紫真が大きな声で主張した。


「そう。でも社会の変革の早さに対応するため、法律が可決されれば、法案審議まで遡り効力を及ぼすことができるようになりました」


「先生、男子が女子の着替え覗いたら、学園の女子全員からビンタされる決まりを作りたいです!」


 佳奈恵が授業とは関係のない発言をしたが、城咲が調子を合わせた。


「じゃあ今度審議しましょう。審議から施行までの間は、男子は悪いことしないように」


 えー!


 と一部の男子生徒があげた後、多くの生徒達が笑う。


 そこでチャイムが鳴った。




 学園内のカフェテラスにて、紫真と佳奈恵は、城咲先生と昼食を取っていた。


 窓際のテーブルに、紫真と佳奈恵が並んで座り、向かい側に城咲がいた。


 紫真が愚痴をこぼしながら、プリン、コーヒーゼリー、プチケーキと次々にスイーツを平らげていく。


「成績・素行が不良のものは容赦なく留年、退学。まったく遊ぶ暇もない」


「高二、高三が新人お披露目で大事な時期なんだから頑張りなさい」


 城咲は、ゆったり珈琲を飲みながら教え子に付き合っていた。


 佳奈恵は、カップのアイスをスプーンで食べている。


「毎年夏休みは2か月みっちり実習だったから、去年よりはマシかな」


「そうそう。新聞配達、漁の手伝い、精神的には生活保護の現場がきつかったけど、介護施設は連続夜勤でフラフラになった」


「保健所の殺処分、農場で乳牛の乳搾り、保育。去年は沖縄のコールセンターに缶詰で毎日客から罵倒され、泣いたら余計怒られた」


「世界を見ればもっと幼いうちから働いてる子どもなんかたくさんいるし、親御さんたちは働きながら子供も養ってるのよ」


 先生の指摘に、は~と、深い溜息をつく二人。


「今まで見てきて感じたこと、疑問に思ったことたくさんあるでしょ。この前の街頭演説のように思い切りぶつけていきなさい」


「見ててくれたんですか」


 紫真が、ぱっと表情を輝かせる。


「見てたわよ~。あなた達の成績が悪いと私の給料も減るんだから。そりゃもう真剣に」


 すみません……、と小さくなる紫真と佳奈恵。


 城咲が話題を変えた。


「今学期も今日で終わったし、夏休みは田舎でも帰ろうかな」


「最新型のバスにはなるべく乗らないでください。アップデートがバグだらけです。バージョンを古い方に戻してあればいいんですが……」


 佳奈恵が言った。


「ああ、ニュースで話題になった自動運転プラグラムのバグ。あれ、全部直ったんじゃなかったんだっけ?」


 紫真が聞いた。


「開発元の外資系企業からはそう発表されてるけど、うちの理想未来研究所のチームが徹夜で調べながら、まだおかしなところがあるんじゃないかと反論してます。向こうは直ったの一点張りですけど」


「うちの方は田舎だから大丈夫。自治体もお金無いし。そんな最新型のバスなんか走ってないから」


 城咲が笑いながら、ないないと手を振った。


「とにかく色んなとこで活躍しなさい。企業協賛のアイドルコンテストみたいなアホなイベントや学園側が主催する弁論大会。何でもいいから出まくって鍛える!」


 はい! と二人とも勢いよく返事する。 


「youtubeで動画をひたすらUPしまくるでもいい。自分の主張が共感を得ることができるか。悩んだらそこ。人々の心を掴めるか考える」


 なるほど~と二人は、感慨深げに頷いた。


「先生なんで議員すぐにやめちゃったんですか? もったいない……」


 佳奈恵が質問し、紫真もそれに続いた。


「絶対お姉ちゃんなんかより実力あるのに。一緒にやりましょう!」


 城咲が、うーん……と、珈琲をスプーンでかき混ぜながら考える。


「そうね~、通したい法案もあるし……。その時期が来たら――、って感じかな。あ、紫真がお姉ちゃんを倒したら教えてあげてもいいかも」


 紫真がびっくりして、素っ頓狂な声を上げる。


「なにそれ!? 何その条件!? あと三年……五年ぐらいあれば、ランキングで抜いて見せるかも」


「頭脳、おしとやかさ、人望……、どこを取っても一生無理でしょ。紫真ガサツだし」


 佳奈恵が、からかった。


 紫真がひどい~と言いながら、親友のアイスをひったくろうとする。


 そんな二人を見て城咲は笑った後、職員室に戻ると言って、飲み終わったコーヒーカップを持ち、去って行ったのだった。




 夏休み――


 ドーム型のスタジアムで開催されている、水上アスレチックの水着イベント。


 スタジアム内は老若男女、大勢の観客達で埋め尽くされ、すごい熱気と興奮に包まれていた。


 巨大モニターに、四人の水着姿の女性達が映し出される。


 二十七歳ぐらいの大人の女二人と、高校三年生の少女が二人、手を振りながら現れた。


 島津唯奈、ロウラン・オーガスタチームVS 島津紫真、莉奏佳奈恵チームとモニターに字幕が表示されている。


 司会の男の声が響いた。


「さあ注目の姉妹対決! 本日の議題はこれ!」


 モニターに文字が表示され、スロットのように回転する。


 スロットの文字は、『ベーシックインカム』の次の、『食品添加物』のところで止まった。


「今日こそはお姉ちゃんに勝つ!」


 拳を握りしめて闘志に燃えている紫真。


 黄色の水着姿が眩しく、程よい健康的な肉付きをしていて、胸やお尻はそこそこある。


 初々しく、元気一杯という感じのポニーテールが揺れていた。


「唯奈さん、総合ランキング三位だもんね。憧れる」


 佳奈恵は、やせ型で控えめな胸をパレオのついたエメラルド色の水着で隠している。


 二人は、観客に手を振りながら自分の陣地に入った。


 ウォーターガン、水風船とバズーカ、石鹸などの水遊びの道具が、テーブルの上に置いてある。その脇には可愛らしい女性用のリュックや大きな浮き輪のボートもあった。


「初戦の、仇討ち制度の復活。良いと思うんだけどな~」


 紫真がインカムを耳に装着しながら呟いた。


「大切な人を殺されたら仇討できるっていうやつ?」


「そう。通り魔は被害者の遺族全員から狙われる。心神耗弱で無罪なんておかしいでしょ」


「日本は加害者がやたらと保護されてるとは思うけど……。刑務所入ってもすぐに出所するし」


 お互い腕に時計をつけ、動くことを確認。


「前回の児童虐待がテーマのときは、子供を殺した親の死刑を主張したけど負けちゃった……」


「虐待を受けた子供が毎日熱湯をかけられていたとしたら、親も刑罰として毎日でしょ――。私が刑務官だったら精神病んじゃいそう――」


「そうか~。そこまで考えてなかったな~」


 紫真がウォーターガンを持ち、スタートラインに立った。


 陣地の旗が自動で立ち、そして大歓声が上がる。 


「紫真はちょっと過激なんだよ。初めてのチーム戦、よろしくね」


 にっこり笑う佳奈恵に、紫真は親指を立てた。


 モニターでは、司会の合図と共に、カウントダウンが始まった。


 3、2、1とゆっくり表示が切り替わり――


 GO!


 再び上がる大歓声と共に、ウォーターガンを持った紫真は敵陣へと走り出した。


 司会が本日の議題を投げ掛ける。


「日本では諸外国に比べて、多くの食品添加物が認められています。規制すべきでしょうか?」


「企業は毒を売って儲けている。当然規制すべき!」


 紫真がはち切れそうなぐらいの大声で叫んだ。


 そこへ彼女の顔目掛けて勢い良くウォーターガンの水が飛んでくる。


 十メートルぐらい離れたところから攻撃を仕掛けているのは、彼女の姉の島津唯奈。


 背は妹の紫真より5センチ程度高い。


 長い黒髪にきりっとした顔立ちをしている。唇にはピンクの口紅を塗っていた。


 紫の水着のむちむちボディが魅力的で、大人の色香が漂う。


「例えばどんなものが使われているか、よく知らない人もいると思うんだけど?」


 お互いアスレチックの物陰に隠れ、激しく打ち合う。


 彼女達の間は、最短のルートだと滑車の付いたロープで、行き来できるようになっている。但し途中で滑って、水の中に落ちたら即失格だ。


 他にも遠回りだが、急な坂の上り下りや丸太渡りなどがあった。


 二人の声は会場内のスピーカーから聞こえていた。


 紫真が例を出す。


「インジェクションという人工的な技術で百種類ほどの薬を入れ、柔らかく形を整えた成型肉のハンバーグやステーキ。法律で表示義務と罰則があるのに、外食するお店では表示が無い。ファミレスとかチェーン店では、よく安くて美味しいお肉として出されてるのに」


「表示すると売れないから消費者に隠す。さらに精米改良剤というプラスチックが原料の薬で、古いお米も美味しくぴっかぴか~」


 佳奈恵が後を続けた。彼女は前に出ず、紫真よりさらに十メートル程度後方の陣地に留まったまま石鹸水を作り、自分のウォーターガンに詰めている。


「そうね。じゃあ外食を一切しないで、これから全部自炊する?」


 唯奈の発言に、紫真が言葉を詰まらせる。


「うっ……、そうは言ってない」


「あなたが大好きなポテトチップ、もう一生食べない? 百円のアイスも」


「食べる楽しみをみんなから奪う悪者だ!」


 もう一人の参加者、ロウランが突如会話に割って入った。


 彼女は自分の陣地で、ドロドロの粘液の入った水風船をせっせと何個も作っていた。


 170センチほどの長身で、赤い水着のナイスボディ!


 顔や肌は妖精のように白く美しく、長い金髪が揺れる。


「それに毎日たくさん食べれば毒かもしれないけど、技術が発達したおかげで保存がきくようになった。それが無ければ早く腐ってしまう。地震の時のカップラーメンも、コンビニのおにぎりも被災地に届けられない」


 唯奈が言った。


 モニターに映し出された、唯奈・ロウランチームの『いいね』の数値が溜まっていく。


「ただ規制すればいいという単純な問題ではなく、一長一短があるので、もっとよく考えましょう」


 ロウランは子供に優しく諭すように発言した後、パンパンに膨らんだ小さな白いリュックを背負い水風船バズーカを担いで、唯奈に加勢した。


 十メートル程離れたところから、バズーカを紫真目掛けて発射する。


 ボン!


 きゃっと紫真が短い悲鳴をあげた。


 弾は彼女の胸のあたりに当たって破裂し、べとべとの液体がへそや太腿にくっつき、水着が染みになっていく。


「や~ん、気持ち悪い」


 ぬるぬるで身動きがとりづらいようだ。足を踏み出そうとするが、思うように進まず滑りそうになる。


 唯奈がチャンスと思い距離を詰める。


 ターザンのようにロープを渡って、妹のいるフィールドへ降りようとする。


 そこへ佳奈恵が、石鹸水の入ったウォーターガンを、ぶしゃ~っと床に向かって勢いよく噴射した。


 着地の瞬間バランスを崩す唯奈。


「痛ぁ~」


 盛大に尻もちをつき顔をしかめているものの、なんとか水の中には落ちずに済んだ。お尻を手でさすっている。


「外食や中食でも表示を義務付け、成分表示をもっとわかりやすくして、罰則も厳しく課し、買うか買わないかは、消費者の手に委ねられるようにした方がいい!」


 佳奈恵がしゃべりながら、味方の援護をするために自分の陣地を抜け出した。


 島津姉妹の距離は三メートルほどまで縮まっていた。


「そうよ。よくジュースに入っている添加物があるんだけど四種類あって、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖、異性化液糖……、みんな似たような名前で、どれが一番危険なのかわからないじゃない!」


 ぶつぶつ言いながら、自分の水鉄砲で粘液を落としている紫真は、滑らないよう気を付け、姉から距離を取ろうとする。


「ちょっと危ない、ヤバイ、超ヤバイ! とかそういう名前にしたほうが、遥かにわかりやすい!」


 二人の主張に、紫真・佳奈恵チームの『いいね』の数値が溜まっていく。


 唯奈が立ち上がり、床にウォーターガンを噴射して石鹸を洗い流した後、いきなり妹に向かって頭から突進した。


 うわっ


 不意を突かれた紫真がよろけ、その上に唯奈が覆いかぶさるようにぶつかって、二人とも盛大に滑ってコケた。紫真は仰向けに、唯奈はうつ伏せに倒れている。


 会場からは観客の大笑いする声が聞こえ、野次が飛んでいた。


「もう~、お姉ちゃんのバカ!」


「今日は転んでばっかりね……。でも妹だからって手を抜かないわよ」


 幸い怪我も無かったようで二人はすぐに立ち上がり、睨み合いながら取っ組み合う。


 佳奈恵が紫真の後方二メートルぐらいまでの距離に迫っていた。


 唯奈がロープを返さなかったのでロウランは渡ってこれず、遠回りするしかない。


 二対一で不利と悟ったのか、彼女はくるりと身を翻し妹に背を向け、ロープを掴みに行った。


「させるか!」


 追う紫真。


 彼女に捕まりそうになるよりも一足先に唯奈はロープを掴み、地を蹴って体を宙に浮かせた。


「逃がさない!」


 紫真が大きく手を伸ばし、身を乗り出そうとする。


「行っちゃダメ!!」


 佳奈恵が一際大きな声で叫んだ。


「うわっ」


 だが間に合わず、紫真はロウランのバズーカが放った弾を顔面に喰らい足を止める。


 そこに唯奈が戻ってきた。


 彼女は自分の陣地まで戻らず、体を傾けて途中の柱に上手く手と足を引っ掛けて止め、素早く両足で逆方向に蹴ったのだった。


 ターザンのようにロープにぶら下がった姉のキックが炸裂し、紫真は勢い良く外に吹っ飛んだ。彼女は悲鳴をあげながら、派手な水飛沫とドボン! という大きな音をたて、プールに落下したのだった。




 注目を浴びるため、また本人達の息抜きのために、たまにわざとアホなことをやっている・やらされている議員達だが、普段は真面目に議会で討論したり、勉強に励んでいた。


 夏休みだが、桜神学園では希望者や選抜者を対象に特別講習が行われ、図書館や自習室は一杯だった。


 まるで欧米の大学のようだ。


 紫真は平日の午後、城咲先生の研究室を訪ねていた。


 先生達には個室が与えられていて、仕事机と応接ソファセットがあり、周りの書棚は本で埋め尽くされている。


 先生は今日も相変わらずズーツだった。


 エアコンの効いた室内で、二人はソファに面と向かって座り、冷たいお茶を飲んでいる。


 先日の試合では負けたが、『いいね』の数が姉を上回ったので、なぜ議員をやめたのか、こっそり教えてもらうことになっていた。


ただ、まだ佳奈恵や他の人には、内緒にしておいて欲しいという。


 なぜ秘密なんだろうと思ったが、後でちゃんと言うから――と、その時はうやむやにされてしまった。


「次の法案、同性婚だけど、どういう考えを持っているの?」


「同性婚ですか……。別にいいんじゃないですか? 誰かにすごい迷惑を掛けている訳でもないでしょうし、本人達の自由にさせてあげれば――」


 紫真の答えに、城咲は少しほっとしたような表情になった。優しい口調で質問を続ける。


「随分、寛容ね。多様性を認め、受け入れるということはとても良いことだと思う。……でも、よ~く考えて。あなたが同性愛者でなくても、あなたに将来子供が出来て――、例えば息子が同性同士で結婚したいと言ってきたら、どうする?」


「う~ん……」


 その問いに紫真は黙り込んでしまった。


 今まで考えたこともない問題だ。


「孫の顔とか見れなくてもいいの?」


 城咲はお茶を飲みながら、彼女の答えを待った。


「自分がおばあちゃんになったとき、見たいといえば見たいし、でも本人の気持ちもできれば尊重してあげたいし……」


 紫真はまだ眉間に皺を寄せて、腕を組みうーんと唸っていた。


 しかし賛成・反対といった、はっきりとした答えは、なかなか出てこないようだ。


 雰囲気がなんだか重くなってくる。


 続いている沈黙を破って、城咲はゆっくりと口を開いた。


「一度ね……、紫真のお父さんのところに、挨拶しに行ったの。唯奈と一緒になりたいって――」


 紫真が意味を理解するのに数秒がかかった。


「ええ!?」


 まさか身近な人が、姉とそういう関係だとは思っていなくて、彼女は二人が裸で絡んでいる姿を想像してしまい、顔を赤くして固まっていた。


 あわあわしている教え子の様子を見て、城咲がくすっと笑う。


「全然、知りませんでした……」


「見られたらどうしようってドキドキもしてたけど、でも大事なことだし、いつか話さなきゃいけないと思ってた……」


 すっきりした表情の城咲。


 だから佳奈恵や他の人には内緒なのか――と、紫真は思った。


 先生がお義姉ちゃんになったら……、どっちがウェデイングドレスを着るんだろう?


 この場合、二人共なのだろうか?


 気分的には先生とお姉ちゃんを応援したいけど……


 うちの家、お父さんは頭固いし――


 相談できる人もいないし、どうしたらいいの?


 と、紫真は頭の中で色々なことを考えていた。


「今まで他人事に考えていたのが、一気に身近な問題になったでしょ?」


「は、はい……」


「私達は、日本で認められなければ移住もありうる。その場合、あなたが家を継ぐことになるかもね。だから、私達がいなくても平気なぐらい頑張ってね」


「え――? ちょっ……、ちょっと待ってください」


いきなり家を継ぐことになるかもと言われて、紫真が再び動揺していると、先生はさらに驚くようなことを口にする。


「私達は同性愛カップルということを公表し、次の選挙には私も出馬する。二人とも議員で初の同性愛カップルを目指す」


 城咲は急に真面目な表情になって告げ、紫真が愕然として言葉を失っていると、話はこれでおしまいというふうに彼女は立ち上がった。


 彼女は紫真の質問を抑え、小さなキャリーケースを持ち、これからすぐリニアに乗って田舎に帰るから――と、急いで一緒に部屋を出るように促した。


 色々聞きたいことがあったが、仕方なく紫真は言われた通りにする。


 研究室の鍵を閉めた後、二人が並んで廊下を歩いているとき、城咲が言った。


「これは誰にでも起こりうること。自分がいざ当事者になると意見が変わることもあるでしょう。自分がどういう立場をとるのか、ゆっくりじっくり真剣に考えなさい」


「はい。夏休みの間に、お姉ちゃんにも話を聞いて、じっくり考えることにします」


 紫真は立ち止まって、はっきりとした口調で答えた。


「そうしなさい」


 にっこり笑うと先生は背を向けて、去って行ったのだった。

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